バイオマス発電
(画像=bluebeans/stock.adobe.com)

これまで、再生可能エネルギーと言えば、太陽光や風力を連想するケースが多かった。実際に日本で建設が進められてきたのも、もっぱら太陽光発電設備や風力発電設備だった。しかし、ここにきて日本各地で商業運転が本格化し、熱い注目を浴びているのがバイオマス発電だ。そのメリットや今後の展望などについて探ってみよう。

目次

  1. そもそもバイオマス発電とは?
    1. 3つに分類できるバイオマス発電
    2. バイオマス発電が環境にやさしい理由
  2. 日本でバイオマス発電の導入が進められてきたのはいつからか? そのメリットとデメリットは?
    1. 国を挙げてスタートしたバイオマス発電への取り組み
    2. バイオマス発電のメリットとデメリット
  3. 続々と各地で営業運転を開始するバイオマス発電
  4. コロナとバイオマス発電などの再生可能エネルギーとの因果関係2点
    1. 1.エネルギー需要から運用コストの安い再生エネルギーに注目が集まる
    2. 2.コロナを機にバイオマス発電で温暖化対策と経済成長を目指す
  5. バイオマス発電が経済に及ぼす波及効果は?
  6. 燃料やガス源とできる対象が広いバイオマス発電が主役になる日も!?

そもそもバイオマス発電とは?

本来のバイオマスとは、「生物資源(bio=バイオ)の量(mass=マス)を表す言葉だ。再生可能エネルギーの分野においては、「生物由来の有機性資源で再生可能なもの」のことを指している。

3つに分類できるバイオマス発電

再生可能であることが大前提であるため、動植物などの死骸が地中に堆積して長い年月をかけて変質した原油のような化石資源は生物由来ではあっても該当しない。バイオマスに該当する燃料は、以下の3つに分類できる。

・1.廃棄物系
例として挙げられるのは、使用済みの紙や家畜の排せつ物、食品廃棄物、建設現場や製材工場で発生した木材の端材、下水汚泥などだ。

・2.未利用系、
例としては、稲わらや麦わら、もみ殻などが挙げられる。

・3.資源作物系
とうきびやトウモロコシなどを例示できる。

バイオマス発電が環境にやさしい理由

これらのバイオマスを直接燃焼させたり、発酵(ガス化)させたりすることで電力を生み出すのがバイオマス発電である。バイオマス発電では、燃焼のプロセスにおいてCO2(二酸化炭素=地球温暖化ガス)を排出する。もっとも、バイオマスの中でも直物由来の燃料は、もともと光合成を通じて大気中のCO2を吸収していた。そのことによって相殺されて、CO2の増加にはつながらないと捉えられている。

このことを再生可能エネルギーの世界では、カーボンニュートラル(CO2において中立的)と表現している。CO2を減らすことはない代わりに、増やすこともないという意味合いで、その点は家畜の排泄物や汚泥なども同様である。

また、1や2は発電に活用しなければ焼却処分などが行われてきたケースが多いだけに、地球環境に優しい活用だと考えられている。さらに、木質バイオマスの燃焼灰(燃えかす)を融雪資材に用いるような取り組みも行われているという。

日本でバイオマス発電の導入が進められてきたのはいつからか? そのメリットとデメリットは?

バイオマス発電がどのように進められてきたか、その経緯を見ていこう。併せて、バイオマス発電のメリットやデメリットについても解説する。

国を挙げてスタートしたバイオマス発電への取り組み

一般的にはあまり知られていないが、2002年12月に「バイオマス・ニッポン総合戦略」が閣議決定に至っている。これは、地球温暖化の防止や循環型社会の形成、農山漁村の活性化などといった観点から、農林水産省をはじめとする政府関係機関が協力して、バイオマスの活用を推進するための施策や行動計画についてまとめたものだ。

それを起点に国を挙げてバイオマス発電への取り組みをスタートさせ、2006年3月には、2005年に発効した「京都議定書」などを踏まえて戦略の見直しが行われている。2009年には「バイオマス活用推進基本法」が制定され、さらにバイオマス発電も「固定価格買取制度(FIT制度)」の対象となったことで、民間の参入も促されるようになった。

バイオマス発電のメリットとデメリット

バイオマス発電の大きなメリットは、安定的な電力供給能力にある。太陽光発電や風力発電は、天候に左右されがちだが、バイオマス発電は燃料さえあれば発電するので、電力需要に応じたコントロールが容易だ。

加えて、先述したように従来は処分されていたものを発電に用いられることも意義深い。木材の端材活用では、衰退傾向にあった日本国内の林業を活性化させたり、間伐などを通じて森林を再生させたりする活動の一助ともなる。

逆にデメリットとして挙げられるのは、バイオマス資源の中には加工コストを軽視できないものも存在することだ。たとえば、木材の端材を燃料に用いる際には、運搬費用などとは別に、チップやペレットに加工するためのコストが必要となる。

続々と各地で営業運転を開始するバイオマス発電

緊急事態宣言が全面解除された前日に当たる2020年5月24日、JXTGエネルギーが90%、日揮ホールディングスが10%を出資するENEOSバイオマスパワー室蘭が商業運転をスタートした。それまでJXTGエネルギーはメガソーラー(国内18カ所、約4.6万kW)や風力(全国2カ所、約0.4kW)を展開してきたが、バイオマス発電は初めての試みとなる。

木質バイオマスのみを燃料とする発電所としては国内最大規模で、生み出された最大7.49万kWの電力は前述のFITを通じて売電される。室蘭市からの要請を受け、日没から24時まで発電所のライトアップを実施し、地域社会の発展・活性化にも協力しているという。

ENEOSバイオマスパワー室蘭に先駆け、5月8には中部電力が三重県の四日市でバイオマス発電所の営業運転を開始している。発電出力は4.9万kWで、同社としては初の木質バイオマスの採用となる。想定される年間発電量は約3.8億kWhで、一般家庭12万世帯分に相当するという。

和歌山県上富田町でも、大和エナジー・インフラによる木質バイオマス発電所が6月10日から商業運転を開始している。この分野を得意とするグリーン・サーマルとの共同事業で、同県内で初の木質バイオマス発電所となった。

一方、東京ガスの100%出資子会社であるプロミネットパワーは、富山県高岡市の伏木万葉埠頭バイオマス発電所(発電出力:約5.1万kW)と千葉県市原市の市原八幡埠頭バイオマス発電所(発電出力:7.5万kW)を取得した。前者は2021年10月、後者は2024年1月の商業運転開始を予定している。

コロナとバイオマス発電などの再生可能エネルギーとの因果関係2点

実は、バイオマスのような再生可能エネルギーと新型コロナウイルスとの間に、ある種の因果関係のようなものが生じている。

1.エネルギー需要から運用コストの安い再生エネルギーに注目が集まる

まず、春先の感染拡大を受けて主要国の大都市がロックダウン(都市封鎖)やそれに準じる措置に踏み切るとともに、出入国を厳しく制限したことから、世界的なヒトやモノの行き来が滞った。

そして、経済活動も超潮力モードへと切り替わったため、電力をはじめとするエネルギーの需要はいまだかつてない水準まで低下した。IEA(International Energy Agency=国際エネルギー機関)の推測によれば、2020年における通年の世界的なエネルギー需要は6%程度の低下となると目されている。

航空機が飛び交わなくなり、電力需要も大幅に落ち込めば、石油のような化石資源の消費は低迷する。その結果、原油価格が暴落し、石油への投資を見合わせるという事態も起こっている。

また、バイオマスなどの再生可能エネルギーによる発電は、運用コストが安く発電する地域でバイオマス資源を調達できることから優先的に利用され、再生エネルギー需要は横ばいかわずかに増えている。全体の発電量のうち再生エネルギー発電の割合が増え、再生エネルギー発電の良さが認識されたことで、アフターコロナでも再生エネルギーを積極的に使おうとする流れになっている。

2.コロナを機にバイオマス発電で温暖化対策と経済成長を目指す

コロナ禍で経済活動が停滞し、顕著になったのが世界的なCO2排出量の削減だ。

コロナの発生源となった中国の大気は著しく汚染されていることで知られていたが、ロックダウンによって急激な浄化が進んで世界的に話題に上った。他の地域でも、経済活動の自粛で環境悪化に歯止めがかかっていることが確認されている。

そうなってくると、コロナの感染拡大が沈静化の兆候を示し始めたからといって、今までと同じように化石燃料の大量消費に回帰することにはためらいが生じる。実際、コロナの収束後にCO2の排出量が反動増とならないように制御するために、世界的に対策が検討されているところだ。

そして、CO2の排出を抑えながらエネルギー供給を果たし、持続可能な社会の実現と経済成長の“二兎”を追うことを可能とするのが再生可能エネルギーである。コロナはかけがえのない多数の生命を奪っているが、結果的にCO2 の排出にストップをかけたのも事実で、次は人類が再生可能エネルギーを上手く活用して、いっそうの地球環境保全を達成する番だと言えそうだ。

バイオマス発電が経済に及ぼす波及効果は?

みずほ情報総研が2016年に公表した「再生可能エネルギー等の関連産業に関する調査」では、太陽光発電が国内投資額11兆7,190億円に対して、28兆720億円の経済効果が見込まれると試算している。これに対し、風力発電は1兆5,330億円の国内投資で3兆5,850億円の経済効果が期待されるとのことで、規模ではかなり劣るものの、後者のほうが効率においては優れていると判断できそうだ。

では、肝心のバイオマス発電のほうはどのような試算になっているだろうか。こちらは、9兆1,580億円の国内投資で21兆9,040億円の経済効果が期待されるという。ROI(Return on investment)は太陽光発電とほぼ同等だが、初期投資が相対的にやや抑えられているのも確かである。

しかも、太陽光発電はソーラーパネルが割れて破損することも珍しくない。これらの試算は、2015年~2030年に導入の設備を対象とした試算値であり、2014年以前に導入された設備は対象としていない。また、2016年以降の導入については、現在価値換算のために割引率3%を適用しているという。あくまで特定の条件のもとに予測した数値ではあるが、おおよその参考にはなるはずだ。

そして何より、経済効果以上に期待されているのは、環境保全への貢献である。簡単なことではないが、将来的に化石資源を燃料にしている火力発電の多くがバイオマス発電に置き換われば、相当なCO2削減効果が期待できる。

燃料やガス源とできる対象が広いバイオマス発電が主役になる日も!?

当然ながら、太陽光発電のエネルギー源は太陽光だけであり、風力発電は風力だけである。その点、バイオマス発電は廃棄物から農作物で従来は使用しなかった部分など、かなり多岐にわたっている。先々ではさらに広範のモノを利用して発電できる可能性も考えられるし、その意味では非常に実用的な再生可能エネルギーと言えそうだ。

かつて、太陽光発電設備が投資対象としても大いに脚光を浴びたが、先々でバイオマス発電でも同じようなことが起こるかもしれない。地球環境を守るうえで一役を担うのは間違いないので、今後も注目し続けていきたい。

文・大西洋平(ジャーナリスト)

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