経済
(画像=PIXTA)

外注先へ報酬を支払う際に、成果報酬もしくは成功報酬で計算している企業は多く見受けられる。字面は似ているものの、実はこれらの報酬体系は全く異なるものなので注意が必要だ。これまで混同していた経営者は、正しい意味やメリットなどを確認しておこう。

目次

  1. 完全成果報酬とは?
    1. 営業代行をイメージしてみよう
  2. 完全成功報酬とは?
    1. M&A仲介会社、弁護士業界では一般的
  3. 企業側(依頼側)から見た完全成果報酬のメリット・デメリット
    1. 完全成果報酬のメリット
    2. 完全成果報酬のデメリット
  4. 企業側(依頼側)から見た完全成功報酬のメリット・デメリット
    1. 完全成功報酬のメリット
    2. 完全成功報酬のデメリット
  5. 完全成果報酬と完全成功報酬の違い
    1. 完全成果報酬・完全成功報酬の共通のメリットとデメリット
  6. 賃金を成果報酬・成功報酬で支払う際の注意点とは?
    1. 1.場合によっては就業規則の変更が必要になる
    2. 2.公平な評価基準を設ける必要がある
  7. 成果報酬・成功報酬の導入前には、十分な分析や検討が必要

完全成果報酬とは?

完全成果報酬とは、「一定の成果」に対してのみ報酬が支払われる仕組みのこと。成果として認められる範囲は契約によって異なり、完全成果報酬では仮にひとつのプロジェクトを完遂しなくても、成果をクリアすればその時点で報酬が支払われる。

営業代行をイメージしてみよう

この完全成果報酬については、営業代行会社をイメージすると分かりやすい。なかには成約数のみを成果とするケースも見受けられるが、営業代行会社では「アポイント獲得数」や「商談機会の創出数」を成果にしているケースが多く存在する。このようなケースでは、最終的に成約に結びつかなかったとしても、アポイントや商談機会をつくるだけで報酬が発生する。

そのほか、アフィリエイトやウェブ広告なども分かりやすい例だろう。たとえば、ブロガーが自身のウェブサイトなどに掲載するクリック報酬型の広告では、成果の条件が「ネットユーザーからのアクセス」に設定されている。つまり、商品の購入につながらなくても、成果となるクリック数さえ稼げれば、一定の報酬が発生することになる。

完全成功報酬とは?

一方で完全成功報酬とは、ひとつのプロジェクトの「成功」に対してのみ報酬が支払われる仕組みだ。たとえば、完全成功報酬では仮にアポイントや商談などの機会をつくっても、成功(成約や売上)につながらなければ報酬は発生しない。

M&A仲介会社、弁護士業界では一般的

完全成功報酬はさまざまな業界で採用されているが、なかでも中小企業と深く関係する業界としてはM&A仲介会社や弁護士などが挙げられる。特にM&Aに関しては多くの仲介会社が完全成功報酬を採用しており、そのような仲介会社に依頼をする場合は、M&Aが成立しない限り報酬が発生することはない。

ただし、完全成功報酬ではなく「成功報酬」と記載されているケースでは、着手金や中間金などが発生することもあるため注意が必要だ。成果報酬・成功報酬のいずれも、頭に"完全"という文字がついていない場合には、ほかの報酬体系と組み合わせた仕組みになっていることが多い。

企業側(依頼側)から見た完全成果報酬のメリット・デメリット

ここからは、完全成果報酬と完全成功報酬の違いをさらに理解するために、各報酬体系のメリット・デメリットを見ていこう。まずは、完全成果報酬の企業側から見たメリット・デメリットについて解説をしていく。

完全成果報酬のメリット

完全成果報酬では、外注先や従業員が何らかの成果を出さない限り、報酬を支払う必要が一切ない。自社にとって「プラスになる結果」に対してのみ報酬が発生するので、完全成果報酬を採用すると無駄なコストを削減できる可能性があるだろう。

また、成果に関する程よい条件を設けることで、外注先や従業員のモチベーションを刺激できる点もメリットだ。企業から依頼された側は、成果の達成を目的として積極的に動くケースが多いため、結果の質にも期待できる。

完全成果報酬のデメリット

完全成果報酬のメリットを最大限活かすには、「成果の条件」を慎重に設定する必要がある。

たとえば、成果条件が厳し過ぎると仕事を請け負う外注先・従業員が見つからなくなるため、あまりにもハードルの高い条件は設けるべきではない。かと言って成果条件を緩く設定すると、無駄なコストにつながってしまうだろう。

また、固定報酬など他の報酬体系に比べると、結果が出たときの報酬が高額になりやすい点にも注意が必要だ。

企業側(依頼側)から見た完全成功報酬のメリット・デメリット

次は、完全成功報酬のメリット・デメリットを見ていこう。前述でも触れたが、近年では多くのM&A仲介会社が完全成功報酬を採用しているため、特に事業承継を検討している経営者はしっかりと理解しておくことが重要だ。

完全成功報酬のメリット

完全成功報酬の最大のメリットは、結果が出ない限り報酬を支払う必要がない点だ。無駄なコストが一切発生しない報酬体系なので、報酬を支払う企業側は依頼リスクを大きく抑えられる。

また、完全成功報酬を採用しているM&A仲介会社などは、結果を出すことに自信を持っているケースが多い。つまり、優れたノウハウや知識、技術を備えている可能性が高いので、完全成果報酬よりもさらに高い質の結果を期待できる。

完全成功報酬のデメリット

完全成功報酬は依頼リスクが低い分、結果が出たときに発生する報酬は高額になりがちだ。依頼される側からすると、結果を出さない限りは利益が一切発生しないので、結果を出したときの報酬金額は高く設定せざるを得ない。

また、依頼した業務が失敗に終わったときに、「時間的なコスト」が無駄になる点も気を付けておきたいポイントだろう。金銭的なコストは発生しないものの、場合によっては数ヶ月単位の時間が無駄になるので、業務効率が大きく下がってしまうこともある。

完全成果報酬と完全成功報酬の違い

ここまで紹介しきれなかった内容も含めて、以下では完全成果報酬と完全成功報酬の違いをわかりやすくまとめた。

依頼側から見たメリット依頼側から見たデメリット
完全成果報酬・一定の成果が出ない限り、報酬を支払う必要がない
・外注先や従業員のモチベーションを刺激しやすい
・成果条件の設定が難しい
・固定報酬に比べて、報酬が高額になりやすい
完全成功報酬・結果が出ない限り、報酬を支払う必要がない
・結果に関しては、高い質を期待できる
・報酬体系がわかりやすい
・完全成果報酬に比べても、報酬が高額になりやすい
・依頼業務が失敗すると、多くの時間が無駄になる

成果ごとに報酬ラインを設定できる完全成果報酬では、最初に成果条件を慎重に設定する必要がある。この段階で失敗をすると、場合によっては固定報酬よりも費用対効果が大きく下がってしまうため注意が必要だ。

一方で、完全成果報酬は比較的わかりやすい仕組みだが、結果が出たときの報酬が高額になりやすい。ただし、最近ではレーマン方式や逆レーマン方式など、報酬金額の計算方法を工夫している業者も多く見受けられるので、コストの高さが気になる経営者はそのような依頼先・相談先を探してみよう。

完全成果報酬・完全成功報酬の共通のメリットとデメリット

完全成果報酬・完全成功報酬については、ほかの報酬体系との違いも正しく理解しておきたい。そこで以下では、固定報酬と比べた場合の共通のメリット・デメリットをまとめた。

固定報酬と比べた場合のメリット固定報酬と比べた場合のデメリット
・成果や結果が出ないなど、依頼のリスクを抑えられる
・成約までの期間が短縮される
・依頼先のモチベーションや、結果の質が上がりやすい
・報酬が高額になりやすい
・依頼内容次第では、コストパフォーマンスが大きく悪化する

完全成果報酬・完全成功報酬の最大のメリットは、依頼リスクを大きく抑えられる点だ。さらに、依頼先のモチベーションをうまく刺激できれば、成約までのスピードや結果の質もアップする。

しかし、成果や結果の条件設定を間違えると、これらの報酬体系のコストパフォーマンスは大きく下がってしまう。したがって、成果や結果の条件を決める際には、その条件が「自社にとって本当にプラスになるのか?」を慎重に見極める必要がある。

いずれの報酬体系も固定報酬とはメリット・デメリットが大きく異なるので、導入前には綿密なシミュレーションや検討をしておきたい。

賃金を成果報酬・成功報酬で支払う際の注意点とは?

企業が従業員への賃金を完全成果報酬・完全成功報酬で支払う場合には、いくつか注意しておきたいポイントがある。特に以下で挙げる2つの点は、想定外のトラブルに発展する恐れがあるため、しっかりと理解したうえで報酬体系を変更することが重要だ。

1.場合によっては就業規則の変更が必要になる

就業規則に記載されている「報酬の算出根拠」と、今後新たに採用する報酬体系が異なる場合には、会社の就業規則を変更しなければならない。これは賞与についても同様であり、たとえば基本給はそのままで賞与のみを成功報酬に変更する場合であっても就業規則の変更は必要だ。

また、就業規則を変更した後には「労働基準監督署への届出」も必要になる。ちなみに、採用する報酬体系によっては、「不利益変更」とみなされたり法律に抵触したりする可能性があるので、不安な点がある場合には専門家に相談することも忘れないようにしよう。

2.公平な評価基準を設ける必要がある

固定報酬から成果報酬・成功報酬に変える場合は、すべての従業員を公平に評価することが重要だ。少しでも不公平な評価基準が含まれていると、一部の従業員には不平・不満が溜まってしまうため、会社全体の生産性が低下してしまう。

また、報酬体系を変更すると、従業員の生活も大きく変わる点はきちんと理解しておかなくてはならない。従業員によっては給与が大きく減ってしまう恐れがあるので、導入前には全従業員に対して十分な説明を行い、しっかりと理解を得ておこう。

成果報酬・成功報酬の導入前には、十分な分析や検討が必要

今回解説してきたように、成果報酬・成功報酬の仕組みは固定報酬とは大きく異なっている。導入時のメリットも変わってくるため、成果報酬・成功報酬をうまく活用できれば、さまざまな場面で高いコストパフォーマンスを維持することが可能だ。

ただし、いずれの報酬体系に関しても、「成果・結果の適切な条件」を設定することが必須となる。この前提をクリアしない限り、多くのコストや時間を無駄にしてしまう恐れがあるので、導入前には細かい部分までしっかりと分析・検討をするように意識しておこう。

著:片山 雄平
1988年生まれのフリーライター兼編集者。2012年からフリーライターとして活動し、2015年には編集者として株式会社YOSCAに参画。金融やビジネス、資産運用系のジャンルを中心に、5,000本以上の執筆・編集経験を持つ。他にも中小企業への取材や他ライターのディレクション等、様々な形でコンテンツ制作に携わっている。
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