新型コロナウイルス感染症による中小企業の売上減少に対応するため、国からさまざまな支援金の創設や既存制度の要件緩和が行われている。今回は、中小企業が優先的に利用を検討すべき支援金(給付金・助成金・補助金)について、概要や金額、対象者などを紹介する。
目次
中小企業が活用できる支援金1.持続化給付金
新型コロナウイルス感染症により、特に大きな影響を被った事業者が受けられる支援で、すべての業種で検討しやすい。
持続化給付金の要件
持続化給付金の対象となる主な要件は、以下のとおりである。
・2020年1月以降に新型コロナウイルス感染症拡大の影響などによって、事業収入が前年同月比50%以上減少した月(対象月)がある
・2020年4月1日時点で、資本金の額または出資の総額が10億円未満(資本金等の総額が定められていない場合は、常時使用する従業員の数が2,000人以下)
・2019年以前から売り上げが発生し、今後も事業継続意思がある
持続化給付金の支給額
【支給額の計算式】
支給額=(A)-(B)
(A) 前年の年間事業収入
(B) 対象月の月間事業収入に12を乗じて得た金額
【支給上限額】
法人:最大200万円
個人:最大100万円
【3月決算法人の計算例】
2020年3月期(1年間)の事業収入:1,000万円
2020年5月(1か月)の事業収入:50万円
2019年5月の事業収入:100万円
2020年5月が対象月で、前年同月比50%以上減のため給付対象となる。
支給額は下記のとおり計算できる。
支給額=1,000万円-50万円×12=400万円
法人に関する支給額の上限は200万円なので、結果として200万円が支給される。
最新の情報は経済産業省のホームページで、適宜確認していただきたい。
参考
持続化給付金(経済産業省)
中小企業が活用できる支援金2.雇用調整助成金
雇用調整助成金とは、景気後退をはじめ経済上の理由によって、事業者が従業員に一時的な休業や教育訓練、出向などを行って雇用を維持した場合、休業手当や賃金の一部が助成される制度である。
現在、新型コロナウイルス感染症の影響を考慮して、通常の雇用調整助成金よりも受給対象者が拡充された特例措置を利用できる。
雇用調整助成金における特例措置の対象
特例措置の対象は、休業などの初日が令和2年1月24日から令和2年8月31日までに属する場合である。この間は、通常よりも生産指標などの減少要件が緩和される。生産指標とは、売上高または生産量などの事業活動を示す指標だ。
さらに令和2年4月1日から令和2年9月30日(緊急対応期間)の間における休業などであれば、要件のさらなる緩和とともに助成率もアップする。
5月19日以降は、手続きの簡略化が行われている。簡略化されたのは、支給申請に用いる平均賃金額の計算方法や小規模事業主の助成額などである。計算の簡略化にともない、申請様式も簡便なものにリニューアルされている。
厚生労働省:雇用調整助成金の様式ダウンロード
雇用調整助成金の主な支給要件
【通常時の主な要件】
・最近3ヶ月の生産指標が前年同期と比較して10%以上減少している
・一定の雇用量を維持している
・過去の助成から一定期間空けている(クーリング期間要件)
・被保険者として継続雇用された期間が6か月以上ある(被保険者期間要件)
・計画届の事前提出がある
【特例措置(1月24日~7月23日)】
・生産指標が1ヶ月10%以上減少
・雇用量の維持、クーリング期間、被保険者期間の要件撤廃
・計画届の事後提出可(6月30日まで)
【特例措置(4月1日~6月30日)】
上記の特例措置に加えて、
・生産指標が1ヶ月5%以上減少に緩和
・被保険者でない労働者の休業も対象
・対象業種の拡大
・労働保険料の滞納による不支給要件はなし
など
注意点は、撤廃・緩和の内容が、1月24日からの休業などから適用されるものと、4月1日からの休業などからしか適用されないものがあることだ。
「生産指標が1か月5%以上減少」が支給要件になるのは4月1日からで、「生産指標が1か月10%以上減少」が要件になるのは、1月24日から3月末までの期間である。
雇用調整助成金の助成金額
【通常時】
休業手当や賃金などを支給した場合の助成率は、中小企業が2/3、大企業が1/2であり、日額8,330円が上限となる。
教育訓練費を支出した場合の加算額は、1人あたり1日1,200円であり、1年間で100日(3年間で150日)の支給が上限となる。
【特例措置(4月1日~6月30日)】
休業手当や賃金などを支給した場合の助成率は中小企業が4/5(9/10)、大企業が2/3(3/4)であり、カッコ内は解雇などを行わない場合を示す。
教育訓練費を支出した場合の加算額は中小企業が2,400円、大企業が1,800円である。
なお、中小企業が解雇などを行わず従業員に休業手当を支給する場合で、休業期間が4月8日以降に関するケースは以下の拡充措置(6月30日まで)が適用される。
・休業手当のうち賃金の60%を超える部分の助成率を100%とする。
・都道府県の休業要請を受けた中小企業のうち、100%の休業手当を支払っているなど一定の要件を満たす場合は、休業手当全体の助成率を100%とする。
従業員を解雇しても対象になる?
特例措置(4月1日~6月30日)では、従業員を解雇してもほかの要件を満たしていれば、中小企業は4/5の助成が受けられる。ただし、解雇予告後の休業は助成対象外となる。
なお、前項の4月8日以降の拡充措置は、解雇などを行っていない中小企業にしか適用されない。
参照
雇用調整助成金 FAQ(厚生労働省)
中小企業が活用できる支援金3.小学校休業等対応助成金
新型コロナウイルス感染症による小学校などの臨時休業によって、子どものために休みを取らざるを得ない従業員がいる企業に対する助成金である。
保護者である従業員に、年次有給休暇とは別に有給休暇を取得させることが要件となる。
小学校休業等対応助成金の支給額
支給額は、有給休暇を取得した労働者に支払った賃金相当額に10/10をかけた金額である。日額8,330円が上限で、令和2年4月1日以降の休暇は日額1万5,000円となっている。
小学校休業等対応助成金の対象期間
令和2年2月27日~9月30日
小学校休業等対応助成金の主な要件
【企業】
・年次有給休暇とは別に、有給休暇の扱いとすること
・年次有給休暇を取得した場合に支払う賃金の額を支払うこと
年次有給休暇や欠勤、勤務時間短縮などを事後に特別休暇に振り替えた場合も対象となる。ただし、有給休暇に振り替える点に関して労働者の同意が必要だ。
なお賃金の額が、支給日額の上限を超える場合でも、全額を支払う必要がある。
【従業員】
従業員のうち下記のいずれかの条件を満たす子どもを世話する保護者が対象となる。
・新型コロナウイルス感染症に関する対応として、臨時休業などをした小学校等に通う子ども
・新型コロナウイルスに感染した子どもであって、小学校等を休むことが必要な子ども
小学校休業等対応助成金の対象となる「小学校等」
該当する学校や施設、事業の例を以下に挙げる。
・小学校、義務教育学校の前期課程、特別支援学校など
・放課後児童クラブ、放課後等デイサービスなど
・幼稚園、保育所、認定こども園、認可外保育施設、家庭的保育事業、一時的な預かり事業
・障害児の通所支援を行う施設など
・児童心理治療施設や児童自立支援施設
いずれの項目についても、厚生労働省のホームページで最新情報を適宜確認していただきたい。
参考
小学校等の臨時休業に伴う保護者の休暇取得支援のための新たな助成金を創設しました(厚生労働省)
中小企業向けの支援金で見過ごせない特別枠
中小企業の設備投資などを支援する各種補助金について特別枠の申請ができるようになった。具体的な補助金は以下のとおりである。
・ものづくり・商業・サービス補助金
・持続化補助金
・IT導入補助金
特別枠では、通常枠よりも高い補助率が設定され、優先的に支援される。
特別枠の申請要件
特別枠の申請要件は、3つの補助金で共通している。具体的には、補助対象経費の1/6以上が、以下のA~Cのいずれか1つにあてはまる必要がある。
類型A:サプライチェーンの毀損への対応
顧客への製品供給を継続するために必要な設備投資や製品開発を行うこと
(例)部品調達困難による部品内製化、出荷先営業停止にともなう新規顧客開拓
類型B:非対面型ビジネスモデルへの転換
非対面・遠隔でサービスを提供するビジネスモデルに転換するための設備・システム投資を行うこと
(例)店舗販売からEC販売への転換、VRやオンラインを通したサービスの提供
類型C:テレワーク環境の整備
従業員がテレワークを実践できる環境を整備すること
(例)WEB会議ツールやシンクライアントシステムの導入
ものづくり・商業・サービス補助金の補助金額
【補助率】
通常枠:中小企業1/2、小規模事業者2/3
特別枠(類型A):2/3
特別枠(類型B・C):3/4
【補助金上限】
1,000万円
持続化補助金の補助金額
【補助率】
通常枠:2/3
特別枠(類型A):2/3
特別枠(類型B・C):3/4
【補助金上限】
通常枠:50万円
特別枠:100万円
IT導入補助金
【補助率】
通常枠:1/2
特別枠(類型A):2/3
特別枠(類型B・C):3/4
特別枠に限り、PC・タブレットなどのハードウェアにかかるレンタル費用も補助対象となる。
【補助金上限】
30~450万円
事業再開枠による補助金の上乗せ
持続化補助金(特別枠・通常枠)、ものづくり補助金(特別枠)には、感染防止対策を目的にした一定経費の支出に対し、事業再開枠として補助金額が上乗せされる。
一定の経費に含まれる主な対象は以下のとおりで、業種別ガイドラインに沿った支出となる。
・消毒
・マスク
・清掃
・間仕切り
・換気設備
補助率は定額補助(10/10)で、補助金額の上限は50万円となる。
参照
新型コロナウイルス感染症で影響を受ける事業者の皆様へ(令和2年6月2日20:00時点版)(経済産業省)
支援金を有効活用しよう
新型コロナウイルス感染症対策で中小企業が利用できる支援金として、給付金・助成金・補助金を紹介した。今回は国の代表的な支援金をまとめたが、自治体独自の支援金もある。
東京都であれば、感染拡大防止協力金や新型コロナウイルス感染症緊急対策設備投資支援事業、業種別の支援金などがある。経営を安定させるためにぜひチェックしていただきたい。
文・中村太郎(税理士・税理士事務所所長)