中東諸国
(画像=erainbow/stock.adobe.com)

アメリカのトランプ大統領の仲介で、イスラエルがアラブ首長国連邦(UAE)とバーレーンとの間の国交正常化の合意文書に署名を行った。中東和平が一歩進んだ形となるが、日本にとって気になるのが石油価格の推移だ。日本の石油の9割近くは中東から輸入しており、中東関係の行方からは目が離せないのだ。

米トランプ大統領が仲介した今回の国交正常化の動き

まず、米トランプ大統領が仲介した今回の国交正常化の合意について振り返っていこう。合意文書への署名は9月15日のことだ。署名式典は米ワシントンのホワイトハウスで行われ、イスラエルのネタニヤフ首相と、アラブ首長国連邦とバーレーンの外相が合意文書にそれぞれ署名した。

進む中東諸国の国交正常化

中東地域においてイスラエルと国交を正常化させた国は、これで4ヵ国となった。1979年にはエジプトが、1994年にはヨルダンがそれぞれ国交を正常化させている。トランプ大統領は今回のアラブ首長国連邦とバーレーンに加え、さらに1~2ヵ国の国交正常化を目指しているようだ。

そもそも、なぜイスラエルは中東でアラブ諸国から孤立していたのか。背景には「パレスチナ問題」がある。パレスチナ問題は1948年のイスラエルの建国によって生じた。イスラエルの建国によってパレスチナに住んでいたアラブ人が故郷を追われる格好となり、そのことにアラブ諸国が強く反発し、中東戦争も勃発した。

このパレスチナ問題はいまだ解決されておらず、そのような状況下においての国交正常化合意には異論もある。しかし、中東和平が一歩前進したことは間違いなく、日本の教科書にも将来掲載されそうな歴史的な出来事であると言える。トランプ氏にとっては今年の大統領選を前に、外交における大きな成果になったと言えそうだ。

日本からは距離が遠い中東諸国だが、エネルギー政策的に重要な国々

今回の国交正常化合意は、日本にとっても大いに気になる出来事だ。中東は、世界的な産油地域だ。中東の和平に関する動きは石油価格にも影響を与える可能性があり、日本政府にとっても日本企業にとっても動向を注視する必要があるというわけだ。

日本は中東諸国への石油依存度が非常に高い

では実際、日本はどれくらい中東から石油を輸入しているのか。国がまとめている石油統計によれば、2018年の原油輸入元は「サウジアラビア」が1位で全体の約38%を占める結果となっており、今回イスラエルと国交正常化の合意文書に署名した「アラブ首長国連邦」は約25%となっている。

同じく中東の「カタール」は約8%、「クウェート」は約7%、「イラン」は約4%、「イラク」は約2%となっており、中東諸国からの輸入は実に9割近くに上る。距離的には日本から遠い国々であっても、日本にとって中東諸国がエネルギー政策的に重要な国々であるかということがお分かりいただけると思う。

国交正常化の動きから、石油価格の動向を見通せる?日本への影響は?

このように日本とも密接な関係にある中東において和平の動きが進展することで、石油価格にはどのような影響が出てくるのか。

石油価格の見通しは不明瞭

実は、その先行きを見通すことは非常に難しい。和平を巡る動きやパレスチナ問題の進展に関しては今なお不透明感が強く、安易な予測は立てにくいからだ。中東の専門家や石油業界のアナリストも、今回の国交正常化合意を踏まえた予測をあまり公言していないのが現状だ。

サウジアラビアとロシアの対立に端を発する原油価格の不安定化や、今年前半に感染拡大が本格化した新型コロナウイルスなどの要因もあり、今後の石油価格の推移はどうなるのか、今のところ確定的なことは口にしにくい。

今後数年はまだイスラエルとアラブ諸国の国交正常化の行方や、サウジアラビアとロシアの対立の動向を見守る必要があると言えるだろう。

しばらくはイスラエルとアラブ諸国の国交正常化の動きを注視する必要性

では、イスラエルとアラブ諸国の国交正常化は、今後進んでいくのだろうか。イスラエルとUAE、バーレーンによる国交正常化の合意文書の署名に対するアラブ各国の反応から、その予測がおぼろげながら立てられる。

まず、サウジアラビアは内閣が声明を発出している。パレスチナ問題の「包括的な解決」が重要だと強調している。パレスチナ問題の解決なしにはイスラエルとの国交正常化はあり得ないというスタンスだ。

イランも今回の国交正常化の合意文書の署名には反発している。「イスラム諸国には屈辱」との声明を出しており、しかるべき武力攻撃も辞さないと警告している状況だ。

このような状況から考えると、トランプ大統領が仲介した今回の国交正常化は、そのさらなる進展が決して簡単ではないことを思わせる。逆に、何かのきっかけで和平への動きが逆戻りしてしまう可能性もあるわけだ。

中東は今なお混沌としている。そんな中では石油価格の見通しも立てにくいが、最新ニュースをチェックし、値動きの端緒は掴めるよう努めたいところだ。

文・岡本一道(金融・経済ジャーナリスト)

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