WORDS by EXECUTIVE
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「ラグジュアリーな旅の概念を覆す」——。

ホテルの経営者がこう言ったのなら、特にニュースにはならない。ただ、こう宣言したのは2020年11月16日にIPO(新規株式公開)を行ったAirbnbのCEO(最高経営責任者)であるブライアン・チェスキー氏だ。元々自宅のエアマットレスを貸し出すことから始まったAirbnbが、次は「超」がつくほどの高級物件までも囲い込もうとしている。

連載「経営トップ、発言の真意——WORDS by EXECUTIVE」、今回はブライアン・チェスキー氏の発言を取り上げ、巨大プラットフォームに成長したAirbnbの次なる戦略を解説する。

進化を繰り返すAirbnb

既に世界191カ国以上の10万都市において600万以上の登録があるAirbnbは、進化を繰り返している。2008年に民泊仲介マッチングサービスを開始したあと、空いている部屋や家をシェアするという基本コンセプトを軸に、新たなサービスブランドを次々と世に送り出してきた。

例えば、宿泊だけではなくアクティビティもマッチングの対象にした。2016年11月には「トリップ(Trips)」というサービスをローンチし、専門的なガイド知識・ノウハウを持つ人やアクティビティを、商品として売り出すことができるようにした。

この体験サービスはその後さらに進化を遂げ、2019年6月には新たなサービスカテゴリとして「アドベンチャー」も発表された。このカテゴリは体験サービスの内容をさらに拡大したもので、「冒険」と呼ぶのがふさわしいかもしれない。断崖絶壁でのキャンプなども既に登録されている。

新たな挑戦、高級路線の拡大

こうしたAirbnbの新たな挑戦の一つが「高級・高品質」に特化した部門の新設・拡大だ。

Airbnbは2018年2月、予約できる民泊の新グレードとして「Airbnb Plus」を発表した。このAirbnb Plusは、清潔さや快適さのほか、デザインの洗練度など100項目以上の審査をパスした登録施設だけに与えられる称号で、より高い品質を求めるゲストをメインターゲットに展開をスタートした。

そして「体験」が「アドベンチャー」へと進化したように、「Airbnb Plus」の上位互換版のサービスとして「Airbnb Luxe」が2019年6月に発表された。冒頭の「ラグジュアリーな旅の概念を覆す」という言葉は、このLuxeのローンチでチェスキー氏が放った言葉だ。

Airbnbは2017年の段階で高級旅行会社Luxury Retreatsを買収し、Luxeローンチの伏線作りにかなり早期から取り組んでいた。民泊の普及だけでも既存のホテル業界に少なからず影響を与えているのに、Luxeの登場はさらに業界を戦々恐々とさせた。

念頭にあるのは「IPO後」?

ではなぜAirbnbは次々と新たなサービスブランドを立ち上げているのか。

もちろん勝算があることに積極的に乗り出すのは、わずか10年でユニコーン企業群(企業価値が10億ドル以上の非上場企業)のトップ組に上りつめたAirbnbらしいことと言えるが、そこには今回実施されたIPOのことが少なからず念頭にあったはずだ。

2020年に入り、同じように新興市場を制したライドシェア大手ウーバーが上場したが、株価の推移は決して好調とは言えない。赤字体質に対する投資家の目は厳しく、営業職やエンジニア職の採用を抑制する方向性を打ち出すなど、ウーバーにとっては予断を許さない状況が続く。

Airbnbは2年連続で通年黒字決算と数字の面でも好調だが、上場後も順風満帆な時期が続くとは限らない。そういう意味でも、既存事業のブラッシュアップだけではなく、新たな収益部門の創出や路線の拡大も常に模索し続けていきたいところだろう。

IPO後、チェスキー氏はこうした戦略について何を語るか。その内容にも注目したい。

経営トップ、発言の真意
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