新型コロナウイルスにより大きくダメージを受けた業種の1つに「飲食業」がある。国の休業要請や外出自粛により一時休業ではなく、閉店を余儀なくされた店舗も多い。ではこのような状況の中、飲食業において最も厳しい状況を突き付けられているのはどの業態であろうか。
帝国データバンクが発表した2020年度上半期の倒産動向
まず、飲食業界全体の傾向から分析していこう。民間調査会社の帝国データバンクが公開しているデータを参考にする。同社は2020年10月13日、2020年度上半期(2020年4~9月)における飲食店事業者の倒産動向(負債1000万円以上が対象)について、集計結果を公表した。
2020年上半期は過去最悪の結果に
この倒産動向によれば、2020年度上半期に飲食業界では392件の倒産が発生しており、上半期としては過去最悪の結果となったようだ。帝国データバンクは「このままのペースで倒産が発生すると、2020年度の年間倒産件数は過去最多を更新する可能性がある」としている。
なぜ、このように倒産件数が増えているのだろうか。もちろん新型コロナウイルスの影響もあるが、飲食業界ではもともと、人手不足や後継者問題などの課題を抱えていた。そのような状況の中で新型コロナウイルスが経営の厳しい状況に追い打ちをかけてしまった。
日本では最近、受動喫煙対策を強化する「改正健康増進法」も全面施行され、対応に苦慮する飲食店も多くみられた。分煙などのための設備投資に、費用がかさんでいる店舗も少なくない。
業態別の倒産件数は?ワースト1位は「酒場・ビヤホール」という結果に
では続いて、業態別の倒産件数を同じく帝国データバンクのデータから読み解いていこう。
業態別の倒産件数は?
飲食店と言っても、さまざまな業態が存在する。日本料理店、中華料理店、バー、喫茶店など、多岐にわたる。そのような中で、いま新型コロナウイルスによって最も深刻な影響を受けているのは、どの業態だろうか。
業態別の倒産件数は以下の通りだ。ワースト順位の右横の()内は2019年度の1年間における倒産件数の順位を示し、2019年度の1年間と2020年度の上半期で、順位がどのように変動したか分かるようにした。
<業態別の倒産件数のワースト順位>
1位(1位):酒場・ビヤホール(98件)
2位(3位):中華・東洋料理店(55件)
3位(2位):西洋料理店(54件)
4位(6位):日本料理店(40件)
5位(8位):一般食堂(34件)
6位(4位):バー・キャバレーなど(31件)
7位(7位):その他の一般飲食店(25件)
8位(5位):喫茶店(24件)
9位(9位):すし店(20件)
10位(10位):そば・うどん店(7件)
11位(11位):料亭(4件)
2020年度上半期で最も倒産件数が多いのは「酒場・ビヤホール」で98件となっており、ラーメン店やカレー店などを含む「中華・東洋料理店」が55件、イタリア料理店やフランス料理店を含む「西洋料理店」が54件と続いている。
一方で順位の変動でみると、2019年度はワースト6位だった「日本料理店」がワースト4位、2019年度はワースト8位だった「一般食堂」がワースト5位へとそれぞれ悪化しており、この2つの業態は特に経営状況が悪化していると考えられる。
2020年度の下半期は状況が改善する?
では、このような状況は2020年度の下半期(2020年10月〜2021年3月)になって改善するのだろうか。国は外食需要喚起策として2020年10月から「Go To Eat」キャンペーンを開始しており、このキャンペーンによって各店舗の売上が一定程度回復することも期待される。
Go to キャンペーンは効果があるのか?
しかし、帝国データバンクは「インバウンド消失など多大な影響があるなかで、抜本的な問題解決に至る見込みは低いとみられる」と分析している。特に訪日観光客が多数押し寄せていたエリアでは、ビフォーコロナの水準にはなかなか戻りにくいだろう。
またGo To Eatでは「プレミアム付食事券の販売」と「オンライン飲食予約によるポイント付与」の2つのキャンペーンが行われる。そのうち後者は、予約サイトからの予約後に来店するとポイントが付与される仕組みとなっており、予約サイトに参加していない店舗は恩恵を受けにくい。
もちろん、これまでに予約サイトに参加していない店舗が新たに掲載登録をすることも可能だが、予約ごとに発生する送客手数料に二の足を踏んで登録をしていない店舗も少なくない。そのため、Go To Eatの効果は限定的だと指摘する人もいる状況となっている。
まだまだ多くの飲食店では厳しい状況が続く
デリバリー需要をうまく取り込んでいるチェーン店などもあるが、コロナ禍が収まるまではまだまだ多くの飲食店では厳しい状況が続く可能性が高い。
また、日本は世界的にみれば感染者数が低く推移しているが、今後もそのような状況が続くかは不明だ。感染者が激増しているパリのように夜間外出禁止令が発出されれば、夜間営業を行う飲食店はさらに大きなダメージを受けることになる。予断を許さない状況が続く。
文・岡本一道(金融・経済ジャーナリスト)