会社経営では資金繰りを改善させる努力は欠かせない。資金不足が悪化すれば、場合によって当座預金に必要な資金を用意できず決済ができない「不渡り」となり、銀行の当座口座の凍結などペナルティが発生してしまう。これは信用問題に直結し、倒産の理由にもなる深刻な問題だ。
今回は資金繰りを悪化させない、そして資金繰りを改善するためのポイントを5つ解説する。
目次
資金繰りを悪化させない5つのポイント
「資金繰りが悪化して倒産」という場合、多くの人は企業が赤字だと考えるのではないだろうか。実は黒字なら倒産しない、というのは間違いである。業績が黒字でも不渡りの可能性はあり、不渡りを起こしてしまうと、重いペナルティが待っている。
1)不渡りを二度起こさない
当座預金に必要な資金を用意できず決済ができない「1号不渡り」を出すと、1度目は「手形交換所」から加盟銀行に通達がなされる。銀行から信用力に問題があると判断され新規の融資が厳しくなる。
2度目の不渡りを起こしてしまうとペナルティがさらに重くなり、銀行取引が2年間も停止されるのだ。
新規の融資も受けられなくなり、決済用口座である当座預金の利用ができなくなる。手形や小切手の利用ができないことから、取引先からの信用も失われ事実上の倒産とみなされることが多い。
2)キャッシュインを多く・早く
資金繰りの改善のポイントは現金をどれだけ手元に置いておくかにある。「会社に入るお金をできるだけ多く・早くし、出ていくお金をできるだけ少なく・遅く」する作業を繰り返すことで資金繰りを改善させることができる。
「売掛取引」を例に見ると、通常は売上があるとその代金が会社に入るが、売掛取引では売上の後日に代金が支払われる、いわゆる「ツケ」だ。
売上から代金支払いまでの期間を「売上債権回収サイト」と呼ぶが、資金繰り改善のためには売上回収サイトはできるだけ短くした方がよい。
3)キャッシュアウトを少なく・遅く
「買掛取引」は売掛取引の逆で、仕入れの代金を後日支払う取引だ。
仕入れから代金支払いまでの期間を「仕入債務支払サイト」と呼び、この期間はできるだけ長い方が資金繰りは改善する。
4)利益と資金の両面から取引を考える
資金繰りを考えると「断った方がよい取引」もあるかもしれない。例えば代金の支払いがあまりに遅い売掛取引は、仮に利益が大きいものでも資金面から危険度が高くなる。
取引の質を利益面と資金面から考えるようにし健全な取引を増やすようにしたい。
5)いざという時のための内部留保も
資金繰り改善にはキャッシュフローの改善が有効だが、生まれるキャッシュを「内部留保」としてストックしておくことも大切だ。
経営におけるキャッシュフローにはさまざまな要因が影響を与えている。売上の多くを占める得意先企業の破綻など、自社の経営努力だけでは対応できない外部要因も存在している。
キャッシュフローの改善だけでなく、いざという時のための資金準備をしておくことも重要だ。
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資金繰り改善1――赤字体質の解消
資金繰り改善のポイントをもう少し具体的にご紹介していこう。ポイントは全部で5つだ。
1つ目は赤字体質の解消だ。赤字とは基本的に「売上<経費」ということであり、キャッシュインよりキャッシュアウトが大きくなっている。資金繰りがタイトになり不渡りを出してしまう可能性が高いだろう。
資金繰りの源泉はやはり会社の業績だ。売上はキャッシュインに、経費はキャッシュアウトに大きく影響する。売上を伸ばし経費をおさえることが資金繰りの改善に大きく役に立つだろう。
新規事業などで売上の増大を図る
売上の増大には地道な経営努力が必要だ。方法としては、販路の拡大や新規事業の展開などが考えられるだろう。
特定の顧客に売上を依存するのではなく、販路の拡大を図る姿勢が大切だ。顧客からの紹介や自社商品の売り込みなど、常に新規顧客の獲得を目指さなければならない。商材によっては広告も有効だろう。
既存事業の経営資源を活用できないかも検討したい。商品の製造ラインや獲得している販路の活用ができれば新規事業の業績予測が立ちやすい。
売上の拡大は常に立ちはだかる課題で明確な解決法は存在しない。しかし漫然と取り組むのではなく、経営者の責務として取り組んでほしい。
仕入先の選定などで経費の削減を
売上の拡大が外部への取り組みなら、経費の削減は内部への取り組みだ。取り組みやすい反面、売上への影響をないがしろにしてしまわないよう留意したい。
経費において大きな要素を占めるのは仕入や人事面だろう。仕入れ先と交渉し、できるだけ仕入費を抑えるように工夫が必要だ。
会社の売上が見込めるなら仕入れの量を増やすことで値引き交渉がスムーズにいく場合がある。会社の仕入れは仕入れ先にとっての売上であり、仕入れ先にもメリットが生まれるためだ。
新規仕入れ先の開拓も経費削減に有効だ。仕入れ先もまた経費削減の努力をしているのであれば、より有利な価格で商品を生産しているかもしれない。一度にすべての仕入ルートを変更せずとも、仕入れ先を複数にするなど柔軟な姿勢で対応したい。
赤字事業の縮小・撤退も視野に
現時点で赤字でも将来の利益が見込めるのなら事業継続の理由になるだろう。しかし経費に対し売上の増大が見込めない事業は縮小・撤退も視野に入れなければいけない。
業界トップランカーの売上動向や、業界団体の市場規模調査を確認することで、今後の売上の予測がある程度は立つだろう。創業事業にこだわらず会社の存続をかけシビアな判断が経営者には求められる。
資金繰り改善2――売上回収・仕入支払サイトの期間を考える
売上債権回収と仕入支払の期間を調整することで一時的なキャッシュフローには余裕が出る。緊急の場合はこちらも検討しよう。
売上債権回収サイト(売上債権回転日数)を短く
売上債権回収サイトはできるだけ短くすると資金繰りは改善するが、サイトの改善は相手方の協力が不可欠なため交渉が必要となる。
新規取引時に代金の支払いについて取り決めをしておく、自社にルールを作っておくとスムーズだ。すでに契約している継続的な取引も、交渉してできるだけ短くする努力を行いたい。
現金の支払い、または代金の前受けなら売上回収サイトは発生しない。代金の値引きなど取引先が現金や前受けで支払うインセンティブを設定するのも手だろう。
仕入債務支払サイト(買入債務回転日数)を長く
キャッシュアウト側のサイトである仕入支払サイトはできるだけ長くするよう働きかける。
支払いを遅らせる交渉となるため、仕入れ先から理解を得る手段を検討する必要があるだろう。仕入れ先へなんらかの対価も用意しておきたい。
それが難しい場合は、より有利な仕入れ先へ変更してしまという選択をするのもよいのではないだろうか。
それぞれの回転日数を把握
キャッシュイン、キャッシュアウトのサイトが改善されているのかは、それぞれのサイトを回転日数で管理するとよい。
売上債権回収サイト:売上債権回転日数=平均売上債権残高/順売上高 × 365
仕入債務支払サイト:買入債務回転日数=平均買入債務残高/純仕入高 × 365
売上債権回転日数はできるだけ短く、買入債務回転日数はできるだけ長くするようにしておきたい。回転日数を継続的に確認し、改善がなされているか常に点検するべきだ。
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資金繰り改善3――過剰在庫の改善
売上は次の仕入れに向かうお金であり、仕入れ→在庫→売上→仕入れのサイクルを繰り返す。在庫の期間が長いと次の仕入れに充てる資金が少なくなり資金繰りをタイトにしてしまう。
在庫は仕入がまだ現金になっていない状況で、在庫は次の売上になるものであり、売上は次の仕入に向かう資金となる。そのため在庫の量が多い、または在庫の時期が長いと仕入費の支払能力の低下を招くため、できるだけ過剰在庫とならないようにしたい。
売上の管理と販売計画の策定をしっかり行う
在庫が過剰にならないためには販売の管理が必要だ。商品がどれくらい売れるのか、仕入れから販売までの期間はどれくらいか、平均値を把握しておきたい。季節性についても考慮が必要だろう。
それぞれの数値を把握し、データに基づいた販売計画を策定することが過剰在庫の解消につながる。あまりに過小な在庫とするのも危険で、売上の機会を逃してしまいかねない。あくまで適正な在庫水準をキープしておきたい。
棚卸資産回転日数(在庫回転日数)
適正な在庫水準をキープするには継続的な在庫管理が必要だ。仕入れから販売までの期間を「回転日数」で管理しておくとよい。
棚卸資産回転日数=平均棚卸資産残高/純売上高 × 365
売上に対する在庫の残高が少ないほど小さくなる数値で、在庫量の状況を把握できる。継続的に数値を把握し、仕入量や販売額を調整するなどの対策をしたい。
資金繰り改善4――資金調達の管理
資金繰りが悪化している場合、真っ先に考えられるのが資金調達だ。今回は3つの資金調達の方法をご紹介する。
銀行からの融資を受ける
資金調達の手段や質を改善させるのも重要だ。融資などの資金調達は大きなキャッシュインになるが、のちの利払いなどでキャッシュアウトが発生するため、できるだけ条件のよい調達方法を選択したい。
会社経営では銀行との付き合いが長くなるため、信頼関係が構築できているなら一度資金の返済計画の交渉を行ってみるのも手だろう。より有利な銀行に借り換えるという選択肢もあり、金利や返済期限がより有利な条件となる銀行に変更し、財務キャッシュフローの質を向上させるように努めたい。
銀行は資金面だけでなく、ビジネスパートナーとして取引先企業を紹介するビジネスマッチング・サービスなどさまざまな経営サポートを行っているところもあるため、利用するのもいいだろう。
経営者や役員からの資金調達をする
資金調達の手段は銀行など外部からだけではない。経営者や役員からの借り受けや出資、また少人数私募債の発行などでも資金調達できる。会社の経営者・役員は会社と運命共同体で、返済期限や金利の水準など、会社にとって有利な資金調達交渉が行いやすいだろう。
ただし会社役員からの資金調達には資金面からの限界があるだろう。少人数からの資金調達になるため、大きな資金調達が難しいのが一般的だ。
また経営者や役員からの借り入れや出資には会計上の条件もあるため、判断が難しい場合は税務署や税理士、会計士に相談するとよい。資金面や会計上の制限があるが、役員からの資金調達はキャッシュフロー改善に役立つと思われるので検討したい。
助成金・補助金を活用する
国は助成金や補助金を出すことで、経営を資金面からサポートしている。例えば厚生労働省の「雇用調整助成金」や「キャリアアップ助成金」などがそうだ。
助成金や補助金は総務省や経済産業省など省庁ごとに行っていて、地方の役所や公共団体が窓口になっていることも多い。厚生労働省や各地方自治体のウェブサイトなどで利用条件や方法を確認するといいだろう。
助成金や補助金は返済不要が原則で、キャッシュアウトが発生しない有効な資金調達手段となる。資金繰りの改善に役立つため積極的に活用してほしい。
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資金繰り改善5――得意先の信用情報の把握
売上はキャッシュインの源泉であり、売上の大部分を占める得意先は会社のキャッシュフローにおいて重要なファクターだ。
例えば、「売上の多くを占める得意先が、もし破綻してしまったら」と想像してみてほしい。キャッシュフローの悪化は避けられず、資金繰りに窮する可能性が高いだろう。
得意先の信用状況は、自社の資金繰りに直接的な影響を与えてしまう重要な外部要因になる。得意先の信用状況はできるだけ把握しておきたい。
常に取引先の内部情報の把握を
公開企業でない限り財務状況を公開している会社は少ない。そのため窓口となっている担当者と常に情報交換しておくことが大切だ。
また業界の集まりに参加することも有効で、会社の信用状況に関する情報は話題に上りやすく、業界の集まりから取引先企業の情報を収集できる可能性がある。
得意先の信用情報など一般に公開されていない情報収集は手段に限界がある。そのため業界団体主催の親睦会などにはできるだけ出席するようにしたい。
得意先の信用状況に疑問があるなら対策を
もし得意先の信用状況に疑問があるのならば取引条件を確認したい。売掛取引の比率が高い場合は売上回収サイトの短縮、また売掛取引自体の縮小・廃止などなにかしらの対策が必要だ。
すでに信用状況が悪化してしまった得意先企業への交渉は簡単ではないだろう。できるだけ早い情報収集を心がけたい。
顧客・事業ポートフォリオの分散を
万が一に備えて普段から得意先の依存度を下げておくことも大切だ。顧客ごとの販売額を算出し、それぞれの金額がどの程度売上を占めているか「顧客ポートフォリオ」を作っておけば自社の各顧客に対する依存度を判断する材料になるだろう。
依存度の高い顧客(=得意先企業)が認められる場合、得意先企業の信用状況の把握とともに、新規販路の開拓が急務だ。万が一に備え、できるだけ売上を一社に依存しないようにしておきたい。
新規事業の展開も重要だ。得意先企業が自社だけでなく業界全体の得意先になっている可能性もある。その企業に問題があった場合、顧客ポートフォリオ全体で売上減少となってしまう可能性がある。
ひとつの事業だけでなく、別の事業を展開していればダメージも軽減できる。自社の事業ごとの売上を算出し、それぞれの事業が自社全体の売上をどの程度占めているか「事業ポートフォリオ」の把握が重要だろう。
資金繰りは目先・根本での解消を
資金繰りの改善は各取引におけるキャッシュフローの把握・改善の作業を繰り返すことで得られる。
また資金繰りに窮する事態となった場合には、それが一時的なものかどうかの検証も大切だ。不渡りを出さないために目先の資金繰りには資金調達などで対応する必要があるが、同じ事態を繰り返さないためには根本から解決する必要がある。
構造的に資金繰りを悪化させる取引や事業からは撤退も視野に入れて、将来的に資金繰りが改善される環境づくりを心がけるようにしたい。
資金繰りに困ったら専門家に相談を
中小企業の経営者は非常にプレッシャーの大きい立場にある。競争環境の激しい現代は先行きも見通せず、不安を抱える人もいるだろう。
特に資金繰りは会社の存続にも関わる重大な問題だ。もし、資金繰りに行き詰まりを感じていたら、倒産・廃業を考える前に「M&A」を検討してほしい。
M&Aでは、自社の株式を譲渡するなどして大手に会社を売却しながらも、経営者として経営を続けることも可能なため、先行き不安や資金繰りに悩まされることなく、経営に集中できる。
もし経営や資金繰りに得も言われぬ不安があるなら、プロの力を借りることも検討してみよう。良い相手に会社売却が成功すれば、自分にとっても社員にとっても望ましい結果を引き寄せられるはずだ。
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文・若山卓也(ファイナンシャル・プランナー)