国内ではじめて感染者が確認されてから10ヵ月、緊急事態宣言の終結から半年が経過した。感染収束の見通しが立たない中、医療従事者への負担は依然として小さくない。しかし、初期の混乱状態は収まった。当初はまったく未知のものであった病気の特性も徐々に明らかになってきた。経済政策の効果も表れつつある。
12日に日銀が発表した「貸出・預金動向」によると都銀、地銀、第2地銀の貸出伸び率は、過去最高となった8月から鈍化、9月は前年同月比+6.2%となった。また、全国信用保証協会の保証債務残高は8月末時点で前年比169.8%、35兆723億円に達しているが、新規の保証承諾は件数、金額ともに6月をピークに減少基調にある。5月から6月にかけて前年比800%を越えた保証承諾額は、依然として高水準ではあるものの8月には同496.5%となった。7月以降、代位弁済も件数、金額ともに前年を下回る(全国信用保証協会連合会調べ)。既に一部では返済の動きも出てきており、業種による差はあるものの資金需要全体でみると総じてピークアウトしたと言える。実際、4月から9月における負債額1千万円以上の倒産件数は3,858件、前年比▲9.3%、件数は過去30年間で最少、負債総額も過去2番目の低水準となった(東京商工リサーチ調べ)。
一方、失業予備軍と言われる休業者は4月に597万人を記録、以降減少傾向にあるが8月末時点で216万人、雇用助成金特例措置の期限が12月に迫る。完全失業者は206万人、7か月連続で増加している。完全失業率は前月比+0.1ポイント、3.0%となった。7月の2次補正で2兆円を確保した家賃支援給付金も10月12日までの支給件数は58万件の申請に対して半分の30万件にとどまる。コロナ禍の長期化に伴う債務返済能力の低下も懸念される。事業意欲を喪失した経営者の休業や廃業、小規模事業者の経営の行き詰まりも深刻化しつつある。はたして、個々の中小企業や零細・個人事業者への支援は行き届いているか。
20日、国土交通省はGOTOトラベル事業について、7月の事業開始から9月末までの利用者が延べ2,518万人、割引額が1,099億円に達したと発表した。本施策に対する筆者の見解は7月30日付の本稿で述べたので繰り返さないが、税金の直接投入に対して同額の効果があるのは当然であり、そもそもこれでは公的事業の事業性評価になっていない。経済波及効果はもちろん、感染の拡散、便益の不平等性、他の政策との整合性、実施のタイミングなど負の効果も含めた検証が必要である。
今、本格的な「第2波」の到来が懸念される “冬” を前に、私たちはこの10ヵ月間の行政施策について医療と経済の両面から総合的な検証を行う必要がある。世界がはじめて経験する感染症であり、誤りや失敗があったとすれば課題や原因を明らかにしたうえで修正すれば良い。コロナ禍の長期化に備えるために、まずは政策判断の根拠と意思決定プロセスの開示、そして、科学的知見の総合化と個々の政策が与えた社会的影響の検証をお願いしたい。そうあって、はじめて政策効果の “見通し” を社会全体で共有できるはずだ。
今週の“ひらめき”視点 10.18 – 10.22
代表取締役社長 水越 孝