WORDS by EXECUTIVE
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「AIのビジネスモデルは一言で言うと『推論』だ」――。

ソフトバンクグループの孫正義会長は、2019年5月に開催された2019年3月期の決算説明会で、こう言い切った。そして、この推論としてのAI(人工知能)が応用できる分野として真っ先に「ライドシェア」を挙げ、乗客を効率良く得るための「需給予測」こそがAIの真骨頂だと力説した。

同グループは傘下の10兆円ファンド「ソフトバンク・ビジョン・ファンド」(SVF)を通じ、AI、そしてライドシェア領域に巨額を投じてきた。この説明会を前に同グループが筆頭株主となっている米ウーバー・テクノロジーズの上場が決まったこともあり(※編注:現在は既に上場)、孫氏の冒頭の発言には並々ならぬ自信と確信が伴っているように感じられた。

連載「経営トップ、発言の真意——WORDS by EXECTIVE」、今回は孫正義氏の特にライドシェア領域に関する発言を取り上げ、同領域におけるソフトバンクグループの事業戦略に迫る。

ライドシェアの今と「馬鹿な国」発言

有償のライドシェアは、日本では今はまだ全面解禁されていない。交通手段が脆弱な地域では例外的に導入が認められているものの、住民の新たな足としてライドシェアが既に市民権を得つつあるアメリカや欧州、中国などとはまったく異なる状況だ。

孫氏も2018年7月、法人向けに開いたイベントで日本政府のライドシェア規制について、「こんな馬鹿な国がいまだにあるということが僕には信じられない」「未来への進化を自分で止めている」と批判した。

2019年3月には、安倍晋三首相が未来投資会議でライドシェアの規制緩和に取り組む方針を示したものの、あくまでも交通手段が脆弱な地域で展開可能という現制度を利用しやすくすることを目的としており、全面的な解禁はまだ遠いと見られている。

2020年になってもこの流れは変わっていない。むしろ新型コロナウイルスの感染拡大という大問題が起きたことでライドシェアの議論は国会でもほとんど聞こえて来なくなり、今のところアメリカのUberのように日本でライドシェアサービスが展開されている状況ではない。

「世界の4つのトップの会社がファミリーに」

そんな日本を尻目に、世界のライドシェア市場は2025年には現在の約3倍以上の20兆円規模まで膨らむと言われている。そんな有望市場に孫氏が目をつけていないはずがない。

ソフトバンクグループとSVFは前述のウーバーのほか、中国のライドシェア最大手の滴滴出行やシンガポールに本拠地を置く東南アジア最大手のグラブインドのOlaにも出資をしている。「世界の4つのトップの会社がソフトバンクグループのファミリーに今なったわけです」。孫氏は過去にこう自信を示している。

さらに、孫氏は未来の「ポスト・ライドシェア」になり得る次世代ビークルに対しても既に出資攻勢をかけている。それが「自動運転タクシー」だ。

ライドシェアの先に見据える「自動運転タクシー」

米調査会社アーク・インベストメントが2019年1月に発表した資料によれば、自動運転タクシーは運転手の人件費などが抑えられる分、利用者が負担するコストは従来のタクシーの13分の1程度になるという。このことから同社は「自動運転タクシーネットワークの台頭そして急成長が実現すると予想します」している。

孫氏もこのような未来を見据えていると思われる。2019年4月には、SVFはトヨタなどとともにウーバーの自動運転部門に出資することを発表した。SVF単体での出資額は、3億3,300万ドル(約360億円)に上る。SVFの自動運転領域への出資は今回が初めてではなく、過去に米GMの自動運転開発子会社クルーズなどにも出資している。

2019年2月には、デリバリーに特化した自動運転車両を開発する米Nuroに対しての出資についても発表された。自動運転車を使ったデリバリーは「コンタクトレス」という観点からもコロナ禍が起きてから大いに注目を浴び、Nuroは順調にビジネス規模を拡大しているようだ。

決算説明会のロングスピーチに注目

ユニコーン(企業価値が10億ドル以上の非上場企業)への投資に注力するSVF。そしてそのSVFを率いる孫氏は、常に最先端の技術とサービスに触れている。このような理由で、孫氏は今後の潮流について鋭い予測ができるのだ。

孫氏は、四半期ごとの決算説明会で毎回ロングスピーチを行う。次回の説明会では何を語るのか、注目したい。

文・岡本一道(金融・経済ジャーナリスト)

経営トップ、発言の真意
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