仕掛品の計上ルール・計算方法とは?半製品との違いや税務調査のポイントも解説
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製品の製造過程のひとつである仕掛品は、正しい方法で評価・計上をすることがやや難しい。そこで今回は、仕掛品の概要や計算方法、正しい計上のルールなどをまとめた。仕掛品は税務調査で指摘されることもあるので、必要な知識をきちんと身につけていこう。

目次

  1. 仕掛品とは?
  2. 仕掛品と半製品はなにが違う?原材料や製品との違いも解説
  3. 仕掛品には2つの原価がある?仕掛品金額を計算する方法3つ
    1. 1.先入先出法
    2. 2.平均法
    3. 3.後入先出法
  4. 仕掛品を計上する際のルール
    1. 仕掛品を計上するタイミング
    2. 仕掛品は「棚卸資産」として計上する
  5. 仕掛品の税務調査で注意しておきたいポイントは?
    1. ずさんな管理は特に指摘を受けやすい
    2. 金額には算定根拠が必要になる
    3. 過去に行った処理内容との整合性も重要に
  6. 税務調査への対策は早めに取りかかろう

仕掛品とは?

仕掛品とは、工場や社内で製造している製品のうち、現段階では加工の必要がある状態のものを指す。つまり、仕掛品は未完成の製品なので、そのままの状態で出荷・販売することはできない。

この説明だけを見ると、仕掛品には価値がないように思えるかもしれないが、税務の世界では「棚卸資産の一種」に該当するため注意が必要だ。仕掛品は税務調査の指摘事項に含まれており、ずさんな管理をしていると思わぬ指摘を受けることがある。

したがって、工場などで製品を製造するタイプの事業に取り組んでいる経営者は、仕掛品に関する知識をきちんと身につけておかなくてはならない。

仕掛品と半製品はなにが違う?原材料や製品との違いも解説

工場や社内で製造するものは、「原材料・仕掛品・半製品・製品」の4つに大きく分けられる。これらのうち、仕掛品と半製品は最も混同しやすいため、しっかりと違いを理解しておきたい。

では、これらの4つが具体的にどのような状態を指すのか、以下でチェックしていこう。

製品の段階概要
・原材料工場や社内で、まだ組立・加工を一切していないもの。
・仕掛品現段階ではまだ加工の必要があり、製品としては販売できないもの。
・半製品製造途中ではあるものの、製品として販売できるもの。
・製品完成品として販売できるもの。

上記の説明だけではややイメージしづらいため、ここからは具体例を用いて解説を進めていく。例えば、製品であるひとつの缶詰を、以下の工程で製造するケースについて考えてみよう。

【1】缶詰の原料となる金属や食料品を、他社から仕入れて保管する
【2】金属を加工し、食料品を詰められる缶の形にする
【3】長期保存ができるように、食料品を加工する
【4】加工した食料品を、缶に詰めて密封する
【5】ラベルなどを貼り、完成品として出荷・販売する

まず、【1】の加工をしていない金属や食料品は「原材料」に該当する。次に、【3】の工程まで進めば完成品の姿が徐々に見えてくるものの、そのままの形では缶詰としては販売できないため、【2】と【3】は「仕掛品」として扱われる。

では、【4】の状態については、仕掛品・半製品のどちらに該当するだろうか。ラベルなどは貼られていないものの、缶が密封されていれば製品としての形は成している(=販売可能な状態である)ため、【4】の工程が終われば「半製品」として扱われる。ちなみに、缶詰にラベルを貼った【5】の状態は言うまでもなく「製品」だ。

このように、原材料・仕掛品・半製品・製品の違いは、製造過程を分けて考えると見極めやすい。

仕掛品には2つの原価がある?仕掛品金額を計算する方法3つ

仕掛品は棚卸資産の一種であるため、決算の際には流動資産として計上しなくてはならない。では、保有している仕掛品の金額は、どのような方法で計算(評価)するのだろうか。

一般的に仕掛品の金額は、以下の2つの原価を合計することで算出される。

・直接材料費…主要材料費や購入部品費など、製品の原料費にあたる金額のこと
・加工費…製造原価のうち、直接材料費に該当しないもの(人件費や水道光熱費など)

また、仕掛品金額の計算方法には3つの種類があるため、次からはそれぞれの方法の概要やポイントを解説していこう。

1.先入先出法

先入先出法は、「製造工程に先に入ったものから完成させる」というルールに則って、直接材料費と加工費を計算する方法だ。具体的には、月初にある仕掛品をすべて完成させてから、当月分の原材料を投入することを想定して各金額を計算していく。

では、直接材料費と加工費をどのように計算するのか、実際の式をチェックしていこう。

直接材料費={当月分の直接材料費 ÷(完成品数量-月初仕掛品数量+月末仕掛品数量)}×月末仕掛品数量
加工費={当月分の加工費÷(完成品数量-月初仕掛品完成品換算量-月末仕掛品完成品換算量)}×月末仕掛品完成品換算量

完成品数量や仕掛品数量については、事前に収集したデータの値をそのまま使用できるが、「月初仕掛品完成品換算量」と「月末仕掛品完成品換算量」の2つは以下の式によって計算する必要がある。

月初仕掛品完成品換算量=月初仕掛品数量×加工進捗度
月末仕掛品完成品換算量=月末仕掛品数量×加工進捗度

上記の「加工進捗度」とは、仕掛品の完成度合いをパーセンテージで表したものだ。つまり、仕掛品の状態によって加工進捗度は変わってくるため、その点も事前にデータ収集しなくてはならない。

2.平均法

平均法は、「すべての仕掛品に関して平均的に生産が進む」というルールに則って、仕掛品金額を計算する方法だ。つまり、製造工程に投入した時期に関わらず、すべての仕掛品を合計した形で計算が行われる。

直接材料費=(月初仕掛品原価+当月製造費用)÷(完成品数量+月末仕掛品数量)×月末仕掛品数量
加工費=(月初仕掛品原価+当月製造費用)÷(完成品数量+月末仕掛品完成品換算量)×月末仕掛品完成品換算量

先入先出法に比べると、平均法はシンプルな式によって計算できるため、毎月の会計処理が楽な方法と言える。ただし、月の途中で原価を把握することが難しいので、基本的には先入先出法のほうが多く採用されている。

3.後入先出法

3つ目の後入先出法は、「後に仕入れたものから出荷させていく」という考え方によって仕掛品金額を計算する方法だ。上記で紹介した先入先出法・平均法の2つとは違い、後入先出法では原価の算出方法が状況次第で変わるため、仕掛品金額をシンプルな式で表すことはできない。

後入先出法は、物価変動による影響を排除できる計算方法ではあるが、状況によっては計算結果と実態が大きくかけ離れてしまう。そのため、上記2つの方法に比べると、使用できるシーンが限定される計算方法と言えるだろう。

仕掛品を計上する際のルール

仕掛品の計算方法を理解したら、次は「計上方法」も確認しておく必要がある。そこで以下では、計上のタイミングと勘定科目に分けて、仕掛品を計上する際のルールを簡単にまとめた。

仕掛品を計上するタイミング

仕掛品を計上するタイミングとしては、社内の経費をまとめる時期や、棚卸資産を整理する時期などが一般的だ。つまり、出納帳などの帳簿を作成するタイミングで一緒に仕掛品を計上すれば、大きな問題は発生しにくい。

ただし、管理がずさんになると仕掛品の実態をつかむことが難しくなるので、「毎月計上すること」と「仕掛品の棚卸を毎月決まった時期にすること」の2点はルール化しておこう。

仕掛品は「棚卸資産」として計上する

仕掛品の仕訳では、勘定科目を「棚卸資産」として計上する必要がある。しかし、仕掛品はコストのみが発生している状態(=利益が発生していない状態)なので、なかには費用として計上してしまう経営者もいるだろう。

将来的に企業の売上につながる仕掛品は、通常の在庫と同じように「流動資産」と言い換えられる。したがって、仮に出荷先の目途が立たない場合であっても、費用として計上することは認められていない。

この点は間違えやすいポイントなので、仕掛品が流動資産に該当する点はきちんと覚えておこう。

仕掛品の税務調査で注意しておきたいポイントは?

最後に、仕掛品の税務調査で注意しておきたいポイントを紹介していく。調査対象になりやすい点はある程度決まっているため、以下のポイントを意識した上で、余裕をもって対策を立てておくことが重要だ。

ずさんな管理は特に指摘を受けやすい

前述の通り、仕掛品は資産として計上する必要があるため、以下のような「ずさんな管理」は特に指摘を受けやすい。

・仕掛品を費用として計上している
・計上の時期が定まっていない影響で、計上できていない仕掛品がある
・本来は仕掛品として計上するべきものを、原材料としてカウントしている など

仮に上記のケースに該当すると、追徴課税が科せられるだけではなく、粉飾決済とみなされる恐れがある。計上漏れは論外だが、仕掛品は単に計上するだけでは不十分なので、第三者が見ても納得できるルールや規則を定めておこう。

金額には算定根拠が必要になる

税務調査では「算定根拠」が求められる点も、経営者が気をつけておきたいポイントだ。「なぜこの数値になるのか?」や「なぜこの計算方法を用いているのか?」などを十分に説明できなければ、税務調査官が納得することはない。

通常の税務調査では、仕掛品の計算方法や計上方法だけではなく、直近の売上や仕入額、外注費などもチェックされる。つまり、製造工程に関するあらゆる情報をチェックされるので、ほかの数値ともしっかりと紐づけた上で、根拠性の高いデータを示す必要がある。

過去に行った処理内容との整合性も重要に

仕掛品の計上ルールが途中で変わっていたり、時期によって異なる計算方法を用いていたりすると、税務調査で指摘を受けるリスクが高まる。つまり、状況次第では過去に行った処理内容との「整合性」も求められるので、仕掛品は日頃から正しいルールで計上・計算を行うことが重要だ。

日頃の積み重ねを意識するだけで、税務調査におけるリスクはぐっと抑えられるので、これまで仕掛品の計上・計算を曖昧にしていた経営者は、本記事を参考にしながら早めに対策を立てておこう。

税務調査への対策は早めに取りかかろう

今回解説した仕掛品は、税務調査の指摘事項に含まれやすいものだ。特に、毎月大量の製品を製造している企業や、さまざまな種類の製品を作っている企業は、税務調査のターゲットにされる可能性が高いため注意しておきたい。

税務調査の連絡が届いてからでは対応できない恐れがあるため、早めに自社の会計帳簿などを見直しておこう。

著:片山 雄平
1988年生まれのフリーライター兼編集者。2012年からフリーライターとして活動し、2015年には編集者として株式会社YOSCAに参画。金融やビジネス、資産運用系のジャンルを中心に、5,000本以上の執筆・編集経験を持つ。他にも中小企業への取材や他ライターのディレクション等、様々な形でコンテンツ制作に携わっている。
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