WORDS by EXECUTIVE
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「われわれはユーザーの皆さまのプライバシーとセキュリティーに対する期待に応えられていなかった」——。ビデオ会議サービスの「Zoom」を運営する米Zoom Video Communicationsの創業者であるエリック・ユアンCEOは、こう素直に謝罪のコメントを出した。

新型コロナウイルスの感染拡大でZoomの利用者が約20倍に増え、サービスに注目が集まったことで、セキュリティーの穴が見つかったことを受けたコメントだ。そのセキュリティーの穴とは一体どんなもので、ユアンCEOはこの問題をどう解決しようとしているのか。

連載「経営トップ、発言の真意——WORDS by EXECUTIVE」、今回はエリック・ユアンCEOの言葉を取り上げ、一躍注目を浴びることとなったZoomの今と今後に焦点を当てる。

Zoomでは過去にも脆弱性が発見されている

Zoomの運営会社はアメリカ企業だ。企業自体は2011年に設立され、2013年1月からサービス提供が開始された。法人利用も伸び、2019年4月には新規株式公開(IPO)を行った。

Zoomでは過去にもセキュリティー上の脆弱性が発見されており、第三者を偽装してメッセージを送れたり、共有画面をハッキングできたりすることが問題視された。こうした脆弱性はその後に修正されたものの、今回新たにプライバシーとセキュリティーに関する問題が発見された格好となっている。

今回の脆弱性は、Zoom上のオンライン会議に不正侵入を許してしまうといった類いのものだ。この脆弱性に目をつけたハッカーがポルノ画像などをオンライン会議中に強制表示させる事件などが相次ぎ、大きな波紋を呼んだ。

こうした事態を受け、Zoomを活用していた行政機関や教育機関、民間企業などの中には、職員や従業員のZoom利用を禁止するケースも出てきた。そのような状況の中でユアンCEOは謝罪の言葉を述べた形だ。

問題の解決に全力、今後90日間は新機能追加ナシ

ただ、今回の脆弱性の発見はZoomの今後の事業展開における決定的なマイナス点となったわけではない。適切で迅速な措置を実行すれば、さらなるユーザー数の拡大は確実に見込める。それだけリモートワークなどによる需要が今は急拡大している。

その証拠に、Zoomの2019年末の利用者数は1,000万人だったが2020年3月には2億人と20倍に増えている。リモートワークの拡大のほか、「オンライン飲み会」などがはやりだしたことで仕事以外での個人利用も増えたことが要因と考えられている。

ユアンCEOはZoomの公式ブログを通じ、新たな脆弱性が発見されたことに「非常に大きな責任を感じている」と釈明した上で、今後90日間はセキュリティー性とプライバシー性の向上に努めると明言している。Zoomは頻繁な新機能の発表でも知られるが、問題が解決されるまでは新機能の追加もナシにするという。

ユアンCEOはこのメッセージを発表したのが4月1日で、その1週間後にはFacebookでセキュリティー担当幹部を務めていた人物をアドバイザーとして招聘したことを発表している。その人物とはアレックス・スタモス氏で、スタンフォード大学の非常勤教授も務めるセキュリティー対策のやり手だ。

スタモス氏という強い味方が加わったことで、脆弱性などの問題を完全に解決できるか、注目が集まる。

「社会インフラ化」しつつあるZoom

新型コロナウイルスの終息にはあと数年掛かるという見方もある。そんな中、「アフターコロナ」ではなく「ウィズコロナ(withコロナ)時代」をどう生きるか、ということを考えざるを得ない状況となっている。

ウィズコロナ時代、Zoomは人々のコミュニケーションの「社会インフラ」として機能することになる。Zoomにとってはチャンスでもあるが、一方で責任も重大だ。問題解決に向けたユアンCEOの手腕に期待したい。

経営トップ、発言の真意
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