コロナ禍は「都市」と「地方」それぞれの価値に大きな影響を与えるかもしれない。都市における密集のリスクが露呈し、多くの人が地方の価値を見直しつつあるのだ。これ以外にも地方には多くの人を引き付ける魅力があり、これからは地方企業がもっと優秀な人材を獲得しやすくなる可能性がある。
2つの価値が見直されている
新型コロナウイルスの感染が広がり、地方の価値が2つの側面で見直されつつある。「密を回避できること」と「住む場所」という2つの側面だ。それぞれについて考えてみよう。
密を回避できること
新型コロナウイルスの感染拡大防止のためには、「3つの密」を避けることが重要視されている。3つの密とは「密閉」「密集」「密接」だ。しかし、都市部でこれらの3つの密は避けにくい。人口密度が地方都市と比べて高い上、土地が効率良く活用されていることがコロナ禍においては災いし、自然と密集しやすい構造になっている建物が多い。
一方で地方においては、3つの密を回避しやすい。人口が都市部より少ないことや人口密度が低いエリアが多いことのほか、建物などもゆったりとした造りになっていることが多い。地方にあるレストランなどに入ると、このようなことを如実に感じる。
住む場所としての側面
コロナ禍は働き方に大きな影響を与えた。出勤せずに在宅でリモートワークをする人が増えた。リモートワークの導入は感染拡大防止の一時的な措置という向きがあったが、企業によっては新型コロナウイルスが収束したあとも可能な範囲でリモートワークの導入を続けることを決めたケースもある。
例えば、語学学習Webサービスを展開するLang-8はすでにオフィスを解約しており、「永久テレワーク」とするようだ。永久テレワークを導入すれば、企業側にとってはオフィスの賃料がかからないというメリットがあり、事業経費の削減につながる。
このようにリモートワーク・テレワークの導入が加速すると、働く人にとっては住む場所の自由度が増す。これまでのように、オフィスの近くに住む必要がなくなるわけだ。そうなれば、両親が住んでいる実家に近い場所や、自然豊かな場所に住むことなども可能になり、住む場所を決める基準が「会社へのアクセスの良さ」ではなくなる。その結果として、自ずと地方の価値が高まっていくというわけだ。
もともと地方にあった魅力にも注目
もともと地方にあった魅力に対する注目度もにわかに高まっている。所帯が小さな地方企業に入社すると、大手企業よりも大きな裁量を与えられるケースが多々ある。たとえプロジェクトの規模が小さくても、就職する企業によってはやりがいを見つけられやすいのだ。
高まる地方の価値
コロナ禍によって地方の価値が高まり、上記のような魅力があることを考えると、地方企業にとってはこれから追い風が吹くとも言える。優秀な人材が首都圏に集中せず、地方に分散する可能性が高まるからだ。
大手企業の正社員が地方に引っ越してリモートワークをするケースでは、そのような人材を直接的に雇用する訳にはいかないかもしれないが、副業・兼業ブームが始まりつつあるいま、すき間時間を使って業務委託型で働いてもらうことも可能になる。
ただし、地方企業も変わる必要がある
このような好機をうまく活用するためには、地方企業もただ優秀な人材を待っていれば良いというわけではない。優秀な人材の定着のため、地方企業側も社内風土や社内制度の変革に努める必要がある。従業員満足度(ES)を意識した変革が求められるのだ。
地方ほど働き方改革が進んでいない?
例えば、勤務体系を見てみる。地方企業であってもリモートワークなどを積極的に導入すべきだ。給与体系についても、地方企業の給与水準は都市部と比べて低いが、優秀な人材には能力に見合った給与を払う工夫も求められる。
同じ会社で新入社員に高い給与を支払うことは、昔から働いている従業員の手前、簡単ではない。実現するには、子会社を新たに設立するなどして、その子会社で雇用するという方法もある。これらの先例はすでにあり、工夫次第で優秀な人材に高い給与を支払うことも可能なのだ。
優秀な人材には、裁量を持たせることも重要となる。経営者としてはリスクを感じることかもしれないが、やりがいを感じてもらうことで離職につながるケースが減れば、新規採用のコストを圧縮できる。福利厚生などの充実も必要だと言えるだろう。
この「好機」をぜひ生かしたい
この記事では、新型コロナウイルスの感染拡大が地方の価値を向上させていることについて解説してきた。地方にもっと目を向くようになれば、地方企業にとっては優秀な人材の確保のチャンスで、この好機をぜひ生かしたいところだ。
新型コロナウイルスは、一義的には日本経済・地方経済に大きなダメージを与えているが、見方を変えればこのような変化はチャンスでもある。地方企業も好機を生かすために変革に挑む必要があるが、チャレンジする価値は十分にあると言える。
文・岡本一道(金融・経済ジャーナリスト)