

会社経営を改善するなら、販売費及び一般管理費を定期的に見直すとよい。今回は、販売費及び一般管理費の意味や計上などについて解説する。人件費や家賃など、固定費の見直しにも触れているので、経費削減の参考にしてほしい。
目次
販売費及び一般管理費の重要性
会社経営に欠かせない費用が販売費及び一般管理費である。粗利を意識する経営者にとっては、売上原価(製造原価)よりも意識しにくい存在かもしれない。
しかし、会社の利益と資金繰りを左右するのは、売上原価よりも販売費及び一般管理費だ。販売費及び一般管理費は、会社や社会の状況に関係なく、毎月一定額が支出される。
経済状況が一気に悪化すると、会社経営をひっ迫する原因になりかねない。その反面、工夫して削減すれば収益を改善できる。
会社の収益を増やし、資金繰りを改善するなら、販売費及び一般管理費を知ることが大切だ。
販売費及び一般管理費とは?
販売費及び一般管理費の項目をはじめ、販売費と一般管理費の意味をそれぞれ確認していこう。損益計算書と照らし合わせるとわかりやすいかもしれない。
販売費及び一般管理費
販売費及び一般管理費は、会社の販売活動や一般管理活動で発生する費用だ。損益計算書における順番は、売上総利益(=売上-売上原価)の次にあたる。
売上原価が売上に直接対応するのに対し、販売費及び一般管理費は売上に対応せず、期間費用として示される。
企業の営業活動にかかる費用のうち、売上原価以外の金額が該当する。本業を切り回すのに欠かせない項目だ。
「売上-売上原価-販売費及び一般管理費=営業損益」となることから、本業の収益を左右するとわかる。売上原価と並んで会社の売上や利益を支える費用だ。
また、営業利益に対する販売費及び一般管理費の金額を確認することで、会社の投資効果を判断できる。
費用をかけて売上が増えても、利益が減っているのなら、コストのかけすぎかもしれない。つまり、経費を削減すべきポイントを確認することもできる。
販売費
販売費とは、モノ・サービスを生み出すための費用である。具体的には、販売手数料や販売促進費、広告費、荷造運搬費、見本品費などが該当する。
一般管理費
一般管理費とは、企業全体の運営・管理に要した費用だ。
具体的には、経理や人事、役員などの人件費のほか、間接部門が入居する本社・支社の運営費用や租税公課、福利厚生費、その他の経費をさす。
具体的な費用の例は下記の通りだ。
・給与や賞与、諸手当など
・水道光熱費や地代家賃、減価償却費など
・交通費、通信費、交際費など
販売費及び一般管理費の計上
販売費及び一般管理費の概要を理解しても、実務の計上では戸惑う場面がある。
同じ人件費や減価償却費でも、販売費及び一般管理費に振り分けられるとは限らない。内容によっては、売上原価(製造原価)に含まれることがある。
販売費及び一般管理費と売上原価の違いを確認したうえで、振り分けをみていこう。
販売費及び一般管理費と売上原価の違い
販売費及び一般管理費と売上原価は、いずれも会社の本業に必須の費用だが、特徴は大きく異なる。
販売費及び一般管理費は売上と比例せず、固定費のような性格を持つ。一方で、売上原価は売上と対応し、比例している。
商品が売れると売上は伸びるし、売れないと売上も減る。仕入価格や材料費が高騰・暴落しなければ、利益が突発的に増大・縮小することはない。
一方、販売費及び一般管理費は、売上が急増したからといって増えるとは限らない。仮に売上がゼロになっても生じてしまう。
売上の増減ではなく、会社の戦略や方向性、事業規模により増減する。
費用が発生した部門で計上が異なる
「同じ給与・賞与なのに、なぜAさんの分は製造原価で、Bさんの分は販売費及び一般管理費なのだろう。」
製造業において、会計に触れて間もない経営者や経理担当者だと、このような疑問を持ちやすい。販売費及び一般管理費に関する計上の区分は、費用が発生した部門によって違う。
実は、製造原価に含まれるのは材料費だけではなく、製造にかかるすべてのコストだ。
そのため、製造部門で働く人にかかる費用も製造原価として計上する。製造部門で働いている場合、給与や賞与、福利厚生費などは製造原価に振り分けられる。
その一方で、総務や経理、人事など、会社全体の販売・管理活動に関わる部門で働いている場合、給料や賞与、福利厚生費などは販売費及び一般管理費として計上する。
この振り分けは、人件費についてだけではなく、他の費用も同様だ。
工場で発生する水道光熱費や減価償却費、地代家賃は、人件費と同じく製造原価に振り分けられる。一方、本社で発生する水道光熱費や減価償却費、地代家賃は、販売費及び一般管理費として計上する。
ただ、1人の従業員が製造と管理部門を兼務していることもあるだろう。その場合、対象者の費用を製造原価と販売費及び一般管理費に按分するのが理論的だ。
しかし、実務では本来の職務を区別し、一方の部門で全額を計上することが多い。
販売費及び一般管理費のチェック費用3つ
販売費及び一般管理費の削減を心がければ、収益が改善しやすくなり、手持ちのキャッシュも厚くなるだろう。
特にチェックすべき費用は、人件費と地代家賃、販売促進関連の費用だ。それぞれの費用を解説していく。
費用1.人件費
人件費とは、給与や賞与、役員報酬のほか、法定福利費や社内旅行などの福利厚生費、通勤交通費などがある。
雇用されていると、「人件費=給与や賞与」というイメージを抱きがちだが、その1.5倍から2倍のコストがかかる。
その反面、労務関連の法律によって、簡単に社員をリストラできない。つまり、一度雇用するとコスト削減が難しくなる。
費用2.地代家賃
地代家賃とは、本社や支社、営業所などの家賃をはじめ、更新料や駐車場代などをさす。
毎月数十万円から数百万円単位で支出するので、利益を圧迫しやすい。営業を停止したときも、事情に関係なく払わざるを得ないので、負担は大きいといえる。
地代家賃は、契約による縛りや引っ越しの手間を考えると、簡単に削減するのは難しい。
費用3.販売促進関連の費用
販売促進関連の費用として挙げられるのは、販売手数料や販売促進費のほか、交際費や広告宣伝費、旅費交通費などだ。
商品やサービスの知名度を上げて、購入や利用につなげるための費用である。
しかし、費用に比例して効果があるとはいえない。支出による成果を定期的に確認する必要がある。
販売費及び一般管理費を見直す方法2つ
IT技術が発展した現代において、会社の収益を改善する方法も変化している。販売費及び一般管理費の観点から、固定費を見直す方法を2つ紹介しよう。
方法1.テレワークの導入
時代の変化にともない、多くの会社がテレワークを導入するようになった。
テレワークを導入すると、会社に出勤する機会が減る。つまり、通勤交通費や福利厚生費などの人件費を削減しやすくなる。
また、通勤や会議による疲労を防ぎ、従業員の健康も守りやすくなる。
方法2.拠点の統合・移転・縮小
本社と支社の統合や、本社機能の地方移転、オフィススペースの縮小などで、家賃や駐車場を圧縮できる。
統合や移転、縮小に抵抗を感じるなら、家主と家賃について交渉するのも一つの方法だ。貸手にとって、契約が解除されるより、家賃を減額して維持する方が好ましい。
家賃を減らせば、会社の収益体質を向上しやすくなるだろう。
販売費及び一般管理費を定期的に見直そう
販売費及び一般管理費は発生するのが当然であり、見過ごしがちな費用だ。放っておくと収益と資金繰りを圧迫する。
どのような状況であっても、定期的に見直してコスト削減を心がけたい。
なお、ITツールやアウトソーシングを活用すれば、入力や計算といった単純労働による無駄も削減できる。
特に経理や人事、総務に関しては、経費精算や会計処理のアプリが便利だ。スマートフォンによる撮影で自動処理できるようになった。
コストを削減できるだけでなく、生産性も上げられるので、有効活用するとよいだろう。
文・鈴木まゆ子(税理士・税務ライター)