近年、物流業界ではモーダルシフトと呼ばれる施策が注目されている。その注目は全国的に広がりつつあり、現在では国土交通省もモーダルシフトを積極的に支援している。そこで今回は、モーダルシフトの概要やメリット・デメリット、成功事例などをまとめた。
モーダルシフトとは?
「モーダルシフト(Modal Shift)」とは、長距離間の貨物輸送をより環境負荷の低い輸送手段に転換することだ。具体的には、これまでトラックなどの自動車によって行われていた輸送を、鉄道・船舶などを使った輸送に切り替えることを指す。
近年になって、モーダルシフトは多方面から注目されるようになった。例えば、かつてモーダルシフトは「500km以上の長距離輸送でないと実現が難しい」と敬遠されてきたが、最近では輸送距離300km~400km程度のモーダルシフトの事例も増えてきている。
国土交通省がモーダルシフトを推進する目的と背景
モーダルシフトに注目しているのは、物流業界の企業だけではない。国土交通省も1991年からモーダルシフトに着手しており、特に2016年10月に物流総合効率化法が改正施行されてからは、積極的にモーダルシフトを推進するようになった。
では、なぜ現代社会においてモーダルシフトが注目されているのだろうか。その点を明らかにするために、モーダルシフトの主な目的を見ていこう。
○モーダルシフトの主な目的
・温室効果ガス(CO2)の排出削減
・流通業務の省力化や効率化
・ドライバー不足への対策
モーダルシフトと聞いて環境対策をイメージする方は多いが、実はモーダルシフトの推進には「ドライバー不足」も大きく関係している。現代では、ニーズに対するドライバーの数が大きく不足しており、ドライバー不足によって倒産に追い込まれる企業も現れるようになった。その波は全国的に広がっており、いまやドライバー不足は物流業界にとって死活問題ともいえる状態だ。
このような状況を打開するために、国内では多くの物流企業がモーダルシフトに力を入れている。特に近年では、モーダルシフトに取り組む企業が増えた影響で、自然災害発生後の輸送方法としても鉄道・船舶などが用いられるようになった。
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モーダルシフトを推進する主な支援策
次は、国土交通省が実施するモーダルシフトの支援策を紹介していこう。以下を見て分かるように、国土交通省はさまざまな角度からモーダルシフトを推進している。
物流総合効率化法による支援
物流総合効率化法(流通業務の総合化及び効率化の促進に関する法律)とは、流通業務の効率化を図る事業に対する計画の認定や、支援措置などについて定めた法律だ。この法律の適用を受けた企業は、以下の支援策を利用できるようになる。
・法人税や固定資産税、都市計画税の減免(※営業倉庫が対象)
・市街化調整区域に物流施設を建設する場合に、開発許可の面が配慮される
・モーダルシフトに関する計画策定経費や運行経費の補助
上記のうち、計画策定経費や運航経費の補助については、募集期間が1ヶ月程度であるため注意したい。2020年度分はすでに終了したが、二次募集が実施される可能性もあるので、最新情報は常にチェックしておこう。
グリーン物流パートナーシップ会議の開催
グリーン物流パートナーシップ会議とは、物流企業の連携や排出量削減などを支援するための会議だ。企業・団体・個人のいずれも参加することができ、参加者は以下のようなメリットを得られる。
・事業者間の連携を深められる
・モーダルシフトの成功事例を学べる
・優良事業者に該当すると、表彰を受けられる
事前の申し込みは必要になるものの、高い参加費用などが発生することはない。知識づけの場として最適なので、物流業界の最新事情などを手っ取り早く身につけたい経営者は、ぜひ参加を検討してみよう。
企業がモーダルシフトに取り組むメリットとデメリット
ここまでを読むと、モーダルシフトの導入にはメリットしかないように思えるかもしれない。しかし、モーダルシフトには企業が注意しておきたいデメリットも潜んでいるため、安易に導入することは控えるべきだ。
では、モーダルシフトには具体的にどのようなメリット・デメリットがあるのか、以下で簡単に紹介していこう。
モーダルシフトに取り組むメリット | モーダルシフトに取り組むデメリット |
---|---|
・CO2の排出量を削減できる ・ドライバー不足が解消される ・一度に大量の荷物を輸送できるようになる ・輸送距離が長いほど、大きなコスト削減を見込める | ・輸送にかかる時間が長引く ・港や駅での積み替えが発生する ・鉄道のダイヤや天候によって、輸送が遅れる可能性がある |
ドライバー不足の解消につながる点、一度に運べる荷物の量が増える点などは、モーダルシフトを導入する企業にとって大きなメリットだ。特に輸送距離が500km以上になる場合は、大幅なコスト削減も期待できる。
しかし、輸送手段をトラックから鉄道・船舶に変えると、ケースによっては輸送時間が大きく長引いてしまう。また、港や駅での積み替えによって、輸送物の品質が低下するリスクも軽視できない。
例えば、生鮮食料品や壊れやすい品物を運ぶ業者にとって、輸送時間の間延びや揺れによる品質低下は死活問題にもなり得る。つまり、現段階ではモーダルシフトの恩恵を受けられる業者は限られているため、上記で紹介したデメリットはきちんと受け止めることが重要だ。
モーダルシフトは実際に進んでいる?導入を妨げる主な要因
国土交通省が支援している影響で、近年ではモーダルシフトを導入する企業が着実に増えてきた。2019年度のグリーン物流パートナーシップ会議では、7件の企業が優良事業者として表彰を受けており、大企業を中心としてモーダルシフトの波は全国的に広がりつつある。
しかし、導入を妨げる要因・課題がいくつかある影響で、モーダルシフトをなかなか進められない企業が多いことも事実だ。モーダルシフトの導入を妨げる要因としては、上記で紹介したデメリットのほかにも以下の点が挙げられる。
・急な出荷増減への対応が難しい
・導入にあたって「倉庫費用」など、新たな経費項目が必要になる
・コンテナサイズに合わせた荷づくりに手間がかかる
モーダルシフトを導入するとなれば、社内の物流システムを総合的に見直さなくてはならない。特に、現状の管理体制では急な出荷増減への対応が難しい企業が多いため、在庫用の新たな倉庫を建設することは必須になるだろう。
また、鉄道・船舶に品物を積む場合には、荷づくりをコンテナサイズに合わせる必要も出てくる。つまり、世の中の企業がモーダルシフトを導入するには、多くの時間や労力、コストが必要になってくるのだ。
このような課題を踏まえると、特に中小企業がすぐさまモーダルシフトを導入することは難しい。政府による支援はあるものの、補助金などの支援を受けられる企業は限られているため、全国的にモーダルシフトが導入されるのはもう少し先の話になるだろう。
事例から学ぶモーダルシフトの成功のポイント
モーダルシフトの導入を検討している企業は、過去の事例から成功のポイントを学ぶことが重要だ。事例が少ない取り組みであるからこそ、成功事例を細かくチェックして改善点や修正点、成功につながる工夫などを見出さなくてはならない。
そこで次からは、国土交通省に表彰された3つの事例と、モーダルシフトを成功させるポイントを紹介していく。
【事例1】鉄道とタクシーの組み合わせによる貨客混載輸送
まずは、モーダルシフトの分かりやすい事例から見ていこう。フェリーや旅客機をはじめ、すでに貨客混載に利用されている乗り物はいくつかあるが、以下の3社は「鉄道とタクシー」というユニークな組み合わせを日本で初めて実践した。
・佐川急便株式会社
・北海道旅客鉄道株式会社
・天塩ハイヤー株式会社
具体的には、北海道稚内市から幌延町までは旅客列車に貨物を積み、幌延町からは天塩ハイヤーのタクシーを活用することで、大幅な環境負荷の低減を実現している。また、佐川急便のトラックドライバーの労働時間・労働環境が劇的に改善された点も、この事例では押さえておきたいポイントだ。
このように、複数の企業が協力する形でモーダルシフトに取り組めば、各社の経営資源を相互に活用できる。つまり、導入コストを抑えながらメリットを得られる形になるので、自社と他社の経営資源を組み合わせる方法は積極的に検討したい。
【事例2】連結トラックを利用した共同輸送による物流効率化
モーダルシフトと言えば、一般的にはトラックから鉄道・船舶への転換を指すが、実はトラックの機能性をそのまま活かした事例も存在する。例えば、以下の4社は25mのダブル連結トラックを利用することで、環境負荷の低減や物流の効率化を実現した。
・ヤマト運輸株式会社
・西濃運輸株式会社
・日本通運株式会社
・日本郵便株式会社
この事例では、連結トラックによる共同輸送を行ったことで、トラックドライバー1人あたりの輸送力が2倍になった。さらに、車両ごとの共同輸送を行うことにより、さまざまな種類の貨物を組み合わせてロスなく運べるシステムが構築されている。
この事例のように、既存のトラックに工夫をとり入れる方法でも物流の効率化は実現できるため、モーダルシフトの計画は広い視野で考えることが大切だ。
【事例3】働き方改革による店舗配送の強靭化
最後は、少し違った角度から物流の効率化を狙った事例を紹介しよう。以下で挙げる企業は、3つの標準化と2つの平準化を進めることで、物流における全体的な働き方改革を実現した。
・日本マクドナルド株式会社
・HAVIサプライチェーンソリューションズ・ジャパン合同会社
・株式会社富士エコー
3つの標準化 | 2つの平準化 |
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・納品スケジュールの最適化 ・かご車での納品率を100%に ・納品定義の再定義 | ・1日の時間帯別物量波動 ・週における物量波動 |
上記を見て分かるように、この事例では物流システムそのものを大きく変えたわけではない。物流事業を取り巻く環境を変えることで、トラックの走行距離を大幅に減らすことに成功したのだ。
厳密に言えばモーダルシフトには該当しないかもしれないが、業務効率化やコスト削減などを目的にしているのであれば、働き方改革も効果的な施策となり得る。工夫次第では、コストを抑えた形で物流システム全体を効率化できるので、「モーダルシフトに取り組む資金がない…」と悩んでいる経営者は、この事例のような施策も検討してみよう。
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モーダルシフトの計画を立てる際には、「他社との共存」を意識しよう
モーダルシフトをスムーズに実現するには、現時点では「他社との協力」が必須になる。そのため、特に資金力が限られている中小企業は単独ではなく、他社の経営資源を活かす形でのモーダルシフトを計画していきたい。
お互いにメリットが発生する形であれば、協力企業を探すハードルもぐっと下がるので、他社との共存を意識しながらモーダルシフトについて考えてみよう。