助成金
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中川 崇
中川 崇(なかがわ・たかし)
公認会計士・税理士。田園調布坂上事務所代表。広島県出身。大学院博士前期課程修了後、ソフトウェア開発会社入社。退職後、公認会計士試験を受験して2006年合格。2010年公認会計士登録、2016年税理士登録。監査法人2社、金融機関などを経て2018年4月大田区に会計事務所である田園調布坂上事務所を設立。現在、クラウド会計に強みを持つ会計事務所として、ITを駆使した会計を武器に、東京都内を中心に活動を行っている。

中小企業向けの補助金や助成金は、事業の立上げや改善資金の補助に役に立つ。補助金や助成金を活用することで、事業に必要な実質コストを数分の1に抑える事も可能なのだ。本稿では、中小企業向けの補助金や助成金の種類や活用方法、補助金や助成金の注意点について説明する。

目次

  1. 中小企業がもらえる給付金の種類
    1. 補助金
    2. 助成金
  2. 中小企業向けの主な補助金と助成金
    1. 雇用調整助成金
    2. 持続化補助金(一般型)
  3. 地方自治体の補助金や助成金の種類
    1. 革新的事業展開設備投資支援事業
    2. 働きやすい職場環境づくり推進奨励金
  4. 新型コロナウイルス関連の補助金・助成金のうち主なもの
    1. 雇用調整助成金(新型コロナウイルス感染症の影響に伴う特例)
    2. 持続化補助金(コロナ特別対応型)
  5. 補助金・助成金を効率よく取得するには
    1. 信用金庫などの地域金融機関に相談する
    2. 社労士に相談する
  6. 中小企業が補助金・助成金を受ける際に注意すべきところ
    1. 融資による資金繰りの検討が必要な場合もある
    2. 事後処理や検査対応のために資料をしっかり残す
  7. 上手に補助金・助成金を使おう

中小企業がもらえる給付金の種類

国や地方公共団体などが、企業や事業者に給付する金銭として知られるのが、補助金と助成金である。ここでは、補助金や助成金の区別について簡単に説明する。

補助金

一般的に補助金は、予め定められた採択件数や金額の制約を基に募集が掛けられる給付金であり、応募したからと言って必ずしも給付を受けられるとは限らない。

補助金は、公募期間が設定されるのが一般的であり、主に経済産業省が募集をかけるものとも言われている。

助成金

助成金は、条件を満たした上で応募すれば、ほぼ支給を受けられるものとされており、主に厚生労働省が募集をかける給付金とも言われている。

なお、ここでの補助金と助成金の区別は、あくまでもそのような傾向があるという程度のものであり、助成金と銘打たれているものの補助金の性質を持っている給付金もある。

中小企業向けの主な補助金と助成金

ここでは、中小企業が受給申請できる補助金と助成金のうち、主だったものについて説明する。

雇用調整助成金

雇用調整助成金は、経済上の理由によって事業活動を縮小せざるを得なくなった事業主が、一時的な雇用調整によって従業員の雇用を維持した場合に助成される給付金である。

・雇用調整助成金の受給要件

雇用調整助成金の主な受給要件を以下に示す。

  1. 雇用保険を適用していること
  2. 売上高等の3ヵ月間の月平均が前年同期比で10%以上落ちていること
  3. 雇用保険を適用している労働者数と派遣労働者数が、決められた人数以上増えていないこと
  4. 一定の基準を満たした休業や教育訓練、出向といった雇用調整を行っていること

・雇用調整助成金の支給額

中小企業の場合、最大で負担額の3分の2が支給される。通常の支給上限額は8,335円だが、特例措置などで変更になる場合がある。なお、中小企業とは以下の企業や事業者を指す。

業種従業員数資本金額(会社のみ)
小売業(飲食店を含む)50人以下5,000万円以下
サービス業100人以下5,000万円以下
卸売業100人以下1億円以下
その他300人以下3億円以下

2020年4月から9月末日までは、新型コロナウイルスによる特例の適用期間となっているので、この期間で雇用調整助成金の申請を検討している場合は、後述の「新型コロナウイルス関連の補助金・助成金のうち主なもの」内にある説明を確認いただきたい。

持続化補助金(一般型)

持続化補助金は、小規模事業者が制度変更に対応するため経営計画を策定し、それに基づく販路開拓等の取り組みの一部を助成する補助金である。

本補助金は中小機構が実施するものであるが、実際の窓口は商工会議所等が受け持っている。

・持続化補助金の受給対象

受給対象となる主な事業者は、以下の通りである。

業種常時使用する従業員の数
商業・サービス業(宿泊業・娯楽業除く)5人以下
サービス業のうち宿泊業・娯楽業20人以下
製造業その他20人以下
  1. 小規模事業者であること
  2. 商工会議所の管轄地域内または商工会の管轄内で事業を営んでいること
  3. 反社勢力でないこと
  4. 申請にあたって事業計画を策定すること

・持続化補助金の給付金額

新規設備導入などにかかった費用の3分の2、最大で50万円が補助金として支給される。

地方自治体の補助金や助成金の種類

中小企業を対象とした補助金や助成金は、国やその関連団体だけでなく、地方自治体やその関連団体が支給するものもある。ここでは東京都が支給している補助金や助成金について、主だったものをいくつか紹介する。

革新的事業展開設備投資支援事業

東京都中小企業振興公社が行う助成金のひとつであり、中小企業が競争力強化のためやIoT・ロボット活用などのために最新機械設備を導入する際に、経費の一部を助成するものである。

助成率と助成限度額は、どのような事業を行うかによって異なるが、助成率は最大で3分の2、助成額は100万円から1億円となっている。

働きやすい職場環境づくり推進奨励金

東京都が行っている労働環境改善のための奨励金(助成金)であり、以下の4つのコースからいくつかを選んで職場環境の改善事業を行った場合に、奨励金を支給するものである。

  • 育児と仕事の両立推進コース
  • 介護と仕事の両立推進コース
  • 病気治療と仕事の両立推進コース
  • 非正規労働者の処遇改善コース

コースや事業内容によって支給される金額が決まっており、それは20万円から40万円、場合によっては10万円の加算がある。

新型コロナウイルス関連の補助金・助成金のうち主なもの

2020年に、日本はもとより世界中を席巻した新型コロナウイルス感染禍に際して、さまざまな補助金や助成金が制度運用されている。ここでは、そのうちのいくつかについて説明する。

雇用調整助成金(新型コロナウイルス感染症の影響に伴う特例)

厚生労働省が通常支給している雇用調整助成金について、新型コロナウイルス禍によって特例を設定して従来よりも利用し易くしたものであり、支給要件は以下の3つである。

  1. 新型コロナウイルス起因の経営環境悪化により事業活動が縮小している
  2. 直近1ヵ月の売上などが、前年同月比で5%以上縮小している
  3. 労使協定に基づいて休業などを実施し、休業させた従業員に休業手当を支払った

助成額については、従業員の解雇をしない中小企業であれば、最大で支払った休業手当の全額が助成され、一人1日あたりの上限額は1万5,000円に引き上げられている。

持続化補助金(コロナ特別対応型)

中小機構が実施している持続化補助金について、昨今のコロナウイルス禍によってもたらされる影響を乗り越えるための対策を行う企業や事業者に対して支援を行うものである。

持続化補助金の申請にあたっては事業計画を策定することとなっているが、その内容は以下のいずれかを行って、新型コロナウイルスが事業環境に与える影響を乗り越え、持続的な経営に向けた経営計画を策定していることとなっている。

  • サプライチェーンの毀損への対応
  • 非対面型ビジネスモデルへの転換
  • テレワーク環境の整備

補助額も一般型の持続化補助金よりも引き上げられており、補助額は最大で150万円、補助率は最大で4分の3となっている。

補助金・助成金を効率よく取得するには

中小企業を対象とした補助金や助成金について説明してきたが、給付金の申請について悩んでいる経営者もいるだろう。ここでは、中小企業向けの補助金や助成金を効率よく獲得するための方法について説明する。

信用金庫などの地域金融機関に相談する

地域金融機関の中には、定期的に補助金・助成金の相談を受けているところもある。

例えば、東京信用金庫では補助金に関する相談会を実施しており、専門家の派遣も行っている。これらを利用して、助成金の相談を行うことも可能である。

他にも、共栄信用金庫は、補助金・助成金の情報提供や申請支援を行うなどして中小企業の支援を行っている。また、朝日信用金庫は、経営相談の一環として補助金・助成金の導入の相談に応じている。

社労士に相談する

社労士は労働関係法令に関係する助成金の申告を代理することができる。また、雇用や能力開発などに関連した助成金の情報にも詳しく、社労士に助成金に関する相談や申告の代行を依頼することも可能である。

ただし、補助金や助成金の申告代行を依頼する場合は報酬を支払うことになるため、実質的な手取りが少なくなる場合がある。

中小企業が補助金・助成金を受ける際に注意すべきところ

中小企業が補助金や助成金の給付を受ける際にはいくつか注意すべきことがある。ここでは、その中でも主だったものを何点か説明する。

融資による資金繰りの検討が必要な場合もある

補助金や助成金は、応募をしたらすぐに受け取れるわけではない。ほとんどの補助金・助成金は、対象となる事業が終わるか一定の期間が過ぎてから給付のための手続きを行い、申請が認可されてから補助金・助成金の支給が開始される。

また、対象となる補助金・助成金の事業の支出は事業開始当初のときに行われることが多く、事業終了後に行われる支給まで待たなければならない。そのため、事業を行っている最中に資金が不足する恐れもある。

補助金や助成金の受給申請を行って交付の決定がなされたときは、事業実施の間の資金繰りのために、融資などによる資金調達の可能性についても考慮しなければならない。

事後処理や検査対応のために資料をしっかり残す

補助金や助成金を申請する場合は、給付対象となる事業を行ったときの資料については必ず残す必要がある。

まず、通常は事業終了後に補助金や助成金の支払いのための申請を行うことになるため、その申請のための資料を整えておき、補助金や助成金を受け取れる体制を整える必要がある。

また、事後に申請通りに事業が行われたか否かについて、会計検査院の調査が入る可能性もある。調査への対応のためにも、資料を整えておいて何を聞かれてもいいように準備をしておかなければならない。

上手に補助金・助成金を使おう

中小企業にとって事業の改善を行うためには資金が必要となるが、その手助けになるのが補助金や助成金である。国や地方公共団体がさまざまな需要に応じて、中小企業を対象とした補助金や助成金を設定しているため、自社の実情に応じたものが何某かあると思われる。

中小企業などを対象とした補助金や助成金は、新型コロナウイルスなどの有事の際に特別枠が設けられることもある。経営者は給付金についての情報収集をして、経営に役立てていただきたい。

文・中川崇(公認会計士・税理士)

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