WORDS by EXECUTIVE
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「ジョブスがまだ生きていれば、DisneyとAppleは既に合併していたと信じている」——。

ウォルト・ディズニー・カンパニーのボブ・アイガーCEO(最高経営責任者)は、2019年9月23日に発売された自著『The Ride of a Lifetime』の中でこう語っている。Apple創業者の故スティーブ・ジョブスとアイガー氏の関係は特別なもので、親交も深かった。ジョブスは生前ディズニーの取締役を務め、アイガー氏もAppleの取締役会に名を連ねた。

そのアイガー氏が先日、Appleの取締役から外れた。そのトリガーとなったのが、両社がそれぞれ独自で始める「定額制動画配信サービス」だ。市場規模が拡大する同サービスは、コンテンツ事業を展開するディズニーにとって特に重要度が高い。Appleと袂を分かつことになっても致し方ないだろう。

連載「経営トップ、発言の真意——WORDS by EXECUTIVE」の第10回では、アイガー氏の言葉を取りあげ、両社が独自事業として展開していく定額制動画配信サービスや市場概況などについて解説する。

11月サービス開始の「Disney+」とは?

アイガー氏がAppleの取締役を外れる直接の起因となったのは、ウォルト・ディズニーが米国時間の2019年4月11日に発表した動画ストリーミングサービス「Disney+」だ。報道発表では今年の11月12日から月額6.99ドル(約750円)で提供を開始することが説明された。

ウォルト・ディズニーが携える「ディズニー」のほか、「ピクサー(Pixar)」「マーベル(Marvel)」「スターウォーズ(Star Wars)」「ナショナル・ジオグラフィック(National Geographic)」などのブランドの動画がテレビやモバイル端末で見放題となるこのサービスでは、同サービス大手「ネットフリックス(Netflix)」の人気プランの半額程度の料金に設定されている。

事業初年度は25本を超えるオリジナルシリーズに加え、オリジナル映画やドキュメンタリーなども展開することを発表しており、先行するNetflixなどの一人勝ちを許さない姿勢を強烈にアピールした格好となっている。

「Apple TV+」の発表、同時にアイガー氏辞任

そして2019年9月10日、Appleも動画ストリーミングサービスとして「Apple TV+」を発表した。配信開始日は11月1日で、先にDisney+を発表していたウォルト・ディズニーにタイミングをぶつけた。

提供作品は全てオリジナルコンテンツで、月額は4.99ドル(日本円では600円で提供)。アップルのデバイスユーザーは既に世界で14億人規模となっており、同サービスを展開する上でのユーザー獲得の難易度に関して言えば、DisneyよりAppleに分があるという見方も強い。

こうした経緯もあり、アイガー氏はApple TV+が発表された2019年9月10日付で、2011年から務めていたAppleの社外取締役を辞任した。定額制動画配信サービスで今後競合する両社間でより緊張が高まることが目に見えているからだ。

ただアイガー氏はこのことを少なからず悲しんでいるように感じる。冒頭で紹介したように、アイガー氏はジョブス氏がまだ生きていればDisneyとAppleは合併していた可能性を示唆している。コンテンツ制作はDisney、配信はApple——。こうした青写真をアイガー氏は描いていたのではないか。

有望市場でシェアを伸ばすのはどちらか

定額制の動画配信市場は来年には500億ドル(約5兆4,000億円)規模になると予測されている。日本の国内市場も右肩上がりとなり、調査会社GEM Partnersによれば、2018〜2023年は年平均6.3%拡大し、2023年には3,000億円規模となると予測されている。

合併は水泡となったDisneyとApple。群雄割拠の動画配信サービスだが、どちらがこの有望市場でシェアを伸ばすのか注目だ。

経営トップ、発言の真意
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