WORDS by EXECUTIVE
(画像=wolterke/stock.adobe.co)

「私は、イノベーションはどこからか突然訪れるものではなく、インプルーブメントが呼び込むものだと考えております」--。

トヨタ自動車の第11代社長・豊田章男氏は、2019年3月期の決算説明会でこう述べた。

自動車業界の勢力図を一変させるインパクトを有する「CASE」(コネクティッド、自動運転、シェアリング、電動化)への対応が求められる中でも、改善の力こそが「持続的成長を支える競争力の源泉」(章男氏)だという。

急成長するIT企業が続々自動車業界に参入する中でも、トヨタが磨き続けてきた「武器」はまだ通用するのか。連載「経営トップ、発言の真意 WORDS by EXECTIVE」、今回は豊田章男氏の発言を取り上げ、トヨタの事業戦略に迫る。

IT企業にはない武器を大いに活用する

2019年5月8日の決算説明会。章男氏は、CASEの進展でトヨタも従来のビジネスモデルを変える必要があることを説明した一方で、「変えてはいけないもの、むしろ磨き続けていくべきものもある」と述べた。冒頭の発言はこの文脈で登場した。

章男氏自身が「100年に一度の大変革の時代」と形容するこのタイミングで、「改善」に立ち返るという意思を表明した理由は何であろうか。そのヒントを与えてくれるのが次に紹介する発言だ。

章男氏はトヨタにおける「モノづくりの力」「ネットワークの力」「保有の力」などを「モノづくりの世界で闘ってきた私たちが持つ、一朝一夕ではつくれない、『リアルの力』です」と説明する。「モノづくり」「一朝一夕ではつくれない」。これらのワードは、自動運転タクシーの商用営業を昨年開始したGoogleなどの巨大IT企業を意識した言葉だ。

業界で存在感を高めるIT企業に勝つために、IT企業にはない武器を大いに活用する——。冒頭に紹介した発言は、その決意表明であるとも捉えられるだろう。

CASEに立ち向かうトヨタ

ただトヨタは決してこれまで磨き続けてきたものに固執しているわけではない。ビジネスモデルを変える必要があると認識していることは、既に紹介した通りだ。では進展するCASEにトヨタはいま具体的にどう立ち向かっているのだろうか。

自動運転領域に関して言えば、トヨタは2020年の東京オリンピックに合わせて自動運転カーの公道デモ走行を行う計画を立て、開発中の自動運転EV「e-Palette」の特別仕様車を選手村で運行させようとするプロジェクトも進んでいた。東京五輪は延期されたが、2021年に五輪が開催されれば最新型のe-Paletteがお披露目されるはずだ。

調査会社の富士キメラ総研によれば、自動運転・AIカーの販売台数は2040年には世界で4412万台に達し、自動車販売の33%を占めるようになる。いずれは大半の自動車が自動運転車という時代も来ることを考えれば、黎明期の現在においても研究開発に力を抜くことは考えられない。

「つながるクルマ」と呼ばれるコネクテッドカーの領域においても、既に新型クラウンやカローラスポーツに車載通信機を標準搭載し、独自に構築した情報インフラから、さまざまなサービスをドライバーに提供している。

最近では、トヨタのコネクティッド・シティ「Woven City」の構想も発表され、話題になっている。2021年2月に静岡県の東富士で着工される予定で、コネクテッドカーや自動運転車の実証実験をこのWoven Cityの中で盛んに実施していく計画のようだ。

章男氏が今後発信するメッセージにも注目

約36万人の従業員を抱えるトヨタの社長である章男氏の発言は、自動車業界という枠を超え、大きな影響力を持つ。これまでには日本自動車工業界の会長として「なかなか終身雇用を守っていくというのは難しい局面に入ってきたのではないか」と述べ、日本における雇用形態の潮流が既に大きく変わりつつあることを再認識させた。

また自動運転に関しては、東京五輪が延期になったことでトヨタの最先端の技術力を国内外に示す機会は先送りされたが、まだまだ自動運転時代は始まったばかり。章男社長が今後自動運転に関してどのような発言をしていくのかについても、引き続き注目していきたい。

文・岡本一道(金融・経済ジャーナリスト)

経営トップ、発言の真意
(画像=THE OWNER編集部)クリックすると連載TOPページへ飛びます