WORDS by EXECUTIVE
(画像=Nontachai/stock.adobe.co)

「必ずラストワンマイルはタクシーが担っていくと思っている」——。タクシー事業を展開する日本交通の川鍋一朗会長は、IT大手DeNAとの事業統合に関する記者発表の場で、タクシー事業に関する思いをこう力強く述べた。ラストワンマイルとは、公共交通機関から自宅や目的地までの最後の一区間のことを表す言葉だ。

大正元年に有楽町でスタートしたとされる日本のタクシー産業。海外ではライドシェアがラストワンマイルの移動サービスとして台頭しつつあるが、日本では日本交通をはじめとしたタクシー事業者が利用者の維持と新規獲得に向け、新たな改革と挑戦に積極的に臨んでいる。

川鍋会長の冒頭の言葉からもそんな意気込みが感じられる。そしてこの記者発表会では、子会社のJapanTaxiが展開するタクシー配車アプリ事業とDeNAの配車アプリ事業を統合し、事業拡大や競争力強化、そして利便性のアップに向けた取り組みを強化していくことが明らかにされた。

連載「経営トップ、発言の真意——WORDS by EXECUTIVE」、今回は日本交通の川鍋一朗会長の発言を取り上げ、日本交通が描くタクシーの未来に関する青写真やDeNAとの取り組みなどについて解説していく。

なぜJapanTaxiとDeNAは手を組んだのか

JapanTaxiはタクシー配車アプリで日本最大手だ。全国47都道府県をサービス提供エリアとしてカバーし、JapanTaxiのアプリに対応しているタクシー台数は約7万台に上っている。2011年にローンチされてからのダウンロード数も累計で900万回に達した。

ただ川鍋会長はまだまだユーザーにはタクシーに対する不安や不満があり、タクシー産業にはさらなる進化が必要だと記者会見の場で語った。その進化の例が、タクシー乗務員と乗客がそれぞれ評価を行う「相互レーティング」であり、料金が時間帯や曜日によって変動する「ダイナミックプライシング」だという。

ただこうした事業改革には時間が掛かる。タクシー会社としてスタートした日本交通にも、IT技術の力が必要となる。こうした視点でDeNAとの事業統合に向けて話が進んでいったという。

配車アプリ日本最大手×ITメガベンチャー

「どうすればもっとタクシーが早く進化するかと日々考える中で、ふと横をみるとDeNAさん。やっぱり参考になるな、と。マーケティング的にもですが、いろいろいいサービスも出される。やはりITメガベンチャーですから、技術力あるなと」

川鍋会長は記者会見でこのように事業統合の経緯を語った。DeNAは自社でタクシー配車アプリ「MOV」をローンチし、「0円タクシー」といった奇抜なマーケティング策や、乗客を得るために乗務員に経路をナビする「お客様探索ナビ」を商用化したことで知られる。IT企業ながら「タクシー業界の進化に全力で向き合っている」と川鍋会長は感じたという。

さらに、日本交通とJapanTaxi、そしてDeNAは、ある意味では「タクシーの敵」とも言えそうな「自動運転」にそれぞれ向き合っていることでも知られている。

JapanTaxiは自動運転タクシーの事業化に向けた実証実験に参加している。イノベーションが起きるであろう将来において、タクシー事業者として貢献できることは何か……。そのことに真摯に向き合っていると言えるだろう。DeNAも日産と組んで、「Easy Ride」という自動運転移動サービスの商用化に取り組んでいる。

JapanTaxiとDeNAには共通項が多いのだ。

進化のスピードを増すために

タクシーが永続的に利用されていくためには、進化は不可欠だ。そして将来的に海外のライドシェアサービスが日本に上陸する可能性も考えれば、その進化にはスピード感も必要だ。そういう意味でも、JapanTaxiとDeNAの連携は納得がいく。

DeNAはJapanTaxiの共同筆頭株主となり、2020年4月にはJapanTaxiの社名も刷新され、新体制で事業に臨んでいる。今後新たにどのような取り組みがリリースされるのか、期待だ。

経営トップ、発言の真意
(画像=THE OWNER編集部)クリックすると連載TOPページへ飛びます