WORDS by EXECUTIVE
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「私の主要な優先事項のひとつは、IBMにおける起業家精神を育成することです」——。IBMの最高経営責任者(CEO)に4月に就任したアービンド・クリシュナ氏は社員に宛てたメッセージでこう語り、さらに、「洗練よりもスピードを重視」という姿勢を明確にした。

クリシュナCEOがこう語る背景には、加速するテクノロジーの進化に継続的に適応していく必要性が高まっていることのほか、新型コロナウイルス終息後の「アフターコロナ」を見据えた考えもあることが考えられる。新型コロナは「ニューノーマル」をもたらすといわれる。その備えをいち早く進めなければならない。

連載「経営トップ、発言の真意——WORDS by EXECUTIVE」、今回はIBMの新CEOであるアービンド・クリシュナ氏の発言に焦点を当て、IBMの今後の事業展開に迫る。

1990年にIBMに入社、クラウド部門を率いてきた人物

2020年1月、IBMのトップが8年ぶりに交代することが発表された。新CEOに就いたのはインド出身のアービンド・クリシュナ元上級副社長だった。

クリシュナ氏は1990年にIBMに入社後、米ソフト大手のレッドハットの買収やクラウド事業を指揮・主導してきた人物で、最近では量子コンピューターやAI(人工知能)などの研究でも音頭をとっていることで知られる。

クリシュナ氏のCEO就任は株式マーケットで好感を得た。クリシュナ氏の先進テクノロジーに対する知識が評価され、IBMの成長に寄与することが期待されてのことだ。

クリシュナ新CEOは就任にあたって社員に宛てたメッセージの中で、「IBMに在籍した30年以上の間、IBM社員の素晴らしい才能と献身を目にしてきました」とした上で「皆さんのCEOとなれること、そしてIBMのような象徴的で、名高く、革新的な会社を率いることができることを心から光栄に思います」としている。

IBMではクラウドが持続的な成長を支えていくように

そんなクリシュナ氏が「IBMにおける起業家精神を育成すること」「洗練よりもスピードを重視する」と語っている文書を読むと、クラウド事業など先進技術部門を率いてきた同氏らしさを感じる。

IBMの2019会計年度の通期決算では、売上高は前年比3.1%減の約771億ドル(約8兆3,100億円)とやや落ち込んでいるが、クラウド事業などの好調ぶりが目立ちつつあり、今後のIBMの持続的な成長を支えてくれる存在であることは間違いない。

こうした状況はクラウド部門を率いてきたクリシュナ氏の自信にもなっており、だからこそ伝統ある企業においても「洗練よりもスピードを重視する」と強く明言できたのだと考えられる。

ちなみにクリシュナ氏は、起業家精神を育成することについて、「曖昧さを容認し、変化する状況に継続的に適応するということでもあります」とも語っている。

「私たち自身の理解をより深めなければ」とも

クリシュナ氏は「サービス」や「ミドルウェア」に続く新たな経営基盤を構築するため、「ハイブリッド・クラウド」と「AI」に対するアプローチを強化することにも触れている。そしてそのために、「私たち自身の理解をより深めなければなりません」と社員に向けて語っている。

AIなどの領域では、スタートアップやベンチャー企業の台頭が目立つ。米調査会社のCBインサイツが発表しているユニコーン(時価総額10億ドル以上の非上場企業)リストでは、上位企業の多くが何らかの形でAIの研究・活用に携わっている。IBMのような歴史ある大企業もうかうかしていられない状況で、彼らには、まさに勝つための起業家精神が必要なのだ。

クラウドやAIは2020年代以降に本格化していく「車の自動運転化」にも大きく寄与する技術だ。自動運転車では、車両に搭載されたAIがクラウドと通信しながら安全な運転操作を行う。そんな自動運転市場の伸びは今世紀で最大のものとなることも期待されている。

クリシュナ氏はきっとこの分野にも狙いを定めているはずだ。クリシュナ氏の今後の経営手腕に期待が掛かる。

経営トップ、発言の真意
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