戦略,戦術
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災害や不況などの影響により、努力だけで自社の業績を維持・向上するのは困難となりつつある。そのような状況下だからこそ活きる施策が業務提携だ。今回は、業務提携のメリットやデメリット、流れなどをわかりやすく解説する。経営環境の改善に役立ててほしい。

目次

  1. 業務提携とは
    1. 資本提携との違い
    2. M&Aとの違い
  2. 業務提携の種類3つ
    1. 種類1. 生産提携
    2. 種類2. 販売提携
    3. 種類3. 技術提携
  3. 業務提携のメリット3つ
    1. メリット1.時間・コストの削減
    2. メリット2.シナジー効果の獲得
    3. メリット3.自由度が高い
  4. 業務提携のデメリット2つ
    1. デメリット1.秘密情報の流出
    2. デメリット2.利益や費用、成果をめぐるトラブル
  5. 業務提携の注意点2つ
    1. 注意点1.契約書でトラブルを防止
    2. 注意点2.秘密保持契約を締結
  6. 業務提携の流れ
    1. ステップ1.提携先を選定
    2. ステップ2.提携業務の内容を決定
    3. ステップ3.利益や費用、役割分担を決定
    4. ステップ4.業務提携契約書を締結
  7. リスクをふまえて業務提携を検討

業務提携とは

業務提携とは、複数の企業が一緒に事業を行うことをさし、コラボレーションや戦略的提携とも呼ばれる。お互いの企業がノウハウや技術などの経営資源を出し合って協力しながらビジネスの成功を目指していく。

資本提携との違い

業務提携と似た施策に資本提携があり、両者は資本の移動に関して大きく違う。

業務提携は、あくまで契約に基づいて協力し合うだけの関係であり、資本の移動はともなわない。資本提携は、相手企業に資本を出資したり、相手企業の資本を受け入れたりする。資本の移動をともなうため、業務提携と比べて関係性が強固になる。

資本提携では相手企業を経営に介入させるデメリットがあるので、経営の自由度を維持したいなら業務提携が最適だろう。

M&Aとの違い

業務提携は、他社と協力関係を築く点でM&Aとも共通点がある。ただしM&Aは、協力関係の構築が目的の業務提携とは異なり、企業の経営権や事業の運営権を入手する目的で使われる施策だ。

買い手の企業が売り手の事業や経営権を丸ごと入手するため、資本提携や業務提携よりも相手企業の強みや経営資源を最大限使える。

ただし、買収される側は経営権や事業の運営権を失う。M&Aと業務提携は、用いる目的や効果が大きく異なるので、うまく使い分けるようにしよう。

業務提携の種類3つ

業務提携は、提携範囲によって生産提携、販売提携、技術提携に大別される。

種類1. 生産提携

生産提携は、相手企業に生産プロセスの一部を委託する業務提携であり、生産能力の強化を目的としている。

委託側は、低品質製品や欠陥製品の納品に注意しなければならない。そのため、品質や原材料、生産方法などに関して事前に契約書で規定することが重要だ。

受託側には、支払いの遅延や拒否、不当な返品といったリスクがある。契約書でこうした問題が生じないよう対処しつつ、あらかじめ相手企業の信用力を見極めておくことが必要だ。

種類2. 販売提携

販売提携とは、他社の販売網や人材、ブランドを使うことを目的とした業務提携だ。具体的な施策としては、以下の契約形態が用いられている。

  • フランチャイズ契約
  • 代理店契約
  • 販売店契約
  • OEM契約

フランチャイズ契約とは、特定のブランドや商品の販売権を持っているフランチャイザー(本部)が、加盟店に対して自社ブランドや商品を用いる権利を与える契約形態だ。

代理店契約とは、メーカーが生産した商品やサービスについて、メーカーの代わりに営業活動を行う契約形態をさす。顧客はメーカーと契約する。販売店契約とは、メーカーから仕入れた商品を顧客に販売する契約形態である。顧客は販売店と契約する。

OEM契約とは、他社製品に自社のロゴをつけて製造販売する契約形態をさす。

種類3. 技術提携

技術提携とは、他社の技術を自社の開発や製造に役立てるための業務提携だ。一般的には、ライセンス契約や共同技術開発といった形態により提携が進められる。

ライセンス契約とは、提携対象の企業に対して自社の技術を自由に使わせる契約だ。技術はあるが商品の開発力や販売力を持たない企業が収益を得る目的で使う。

一方で共同技術開発とは、提携企業同士が一緒に特定の技術開発を行うことだ。

業務提携のメリット3つ

業務提携には「時間・コストの削減」「シナジー効果の獲得」「自由度の高さ」というメリットがある。

メリット1.時間・コストの削減

技術力や生産力、販売力を強化するには、多大な時間やコストが必要となる。

事業がうまくいけば良いが、せっかく強化した経営資源が役に立たなければ、費やした時間やコストが無駄となってしまう。

業務提携では、他社の経営資源を使って事業の成長を目指す。自社で経営資源を強化する必要がないため、時間やコストを節約できる。

メリット2.シナジー効果の獲得

業務提携により自社と他社の強みがシナジー効果を生み出す可能性もある。例えば、「販売力はあるが技術力がない企業」「技術力はあるが販売力がない企業」があったと仮定しよう。

お互いに優れた強みのある企業だとしても、自社のみでは商品の生産から販売までのプロセスを完結できず、ほとんど売上げは得られないだろう。

ところが、各社が業務提携すれば生産から販売までを完結できる。別々に事業を行うよりも大きな収益を得られる可能性が高い。

メリット3.自由度が高い

時間・コストの削減やシナジー効果の獲得などのメリットは、M&Aや資本提携でも実現できる。

しかし、M&Aや資本提携では資本や経営権の移動をともなうため、経営の自由度は低下してしまう。業務提携では資本や経営権の移動をともなわないので、自由度を維持したまま上記のメリットを獲得できる。

業務提携のデメリット2つ

業務提携を検討するときは、メリットだけでなくデメリットも考慮しなければならない。

デメリット1.秘密情報の流出

業務提携では、相手企業に技術や販売ノウハウ、生産プロセスなどを知られる。

知られるだけでは問題ないが、相手企業の情報管理が甘いと自社の秘密情報が流出するリスクがある。自社製品の模倣による売上低下は避けなければならない。

業績低下や訴訟などのリスクがある点は、業務提携で最も注意すべきデメリットだろう。

デメリット2.利益や費用、成果をめぐるトラブル

一緒に開発した商品がヒットした場合、利益の配分が問題となる。また、費用の負担や特許の獲得をめぐってトラブルに発展するケースも少なくない。

業務提携の注意点2つ

業務提携のデメリットを軽減するために以下の注意点を意識しておきたい。

注意点1.契約書でトラブルを防止

業務提携の前に契約書でトラブルを防止しておくのがベストである。最低限契約書に盛り込むべき項目は下記の通りだ。

  • 成果物の帰属
  • 各社が負担する費用
  • 各社の利益配分
  • 各社が行う業務の内容と量

利益配分は、不公平にならないよう負担費用や業務量に応じて決定すると良い。トラブルの芽を事前につんでおくことが円滑に業務提携を行うポイントだ。

注意点2.秘密保持契約を締結

秘密情報の流出を防ぐために秘密保持契約を結んでおくと良い。

秘密保持契約とは、業務提携の過程で知った相手の秘密情報を外部に漏えいしないことを約束する契約だ。契約書には漏えいして欲しくない情報を明記する。

万が一漏えいした場合に備えて、損害賠償の支払いに関しても明記しておく。なお、実際に契約書を作成する際は、トラブルを回避できるよう弁護士に依頼するのが確実だ。

業務提携の流れ

最後に業務提携を進める方法に関して解説していく。業務提携を行う前にイメージをつかんでおこう。

ステップ1.提携先を選定

業務提携の目的(販売強化や共同開発など)を明確にしたうえで提携先を探す。お互いの弱みを把握したり、シナジー効果を予測したりすることも提携先を探すうえでは重要だ。

ステップ2.提携業務の内容を決定

選定した提携先から興味を持ってもらえたら交渉に入っていく。交渉では、まず提携業務の内容を具体的に決める。その際は、業務提携の目的をはじめ自社や相手企業の強み・弱みなどを考慮する。

ステップ3.利益や費用、役割分担を決定

トラブルなく業務提携を進めるためにも、あらかじめ利益や費用、役割分担などを取り決めておく。公平性を保つために時間をかけて話し合い、両者が納得できる利益配分や費用負担、役割分担を考える。

ステップ4.業務提携契約書を締結

提携内容や利益などの事項を決定したら、業務提携契約書を締結する。話し合いで決めた内容を漏れなく契約書に盛り込み、双方が納得すれば締結完了となる。

口約束だと後々トラブルに発展するリスクがあるため、弁護士といった専門家からアドバイスをもらうのが大切だ。

リスクをふまえて業務提携を検討

厳しい経営環境を生き抜くうえで、業務提携で他社と力を合わせる戦略は非常に有効だ。ノウハウの流出といったリスクはあるが、うまくいけば多大な利益を生み出せる。事業を成長させる手段として業務提携を検討してみると良いだろう。

文・鈴木 裕太(中小企業診断士)

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