矢野経済研究所
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10月13日、国際エネルギー機関(IEA)は「World Energy Outlook 2020」をリリース、2050年にゼロエミッションを達成するための道筋を提示した。ハードルは高い。しかし、欧州は2050年を、中国も2060年を目標に動き出しており、日本も2050年の達成を表明した。米国はパリ協定への復帰を公約したバイデン氏が政権につく。

脱炭素の流れはもう一段加速するだろう。とりわけ、産業界はイノベーションの余地が大きい洋上風力、水素、次世代電池、カーボンリサイクル、送配電制御システムへの投資を強化する。3,500兆円を越える世界のESG投資がこれを後押しする。
一方、日本の気候や国土の在り方を鑑みると、“水力” というシンプルなエネルギー源にもう一度光を当てるべきではないか。

先般、筆者は特定非営利活動法人「日本水フォーラム」の竹村公太郎代表理事にお会いする機会があった。氏は国土交通省(旧建設省)で開発課長、河川局長を歴任したダム行政のプロである。
竹村氏は言う。「日本は水というエネルギー資源を有する。しかし、63年前の法律によってその潜在能力が発揮できていない(特定多目的ダム法)。新設の必要はない。既存ダムの運用ルールを変更し、10%の嵩上げをするなどわずかな追加投資で電力需要の20%を確保できる。これは年間2兆円規模の電力に相当する。ダムは、かつてそこにあった人々の暮らしを犠牲にして建設された国家資本である。しかも、半永久的に壊れない。これを“未来の国益”へつなぐ責任がある」と。

今年に入って国土交通省は、貯水量や発電量の柔軟な振替が可能となるようダムの運用方法の見直しに着手した。純国産、低炭素、コストフリーで、日本全国に分散した、永遠のエネルギー資源の活用に向けての突破口になるかもしれない。竹村氏の夢に向けて一歩前進だ。

今週の“ひらめき”視点 11.8 – 11.12
代表取締役社長 水越 孝