銭湯は、地域に住む人たちの生活に欠かせない存在として長年重宝されてきた。しかし近年は、その銭湯に対する需要が減少傾向にある。では、これから銭湯を経営しても儲からないのだろうか。この記事では、銭湯経営のメリットやデメリットをもとに、銭湯の経営が儲かるかどうかを紹介する。また、成功させるうえで意識したいポイントも解説していく。
目次
銭湯経営の現状
はじめに、銭湯経営を取り巻く現状がどうなっているかを確認しておこう。
「銭湯」とは
銭湯とは、公衆浴場法で定められた「一般公衆浴場」のことである。もとは地域住民の生活を守る目的で「一般公衆浴場(銭湯)」が作られた。そのため温泉や娯楽施設などを併設するスーパー銭湯とは、いくつか異なる点がある。例えば温泉は、温泉法によりお湯の温度や成分に決まりが設けられているのが特徴だ。
一方で銭湯は、あくまで生活上最低限の入浴を一般市民が行う目的で作られた施設であるため、温度や成分に決まりはない。また、スーパー銭湯と比較した場合、娯楽施設や飲食施設の有無などはもちろんのこと、料金にも違いがある。スーパー銭湯は自由に料金を決められるが、銭湯は一定の範囲内で入浴料金を決めることとなっているのだ。
銭湯市場の推移
結論からいうと、銭湯市場はこの1980年代から急激に縮小している。厚生労働省の「平成30年度衛生行政報告例(2018)」によると1980年に1万5,696店あった公衆浴場は、その後右肩下がりに減少し、2018年には3,535店にまで減少したという。このような市場縮小の背景には、家庭内における風呂の普及があるといえる。
太平洋戦争後から1960年代にかけては、自宅内に風呂がある家庭はそれほど多くなかったため、銭湯に対する需要は大きかった。しかし、1970年代以降は、風呂が各家庭にあることが当たり前となっていき、それにつれて銭湯に対する需要が減少したと考えられる。今後も銭湯市場はますます苦戦を強いられるだろう。
銭湯経営は儲かるの?銭湯経営の収益モデル
銭湯経営には、大きく分けて2種類の収益源がある。まず1つ目は入浴料だ。銭湯の入浴料は、都道府県ごとに上限が設けられている。例えば、2019年10月時点で東京都は大人470円(税込み)である一方、山形県の場合は大人300円(税込み)だ。この上限以上の料金は設定できないため、より多くの売り上げを得るには利用客を増やす必要がある。
2つ目の収益源は、入浴以外のサービスだ。例えば、タオルやシャンプーの貸し出し、サウナの利用などで利益を得るのが一般的である。入浴料とは違いこちらには特段の制限は設けられていない。上記2つの収益源によって得られた入浴料から水道代や電気・ガス代などの費用を差し引くことで1ヵ月あたりの利益が手元に残る仕組みだ。
入浴料金に制限が設けられているうえに、水道代や湯沸かしに必要なガス代などに多額のコストがかかるため、他のビジネスと比べると儲かりにくいビジネスモデルといえるだろう。
銭湯経営のデメリット3つ
銭湯の経営には、他の業種には見られない以下のような3つのデメリットがある。銭湯の経営を始めるか検討する際には、デメリットを考慮したうえで判断しよう。
入浴料金の上限が決められている
最大のデメリットとなるのが、入浴料金の上限が設定されている点だろう。一般的なビジネスならば自身の商品やサービスに自由に値段設定できる。そのため、デザインやサービスなどを工夫すれば少ないコストで高額な商品・サービスを販売し、大きな利益を手元に残すことが可能だ。一方で銭湯経営では、入浴料を上限以上に高くすることはできない。
例えば、「店内をおしゃれにして入浴料を高めに設定する」といった施策を一切実施できないため、少ないコストで大きな収益を上げる戦略を取れないのだ。
毎月多額のコストがかかる(損益分岐点が高い)
収益を伸ばしにくいだけでなく、毎月多額のコストがかかる点も銭湯経営の大きなデメリットだ。銭湯の経営では、水道代やお湯を沸かすための燃料代、ガス代、電気代、人件費などあらゆる費用がかかる。水道代は国からの補助により大幅に安くできるものの、燃料代や電気代、人件費などだけでも月に10万~20万円程度の費用はかかる。
収益を大幅に伸ばしにくいことを考えると、利用客が多少減少するだけですぐに赤字になってしまう計算になるだろう。
生活の変化から銭湯に対する需要が減少している
「収益を得にくく費用がかかる」というだけでも大きなデメリットだ。そのうえ、肝心の利用客も需要減少により確保しにくいのが現状だ。前述した通り、今やほとんどの家庭には風呂があるため、わざわざお金を払ってまで毎日銭湯を利用する人はあまりいない。
現在まで続いている銭湯も常連客からの売り上げに頼っているケースが多く、今後高齢化により常連客が減ると、銭湯の経営はますます苦境に立たされる可能性が高い。
銭湯経営のメリット3つ
先述したように銭湯経営には克服するのが難しいデメリットがいくつも存在する。しかし、一方で銭湯の経営には以下のような3つのメリットもある。
新規参入が少ない
市場の衰退や経営状況が厳しくなったことから、全国各地で続々と銭湯が閉店に追い込まれている。一見すると、銭湯経営にはメリットがないように思えるかもしれない。しかし、見方によっては新規参入(競合)が少ない環境下で事業を行えるともいえるだろう。銭湯には少ないものの根強いファンが存在する。そのため、銭湯が少なくなることで根強いファンからの収入をある程度得られる可能性があるのだ。
レッドオーシャンの市場とは違い競合との顧客の奪い合いに余計なコストもかからないのは大きなメリットといえる。
自治体からの助成金が手厚い
自治体からの手厚い助成金を得られる点も、銭湯経営に特有のメリットの一つだ。例えば、東京都では、年間数億円におよぶ予算を使って銭湯から入浴券を購入し、それを子どもや高齢者に交付する取り組みを行っている。こうした助成制度があるため、自身で集客しなくても最低限の収入は得やすい仕組みといえるだろう。
また東京都では、銭湯業を経営する事業者に対して水道料金の減免措置を設けている。そのため、実質的にはほとんど水道料金はかからずに済むわけだ。今回は東京都を事例に挙げたが、こうした助成措置は全国のさまざまな自治体で行われている。利用可能な制度をフルで活用できる点は、他の業種にはないメリットといえるだろう。
根強い固定客を付けられる可能性がある
銭湯の経営には「根強い固定客(ファン)をつけやすい」というメリットもある。厚生労働省の公表している公衆浴場業向けのマニュアル「今日から実践!収益力の向上に向けた取組みのヒント」によると、2017年時点で3年以内に銭湯を利用した人の65%が「行きつけの銭湯がある」とのことだ。つまり一度銭湯を利用してもらえば引き続き通ってくれる可能性が高いといえる。
事業が軌道に乗ってくれば助成金とあわせて安定的な収益源となるだろう。
銭湯経営を成功させるポイント4つ
市場の衰退などの原因で、銭湯の経営を成功させるのは決して簡単ではない。とはいえ、いくつか成功に近づくうえで役立つノウハウはある。この章では、銭湯の経営で最低限意識したいノウハウ(ポイント)を4つ解説していく。
アクセスしやすい立地で経営する
銭湯経営を成功させるうえで絶対に欠かせないのが、アクセスのしやすさである。前項で紹介した厚生労働省の「今日から実践!収益力の向上に向けた取組みのヒント」によると、行きつけの銭湯に通う理由で最も多かった内容は「交通アクセス(立地)の良さ」で32%。反対に銭湯を利用しない人の約28%は、近くに銭湯がないことを理由に挙げている。
このデータを踏まえると銭湯で集客するには立地の良さは必要条件といえるだろう。これから銭湯経営を始める人には、必ずアクセスしやすい立地で銭湯の経営を始めるのがおすすめだ。
入浴以外のサービスを充実させる
すでに銭湯を経営している人にもおすすめできるのが、入浴以外のサービスの充実だ。前述した通り、入浴料には上限が設定されているため、入浴料だけで大きな利益を得るのは困難である。しかし、それ以外のサービスに関しては自由に価格を設定可能だ。例えば、タオルや洗面器具、シャンプーの貸し出しなどは、手軽に行える施策となるだろう。
また、初期費用こそかかるもののサウナを開設しサウナの料金を多少高めに設定するのも効果的な施策となり得る。
顧客のニーズを刺激する付加価値を提供する
多少の初期費用や労力はかかるものの、顧客のニーズを刺激するような付加価値を提供できれば他の銭湯よりも圧倒的な利益を獲得できる。他の銭湯にはないようなおしゃれな内装に仕上げることも一つの手だろう。実際に東京都にある銭湯「天然温泉・久松湯」では、建物の外装・内装を図書館や美術館のようなデザインに改築したところ、従来と比較して客数を3倍増加させたという事例がある。
宿泊施設や飲食店などとの連携を重視する
街中にある他の宿泊施設や飲食店などと連携を図ることも銭湯の経営を成功させるうえで有効な戦略となり得る。温泉がない宿泊施設と連携し、お互い宣伝し合うことで、銭湯と宿泊施設が互いに収益を伸ばせる可能性があるだろう。一例を挙げると、東京都台東区にある「hanare」というホテルは、食事は街中の飲食店、温泉は街中の銭湯を利用してもらう戦略を実践し、街の活性化に貢献している。
自社のみで業績を伸ばせない場合は、他の業界・会社との連携により活路を見出せるかもしれないため、ぜひ一度検討したいところだ。
銭湯経営は工夫次第で収益向上も見込める
今回解説した通り、銭湯の経営は市場が縮小傾向にあるため決して簡単ではない。しかし、付加価値の提供などにより十分な収益を得ている銭湯も少なからず存在する。工夫次第で成功する可能性のあるビジネスのため、興味がある人は自治体の助成金や立地などを考慮したうえで、ぜひチャレンジしてはいかがだろうか。
文・鈴木 裕太(中小企業診断士)