サイゼリヤが経営不振にあえいでいる。サイゼリヤが発表した2020年8月期決算では、営業損失38億1,500万円、当期純損失は34億5,000万円と大幅な赤字を計上した。コロナウイルス感染拡大に伴う打撃を、真正面から受けてしまう形となった。さらに追い打ちをかけるように、2021年8月期の予想は営業損失10億円、当期純損失36億円を見込んでおり、経営改革が急務となっている。
2020年7月に、全メニューに対して端数を切り捨てるという大胆な価格改定を実行するなど経営効率化を推し進めているが、コロナ禍に打ち勝つべくどのような策を講じようとしているのだろうか。
サイゼリヤの成功戦略は「徹底した低コスト」にあった
お手頃価格で本格イタリアンを楽しめるレストランとして、学生からファミリー層まで幅広い消費者からの支持を集めてきたサイゼリヤだが、その成功の秘訣は、「徹底した低コスト経営」にある。
これまでサイゼリヤは、3つの戦略が功を奏し増収を続けてきた
サイゼリヤの低価格メニューは「製造直販業」「オペレーションの効率化」「ジャンル特化」の3つの戦略により成り立っている。
「製造直販業」とは、商品開発から食材の生産、加工、配送に至るまで、一貫して自社で管轄する手法である。全ての工程を自社で取り仕切ることで、サプライチェーンを効率化し、価格コントロールを実現しながら良質な商品を消費者に提供することが可能となる。
また、徹底した「オペレーションの効率化」も大きな強みだ。特に、店舗ではごく簡単な調理のみで料理が完成するよう、セントラルキッチンによってほとんどの調理を完成させている。このような対応で、料理の質を均一に保つと同時に、店舗設備や人件費を最小限に抑えることが可能となり、店舗経営の効率化に大きく貢献している。
そして、このような低コスト戦略を実現する上で欠かせない3つ目の戦略が「ジャンル特化」だ。料理の提供ジャンルを多様化させるほど、より多くの消費者の好みを囲い込めるが、食材管理や調理が複雑になり、必要以上のコストが発生する。その点サイゼリヤは、イタリアン一本で勝負することで、調達から物流、調理に至る一連のバリューチェーンを徹底的に効率化できているのだ。
外部要因に敏感な利益構造が弱点でもあった
一方で、このようなローコストオペレーションに依存した利益体質が、外部環境の変化を受けやすいという側面もある。2010年8月期ではテレビ特集による特需も相まって約116億円という過去10年で最高の営業利益を計上したが、2014年8月期は円安によるコスト増に苦しみ、営業利益は約55億円にまで低下している。
このように過去をさかのぼっても、一時的な特需やコスト要因により利益が乱高下しており、外部環境の変化に対して利益を生み出す耐性が比較的弱いという弱点もある。
コロナウイルスにより、3つの外的要因が経営悪化に拍車を賭けた
そこに、コロナウイルス感染拡大という大きな外部環境の変化が、サイゼリヤの経営の弱点を真正面から突いてきた格好だ。同社が2期連続の赤字見込みに苦しむ状況は、次の3つの観点から説明される。
外出自粛や営業規制による需要の激減
政府や地方行政からの要請により消費者が外出を自粛したことや、飲食店が営業時間の短縮を余儀なくされたこともあり、集客可能人数が激減してしまった。さらに外出自粛が緩和された後も、ソーシャルディスタンスに伴い席数を制限するなど、フロア単位面積、単位時間あたりの集客人数が大幅に制限され、飲食店にとって大打撃となっている。
外国人人材の確保が困難であることや、海外物流の停止などの海外調達チェーンが断裂
また、サイゼリヤの大きな強みであるローコストオペレーションを支えていた「安い人件費」と「効率的なサプライチェーン」が、今回のパンデミックにより機能しなくなっている。比較的安い人件費で雇用可能な外国人人材が渡航制限により確保できなくなっただけでなく、輸出入や物流といったモノの移動も制限され、通常より大きなコストがかかる状況に至っている。
テイクアウトやデリバリーなどの中食産業に対する競争戦略を立てていなかった
さらに問題なのが、近年の飲食店業界の構造を変革しつつある、フードデリバリー等といった「中食産業」に対して、サイゼリヤがこれまで大きな改革をしてこなかったことだ。これが、今回の2期連続赤字見通しの根底にあると見ることもできる。
コロナ以前にも、コンビニエンスストアの総菜商品や飲食店のテイクアウトメニューなど、店舗運営にとどまらない「中食産業」の拡大は、すでに飲食店の大きな経営課題であった。今回のコロナウイルスがその流れに拍車をかけた形となり、以前から経営改革を進めていた企業にとっては、一層その改革スピードを求められることになる。
サイゼリヤは、「低価格・店舗型」依存の経営から脱却できるか
コロナウイルスの影響の長期化が予想される中、外食産業はすでに「ウィズコロナ」に向けた業態変化を模索している。「Uber Eats」や「出前館」などの配送プラットフォームを活用したデリバリー事業の強化など、新たなビジネスモデルへの進出も目立ってきた。
「店舗型・低価格」モデルに特化してきたサイゼリヤは、この環境変化をどのように乗り越えるのか。まさに今、構造改革に向けた”正念場”となっている。
文・森琢麻(M&Aコンサルタント)