大量閉店、ブランド廃止、希望退職者募集……アパレル大手ワールドは苦境を乗り切れるのか
(画像=beeboys/stock.adobe.com)

アパレル大手、ワールドの苦境が鮮明だ。新型コロナウイルスの影響で経営状況が悪化する中、2月3日に450店舗の閉鎖と7ブランドの廃止、そしてグループ内で希望退職者を100人募集することも発表した。コロナ禍を乗り越え、果たして無事に復活を果たせるのか。

コロナ禍以前から売上減が顕著だったワールド

ワールドは、1959年にニット婦人セーターの卸売業からスタートとした。子供服分野やメンズ分野への進出などを通じて事業を拡大し、自社ブランドの好調な売れ行きを背景に、2002年3月期には売上高2,000億円を、2007年3月期には売上高3,000億円を突破した。

しかし近年は、売上高が減少傾向にある。2015年3月期には年間売上高が3,000億円を割り、2019年3月期には2,498億円、2020年3月期には2,362億円まで売上高を落とした。そして、このような状況下で起きたコロナ禍により、ワールドの売上はさらに減少している。

ワールドが2021年2月3日に発表した、2021年3月期第3四半期の連結業績(2020年4月~12月)の売上高は、前年同期比27.2%減の1,328億4,800万円だ。今期の通期(2020年4月〜2021年3月)の売上高は、1,780億円に着地する見通しだという。

売上高の落ち込みに伴い、今期は最終損益が黒字から赤字に転落する見通しだ。すでに第3四半期時点で78億2,000万円の赤字となっており、通期ではその赤字が175億円まで膨らむ見通しだという。

収益力向上に向けた構造改革案を発表

元々業績が悪化傾向にあったワールドだが、コロナ禍によって赤字転落するまでのダメージを受けた理由は、店舗の臨時休業や外出用の衣類の需要の落ち込みなどが大きい。

特に、1度目の緊急事態宣言が出された2020年4月は、直営店の約9割に相当する2,227店舗の臨時休業を余儀なくされ、売上に大きな影響が出た。その後、全店で営業が再開されたが、高い集客力を誇っていた百貨店などの店舗でも、客の戻りはいまだ緩慢な状況だ。

このような中でワールドは、収益力の抜本的な向上に向けた構造改革案を取締役会で決議し、店舗の大量閉鎖とブランドの廃止、リストラ策について公表した。それぞれどのような内容なのか。

7ブランド廃止で「選択と集中」加速へ

まず、収支改善に向けた取り組みとして行うのが、7ブランドの廃止だ。廃止するブランドは、南カリフォルニアスタイルを特徴とする「JET(ジェット)」や、働く女性などをターゲットに展開する「Sunauna(スーナウーナ)」などだ。

これらのブランドの終了は、顧客の購買行動の変化などを踏まえたもので、ワールドは「新たな市場変化に対応した事業ポートフォリオを整え、『選択と集中』を一層加速するための判断」と説明している。

低収益店など450店舗を閉店

収益性が低い店舗も閉店させる。2022年3月期までに閉店させる店舗数は、450店舗に上るという。ちなみに、上記の7ブランド廃止に伴う閉店は104店舗に上る。

希望退職者をグループ内で100人募集

人件費という固定コストの圧縮にも乗り出す。同社の資料によれば、グループ内のフィールズインターナショナルとワールドストアパートナーズで、希望退職者を計100人募集する。対象となるのは40歳以上の社員で、退職日は4月20日を予定している。

また、希望退職者の募集に加え、取締役と執行役員の2022年3月期の賞与をゼロとすることも発表した。

市場環境がさらに悪化してしまう可能性も

ワールドは前述のような打ち手に加え、自社EC(電子商取引)のさらなる強化を通じて、近年の売上減、そしてコロナ禍による苦境を何とか乗り切ろうとしている。構造改革案を好感してか、2月に入って同社の株価は回復傾向にあり、投資家からの期待感も決して小さくはないようだ。

ただし、コロナ禍が年内には完全終息するとは思えない状況では、ワールドの完全回復にはまだまだ時間がかかることは間違いない。

新型コロナウイルスのワクチン接種がそろそろ日本国内でも始まるが、国民が広く接種済みの状況となるには相当な時間がかかる。もし、ワクチンが効かない変異種が猛威を振るう状況になれば、市場環境は回復どころかさらに悪化してしまう。

苦境が続くアパレル業界、まだまだ楽観できない状況

民間調査会社の東京商工リサーチによれば、新型コロナウイルス関連の経営破綻(負債1,000万円以上)で、「アパレル関連(製造・販売)」は飲食業に次ぐ件数となっている。具体的には、2020年2月からの集計で92件の経営破綻が起きている。

この中には上場企業のレナウンも含まれており、上場企業でもコロナ禍を耐えきれない例が出てきている。同じく、上場企業のワールドも業績が厳しい状況が続けば、経営破綻とまではいかなくても、さらなる事業縮小やリストラから逃れられないかもしれない。

文・岡本一道(金融・経済ジャーナリスト)

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