バー経営
(画像=crin/stock.adobe.com)

新型コロナウィルスの感染拡大によって、飲食店業界は苦境に立たされ、中でもバー経営者は特に厳しい状況に晒されている。ただ、超逆境下でも果敢に新たなアプローチに挑むバー経営者も少なくない。今、バー経営において生じつつある新たな潮流にスポットを当ててみたい。

目次

  1. バー経営は飲食業界の中でも特に苦難を強いられている
    1. 酒を提供する店にも違いがある
  2. 緊急事態宣言の解除後も1割超のバーが営業自粛を続けていた
    1. 非常に厳しいバー経営の状況
  3. コロナ禍での新たな試みを模索するバー経営者たち
    1. 酒のプロフェッショナルだからこそできること
  4. バー文化が廃れることはありえない理由
    1. コロナで人々はコミュニケーションに飢え始めている?
  5. 逆風が吹き荒れる中で新たなサービスは生まれ、育まれていく

バー経営は飲食業界の中でも特に苦難を強いられている

コロナ禍での緊急事態宣言下で、「ステイホーム」を余儀なくされていた頃と比べれば、人々の行動制限はかなり解消され、飲食店にも客足が戻ってきたようだ。しかし、緊急事態宣言を解除した後に感染者の再拡大が顕著になったことから、東京都や大阪府などでは、酒を提供する店に対して再び営業時間の短縮要請が行われ、風当たりが強くなっている。

多くの人たちが食事を済ませて、「この後はバーに場所を移して飲んでいこうか?」という流れになる頃合いに店を閉めるように要請されているため、営業自粛要請と大差がないと言っても過言ではなさそうだ。

酒を提供する店にも違いがある

酒を提供する店と言っても、居酒屋では大勢で談笑する客が多い一方で、カウンターだけのこぢんまりとしたバーにおいては、少人数で静かに飲んでいるイメージが強く、感染リスクはかなり違うようにも思われる。

国や地方自治体が、3蜜になり易いために特に注意を促す「接待を伴う夜の店」という呼称も奥歯に物が挟まる表現で、聞く人によっては誤解が生じている可能性も考えられる。

そもそもバー・スナック・パブ・キャバクラなどと一括りに捉えられがちであったことも、混乱に拍車をかけている。国や地方自治体が捉えている「接待」とは、客の脇に座って酌をしたり、カラオケでデュエットしたりする接客行為のことだ。

「接待」は風俗営業許可を得て初めて可能となるが、営業時間に制限はあり、深夜0時には店を閉めなければならない(1時までの地域もある)。風営法の取り決めがある中で、女性をカウンター内に配しているため「接待」が伴っていないとアピールし、深夜営業許可を取って0時以降も店を営業しているのがガールズバーだ。

たとえガールズバーがカウンターを挟んだ接客であっても、女性と顧客との距離感は風俗営業許可のキャバクラと変わらないのが実情であろう。しかしながら、名目上は「接待を伴う夜の店」に該当しないことになってしまう。

また、パブは「洋風居酒屋」というイメージが浸透していたが、フィリピンパブのような風俗店でも名称が用いられるようになり、非常にややこしい状況になっている。

実際に、ガールズバーでありながら「バーでクラスターが発生」とか、フィリピンパブでありながら「パブでクラスターが発生」とかいった報道も飛び交っており、「接待を伴う夜の店」が十把一絡げで捉えられているのが現実だ。

緊急事態宣言の解除後も1割超のバーが営業自粛を続けていた

コロナ禍で感染拡大のリスクがあるとしても、一部の人たちは開き直って「接待を伴う夜の店(もしくは実態がそれに近い店)」に通い続けていることだろう。一方で、「食事はともかく、バーでお酒の飲むのはしばらく控えておいたほうが無難」と考える人たちが主流となり、少人数で純粋にお酒を楽しむためのバーの客足も途絶えている。

非常に厳しいバー経営の状況

バー、カクテルの専門メディアで、SNSにおいて20万人超のフォロワーを獲得しているウェブマガジン「BAR TIMES」は、バー経営者やバーテンダーを対象にアンケート調査を行った(調査期間は2020年5月25〜28日)。このアンケート結果でも、バー経営が極めてシビアな状況に陥っていることが浮き彫りになっている。

2020年6月1日時点で、「通常営業を再開」と回答したのは全体の40%で、「営業時間を短縮して再開」が42%だった。残りの内訳は、「休業日を増やして再開」が5%、「営業自粛を継続」が11%、「閉業(検討中も含む)」が2%となっている。

緊急事態宣言の解除は2020年5月25日で、同調査はその後に実施されたものだが、それでもバーを含む1割超が店を閉めたままだったのだ。

コロナ禍での新たな試みを模索するバー経営者たち

もっとも、コロナ禍における「ステイホーム」が連呼されていた間、バー経営者はただ手をこまねいて見ていたわけではない。「BAR TIMES」のアンケートでは、「緊急事態宣言下で行った新たな取り組み」についても回答が得られている。

取り組み状況についての質問に対し、「特に何もしていない」との回答も35%に達したが、65%のバーがコロナ禍に対応した新しいサービスを試行していた。その内訳は、テイクアウト・デリバリーが22%、酒類販売(小売)が22%、オンラインバーが7%、その他が11%となっている。

酒のプロフェッショナルだからこそできること

酒類販売(小売)とは、コロナで経営を圧迫されているバーなどへの救済措置として、期限付き酒類販売免許制度が施行されたことを受けてのものだ。酒類販売免許には細かな要件が定められており、本来ならば容易に免許取得はできないのだが、最長6ヵ月間と期間を限定して、簡単な手続きで酒類販売免許が得られる制度が導入された。

酒に関して一家言を持つバーが手掛けるのだから、巷の酒屋とは一線を画す販売が可能だ。合わせる料理とのマリアージュや、客の好みをヒアリングした上でオススメの飲み比べを提案するなど、バー経営者独自のアプローチで好評を博したところも少なくなかったようだ。

一方、オンラインバーは、ZOOMなどのリモート会議アプリを用いて仮想出店するもので、客は自宅に居ながらバーのカウンター席に腰掛けているかのように、マスターやバーテンダーと双方向のコミュニケーションを楽しめる。

ただ、実際に酒を提供しているわけではないため、オンラインバー有料化のハードルは高い。そこで、ある店は酒類メーカーや輸入業者とタイアップし、特定の商品を購入した人だけが参加できる、酒に関するオンラインセミナーを開催して盛り上がったという。

前出のアンケートでは、コロナ禍でも「バー文化継続のために必要なノウハウ」についても質問されている。バー経営者からの回答は、以下の通りであった。

・成功事例の共有:30%
・動画制作講座:15%
・申請書類の書き方講座:15%
・感染防止策に関する専門家の指導:14%
・コスト削減講座:14%
・オンラインバーの導入サポート:10%
・その他:3%

これらの声を踏まえて「BAR TIMES」では、情報発信によってバー経営者やバーテンダーを支援する「BAR TIMES NAVI 〜コロナ時代を生き抜くバーのための情報サイト〜」https://bartimes-navi.com/を立ち上げている。

バー文化が廃れることはありえない理由

コロナ禍によって、テレワークやリモート会議が一気に普及するとともに、小売店の接客カウンターやレジは、ビニールシートやアクリル板シールドなどで遮断されるようになった。感染を防止する上で重要な取り組みだが、世の中では「非接触型」のやりとりが主流化していることも意味している。

コロナで人々はコミュニケーションに飢え始めている?

今回、新型コロナウイルスは、国境を容易く乗り越えて一瞬にして地球上に伝播していった。皮肉にも、新型コロナウイルスのパンデミックは、世界のボーダレス化が進んだことの証左となる一方で、個々人の間にシールド(ソーシャルディスタンス)が張り巡らせる結果となっている。

こうして「非接触型」のやりとりが増えると、人々はいっそうコミュニケーションに飢えてくるのではないだろうか。バーは、たまたま隣り合わせた客同士が瞬く間に打ち解け合い、心と心が通い合うコミュニケーションの場として、時代を越えて支持されてきた。

そもそもバーでは、客同士がカウンターで横並びに座るケースが多い。もっぱら飛沫は前方に向かうもので、バーテンダーと客が向き合う点に注意が必要とはいえ、集団で向き合うボックス席と比べればそのリスクは相対的に低いと言えるかもしれない。

また、膝をつき合わせてではなく、隣り合っての会話はストレスを貯めにくいという側面もあるだろう。長きにわたって不自由を強いられ、まさに“コロナ疲れ”が蓄積しているだけに、バーに心の癒しを求めている人は少なくないだろう。

逆風が吹き荒れる中で新たなサービスは生まれ、育まれていく

依然として2020年に発生した新型コロナウイルスの感染拡大は、世界的に収束の気配を見せず、バー経営に対しては猛烈な逆風が吹き荒れている。だが、「今はとにかく耐え抜くしかない」という守りの姿勢に終始せず、何らかの新たなアプローチを試みることが重要だろう。

給付金や補助金などのさまざまな公的支援制度が設けられているし、民間でも支援の動きが広がっている。バーにおいても、困難の中であれこれと模索したことの中から、顧客に支持される新たなサービスが生まれる可能性は十分にある。

また、経営的にはさほど追い込まれて折らず、むしろ余力があるというバー経営者なら、このような局面こそ攻めの手を打つのも一考かもしれない。新たな出店を計画する上で、今は空き物件を格安に手に入れる好機とも受け止められる。

文・大西洋平(ジャーナリスト)

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