「新聞業界の課題を乗り切るために」——。投資会社バークシャー・ハサウェイを率いる米著名投資家のウォーレン・バフェット氏は、同社の新聞事業を米中堅メディアのリー・エンタープライゼズに売却するという発表に際し、こうしたコメントを述べた。
かつて新聞配達の仕事をしていたことでも知られるバフェット氏。特別な愛着を持っていた新聞事業の売却には、どのような背景があり、そしてどのような思いが込められているのか。
連載「経営トップ、発言の真意——WORDS by EXECUTIVE」、今回はバークシャー・ハサウェイのウォーレン・バフェット最高経営責任者(CEO)の発言を取り上げ、同社の新聞事業や新聞業界を取り巻く状況などについて解説していく。
紙からデジタルへ
紙からデジタルへ——。この潮流は誰もが知るところだ。日本国内でも新聞の発行部数の減少が著しい。日本新聞協会の調べによると、2019年の一般紙とスポーツ紙の発行部数の合計は、2009年は約5,035万部だったが2019年には3,781万部まで減った。実に10年間で発行部数が1,254万部減少したことになる。
この減少スピードは加速しており、例えば2008年から2009年の減少幅は100万部程度だったが、2018年から2019年にかけては200万部も減少している。1世帯あたりの部数も2009年は0.95部だったが、2019年は0.66部まで数字を落とす結果となっている。
バフェット氏と新聞
バフェット氏は投資業界では「投資の神様」とも呼ばれる人物だ。十代のころにしていた新聞配達の仕事で貯めたお金で、投資家としてのキャリアをスタートさせたことでも知られる。同氏は新聞業界が斜陽に傾く中でも長年にわたって新聞の存在意義を唱え続けてきた。
特に、コミュニティ意識が高い地域の住民たちにとって地方新聞が財産となっていることを強調し、デジタルが台頭する今後も新聞が消えることはないという持論を展開してきた。そして2012年、全米の地方新聞63紙を買収することが明らかになり、バフェット氏の手腕によるテコ入れが期待された。
ただその後、バフェット氏は徐々に新聞事業を切り離していく。2018年に新聞部門の運営をリー・エンタープライゼズに委託し、そして2020年1月には同社に新聞事業を売却することが発表された。
「新聞業界の課題を乗り切るため」
バフェット氏は新聞の将来を見放してしまったのか。そういう見方ができなくもないが、今回の売却についてバフェット氏はあくまで「新聞業界の課題を乗り切るため」と強調している。
売却先のリー・エンタープライゼズとは新聞事業の運営の委託で既に協業関係にあり、同社であれば新聞業界の危機を救えると判断したようだ。
ただ2019年にバフェット氏は、大手紙以外は生き残るのが難しいという見方を示したこともあり、新聞業界の今後がさらに厳しいものになると考えていることは明白だ。
新聞社からみれば運営企業がころころ変わる展開になっている中、アメリカの地方新聞が今後どうなっていくのか注目が集まる。
情報信頼度のトップは新聞という事実
新聞の発行部数が減っていることは確かだし、投資の神様でさえ事業を好転させることに苦心した。ただ一方で、新聞が報じるニュースの信頼度が他のメディアに比べて高いことにも注目したい。
日本の新聞通信調査会が2019年11月に公表した「メディアに関する全国世論調査」によれば、新聞の情報信頼度は「NHKテレビ」を抜いて1位となっている。「民放テレビ」「ラジオ」「インターネット」などは新聞よりもはるかに信頼度が低い。果たして、信頼性という基盤は今後新聞にとっての希望の光となりうるのだろうか。