パブリックリレーションズと言われると「はて?」と思われるかもしれないが、PRと言われればすぐに何のことかおわかりになるだろう。ただしこのPRを、単なる広告宣伝のことだと勘違いしてはいないだろうか。
パブリックリレーションズとは、広告のみならず企業がステークホルダーに対して情報発信するすべてのことを表す。今回は、ステークホルダーと良好な関係を保つためのパブリックリレーションズについて解説していく。
目次
パブリック リレーションズとは
もともとパブリックリレーションズ(Public Relations)は、第二次世界大戦の終戦後、GHQ(連合国総司令本部)によって日本にもたらされた。GHQは日本国内の各県にパブリックリレーションズ・オフィスの設置を命じ、その役割を「県民に政策を提供し、県民の自由な意思を発表させる」とした。ここから国内の公共機関に「広報広聴課」のような部署が設けられ、日本のパブリックリレーションズが始まったという経緯だ。
これ以後公共機関だけでなく一般企業にもパブリックリレーションズが普及していくことになるのだが、「広聴」という言葉が示すようにパブリックリレーションズ本来の意味は、一方的な情報の送りつけではなく相互的なコミュニケーションであることがわかる。
また、パブリックリレーションズに関わる著書を多く発表している加固三郎は「PRとは、公衆の理解と支持を得るために、企業または組織体が、自己の目指す方向と誠意を、あらゆる表現手段を通じて伝え、説得し、また、同時に自己修正をはかる、継続的な対話関係である。自己の目指す方向は、公衆の利益に奉仕する精神の上に立っていなければならず、また、現実にそれを実行する活動を伴わなければならない」と定義している。
つまりパブリックリレーションズとは、関係する双方の関係性構築および維持のためのマネジメントであって、ビジネスにおいては企業とその企業を取り巻くステークホルダー(利害関係者)との「好ましい関係」を創り出すための考え方および活動を意味する。
パブリックリレーションズと広告の違い
パブリックリレーションズをPRと略したときに、よく勘違いされるのがPRは広告宣伝である、という思い込みだ。確かに自社のサービスや商品を公衆に広く知らしめるための活動も、PR活動と呼ばれることがある。
パブリックリレーションズと広告(Advertising)の違いは、そこに金銭の取引を伴う関係性が介在するかどうかだ。広告とは、金銭を支払って商品やサービスを紹介するスペースや時間を買うことであり、広告を請け負った側は取引が成立すれば原則的に広告を行わなければならない。一方広報とも呼ばれるパブリックリレーションズは、発信した情報をメディアなどに取り上げてもらう強制力はなく、情報の取捨選択権はあくまで情報を受け取った側にある。
つまり情報をステークホルダーに送り届ける強制力を持つか否かが、パブリックリレーションズと広告の一番の違いと言えるだろう。
企業を取り巻くステークホルダーとは
パブリックリレーションズとは、企業とその企業を取り巻くステークホルダーとの「好ましい関係」を創り出すための考え方および活動と定義したが、そもそもステークホルダーはどのような存在なのだろうか?
顧客(消費者)
企業と取引を通じ、商品やサービスなどの「価値」という利益を受け取る立場のステークホルダーが顧客だ。この「価値」とは顧客が認識している正しい価値でなくてはならず、たとえば数年前にあった食品偽装や賞味期限偽装事件などは、企業が顧客の認識(信頼)を裏切った代表的な事例といえるだろう。
近年はSNSの発展もあり、顧客とのコミュニケーション手段は格段に増えている。それだけにパブリックリレーションズを行う機会も多く、発表内容や発表方法には細心の注意が必要になっている。顧客に限ったことではないが、失ってしまった信頼を取り戻すのは容易なことではないからだ。
株主・投資家
企業に資金を提供し、経営状況により利益の還元を受ける立場のステークホルダーが、株主や投資家だ。企業と株主・投資家は、企業が自らの企業価値を高める努力を怠ると株主や投資家からの資金提供を受けられなくなる(投資されない、もしくは資金を引き揚げられる)という関係にある。
従業員
自社の構成員ではあるが、企業と従業員は労働を提供し対価として給与を受け取るという利害関係にある。自社内にいるため見逃されがちであるが、健全な企業運営のために双方は良好な関係を保つ必要がある。
ビジネスパートナー(取引先)
どのような業態であれ、企業は単独では存続できない。仕入れ先や販売先、事業連携などを行う場合も含め、ビジネスパートナーとの信頼関係は重要だ。相手から見れば、ステークホルダーと良好な関係が築けていない企業には、その企業の存続について疑念が生じてしまうことだろう。安定した企業運営のためには、ビジネスパートナーとの信頼に基づく良好な関係が必要だ。
地域社会
安定した企業運営のためには、地域社会との良好な関係も必要だ。1950年代から1960年代にかけては光化学スモッグなどの公害が社会問題となったが、このような事件への真摯な対応を怠ったがために事業が継続できなくなった企業も多い。地域社会の理解がなければ、企業は存続できない時代となっているのだ。
政府・行政機関
納税や雇用など公益的使命を有する企業としては、政府や行政機関とも健全かつ適切な関係を保っておく必要がある。
パブリックリレーションズの手法
ではパブリックリレーションズとは、具体的にどのようなことを行うのだろうか?どのような目的で行うのかも併せて確認していこう。パブリックリレーションズは、大きく社外向けと社内向けに分かれる。
社外向けパブリックリレーションズ
・記者発表(記者会見)、プレスリリース
各メディア(新聞、テレビ、ラジオ、雑誌など)に向けて、発表の概要と日時、場所を連絡し会見を行う。または記事の投げ込みなどでプレスリリースを行うが、その目的は情報の受信者を限定せず、広く自社の情報を発信したい場合に行う。
・株主総会、IR情報での経営状況報告
株主総会での発表内容やIR情報(経営状況や財務状況、業績動向に関する情報)は主に自社の株主に向けた経営状況の報告が目的だ。上場会社であれば、株主でなくともこの情報は入手できる。
・WebやSNSを使った情報発信
インターネットのメディアを通じて、主に顧客(消費者)に向けて情報発信を行う。
近年ではWebなどによる一方的な情報発信ではなく、SNS(Twitter、Facebook、Blogなど)を使った双方向的なコミュニケーションが主流になりつつある。情報の拡散力に魅力がある一方、炎上事件などを起こす可能性もあり取り扱いには細心の注意が必要だ。
・業界紙や専門誌などへの記事投稿
主に取引先やパートナーへの情報発信を目的として、業界紙や専門誌を活用する。広告とタイアップした記事なども多いが、主は情報発信のため広告とは区別して考えることが多い。
・CSRレポート
CSR(Corporate social responsibility )とは、「企業の社会的責任」のこと。企業が地域社会に存在する限り、環境や社会に何かしらの影響を与えている。CSRレポートは、地域社会や社会全体に対して自社が地球環境や社会環境に配慮しながら事業活動を行っていることを報告するためのものだ。
社内向けパブリックリレーションズ
・社内広報
社内広報は、イントラネット上に開設したポータルサイトや社内報などを通じて行う。経営目標の浸透や人事など社内情報の展開、社内コミュニケーションの促進などを目的としたものだ。
パブリックリレーションズの効果と注意点
パブリックリレーションズの効果は、自社の理念や経営状況、CSR活動などを広く伝えることで、社会全体に自社の価値を認識して貰えることだ。
広告との違いは先述のとおり金銭のやり取りが発生するか否かだが、情報の公開に強制力のないパブリックリレーションズは、一般的に信頼性が高いととらえられる傾向にある。たとえば、プレスリリースを通じて発信された情報を記事として取り上げるか否かは、メディアに任されているからだ。
それゆえ嘘や情報の隠蔽、倫理観やコンプライアンス意識が欠如したパブリックリレーションズは、致命的なイメージダウンとなる。パブリックリレーションズを行う際には、正しい情報公開とステークホルダーに対する真摯な姿勢が必要だ。公開に際しては、社内での発表内容チェックも、二重三重に行いたい。
パブリック リレーションズの成功事例2つ
では実際にパブリックリレーションズで自社の価値を上げることに、もしくは認識してもらうことに成功した例を紹介していこう。
オイシックス
野菜やミールキットの宅配サービスを展開するオイシックスは、夏休みで子どもに対する世話(家事)が増える母親へのメッセージを「#かあちゃん楽しい夏休みをありがとう」というキャンペーンを通じて発信した。
人気キャラクターの「クレヨンしんちゃん」が母親への感謝を語る内容のキャンペーンであったが、オイシックスはこのパブリックリレーションズを通じて、自社のサービスそのものの宣伝ではなく、オイシックスが「お母さんのために何ができるだろう」と考える企業であることを伝え話題となった。
パンテーン
P&Gのヘアケアブランド「パンテーン」は、全国の中学校や高校で問題となっていた「地毛証明書」の問題についてパブリックリレーションズを行った。地毛証明書とは生まれつき髪の毛が茶色の生徒が、学校に対して自分は髪の毛を染めていないと証明するためのもの。2010年代の当時には、「ブラック校則」として論争を巻き起こした。
パンテーンは「#この髪どうしてダメですか」というキャンペーンを通じて、個性を尊重することと多様性を受け入れる大切さを伝えた。髪の毛に起因したパブリックリレーションズではあるが、合理性を欠く差別に対する企業の考え方を強く打ち出した内容で話題となった。
企業は単独では存続できない
自己中心的な考えの企業が存続して行ける時代は、とうの昔に過ぎ去った。自社を取り巻くステークホルダーに対して、真摯に向き合う姿勢こそが現代の企業には求められるのだ。パブリックリレーションズの手法は使い方次第だ。成功事例のようにしっかりとした考えのもとに行えば、情報発信をビジネスチャンスに変えることもできるだろう。
文・長田小猛(ダリコーポレーション ライター)