BANKERS
北陸銀行 コンサルティング営業部 第1グループ 調査役 柴田 尚氏

日本全国の地域金融機関でM&Aや事業承継を担当されている行員(BANKER)に各行の取り組みや銀行のカラー、地域の事業承継事情など他行への参考になる情報をインタビュー。

今回は、富山県富山市に拠点を置き、富山県、石川県、福井県の北陸3県のみならず北海道をも地盤に活動している北陸銀行。ここでは、北陸銀行 コンサルティング営業部 第1グループ M&Aチーム長(調査役) 柴田 尚氏にインタビューした。

北陸銀行のM&Aの取り組み

――北陸銀行のM&Aチームの特徴について教えてください。

柴田:北陸銀行のМ&A業務自体は約20年の歴史があり、地方銀行においては比較的長い歴史があります。その間に、組織として蓄積してきた業務ノウハウやお客様情報の積み重ねが当行の強みだと思います。

当初は2000年7月に1名(兼任)からスタートしたチームですが、現在は10名体制で活動しています。営業店が12都道府県に跨っており、各自が地区担当という形で活動しているので、全員が顔を合わせる日は本当に少ないですね。私自身も、3年前に北海道駐在を新設してから2年間は北海道をメイン拠点として活動しました。

メンバーのほとんどは、行内研修に加えて、外部機関への出向派遣を通じ最前線の実務スキル・ノウハウを学んでいます。これをチーム内だけでなく、営業店向けの勉強会や取引先案件検討会、階層別研修などを通じて、営業店に幅広く還元することに注力しています。お客様とまず最初に話す営業店の支店長や担当者の感度、これはM&Aに限らずですが、非常に大切だと思っています。

また、「あと5年経ったらM&Aを考える」、「息子がいずれ戻ってくるからM&Aは考えていない」というのはお客様からよく伺う話です。しかし、そういった些細な情報をチーム内でしっかりと蓄積し、将来のお客様のご決断にタイムリーにお応えできるようにしています。

普段の渉外活動に加え、各地区・営業店単位による株価診断会やセミナーといったイベントを企画し、お客様の誘導を図るようにもしています。当行は100年以上続いている支店も多く、さまざまな業種、企業の方とのお付き合いがあります。さきほど言った「歴史による積み重ね」がこういうところにも発揮されるのではないかと思います。

――北海道、北陸エリア両方のM&A事情について教えてください

柴田:北海道で担当した案件がとても印象に残っています。その1つが、建設業の案件です。譲渡企業様と譲受企業様は、同じ地域のライバル同士であり、当該地域を代表する企業様でした。しかしながら、その地域は人口減少が進みこのまま単独経営を続けていっても、継続的な企業成長を果たしていくには限界があったように思われました。その点を両社に丁寧に説明し、紆余曲折はありましが、最終的にはこのライバル企業同士が経営統合し、当該地域で有数のゼネコングループが誕生しました。

多くの地方都市では人口減少に起因する経済縮小や空洞化が課題となっていますが、本件においては、そういった中小・中堅企業の再編の担い手になれたように思います。余談になりますが、ご成約後に譲渡企業の社長様から地元のお祭りにご招待いただき、深夜までお酒を一緒に飲ませていただきました。翌日は強烈な二日酔いでしたがこれも良い思い出です。

もう1つは北陸と北海道の企業様によるM&Aですね。距離にすると1000キロ以上離れ、業種も異なっている企業同士が、相思相愛となりM&Aが実現したのですが、この案件に関しては、両地区に地盤を持ち、日頃から両社と深くお取引をさせていただいていた北陸銀行だからこそ実現したM&Aではないかと思っています。

私は過去に約20社のM&Aのお手伝いをさせていただきましたが、本件も非常に印象深いですね。先ほど、我々は北陸3県と北海道が地盤の銀行と申しましたが、両地区の経済交流にも貢献できたのではないかと思っています。

――今回の新型コロナウイルスはどのような影響をもたらしましたか?たとえば、営業において、面談が難しいということなどの影響などです。

柴田:もちろん大きな影響がありました。M&Aチームに関して言いますと、4月と5月はほとんどお客様との面談・折衝はできませんでした。この状況を何とかしようと、ZOOMを使ったり、iPadなどの機器を導入するなど新しい取り組みにも挑戦しましたが、やはり難しい部分が多かったのが現状です。

また、営業店もそうですし、お客様も「コロナでM&Aを検討するどころではない」という風潮もあり、なかなか活動しづらかったところがあったのは事実です。

足元では、一部の業界を除き少し状況も落ち着いてきたので、気持ちを新たにリスタートし始めたという段階です。また、徐々にではありますが、我々もお客様もZOOMなどの非対面ツールに慣れてきたようにも思います。

一方でこのようなコロナの影響下のなかでお客様のニーズには少し変化があったように思います。譲受・譲渡企業様のいずれも、この時勢だからこそこれまでよりも一歩先を見据えて自社の将来について考えていらっしゃる企業様が多い印象です。

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――今後の見通しとして、例えばアプローチしたい業界、セミナーに集める人の年齢層を広げたいなど、ありますか?

柴田:全ての業界・企業にとって事業承継と企業成長は、最重要テーマの1つだと思います。その中でも、北陸地方はモノづくりが盛んで、富山県は医薬品やアルミ、石川県は機械や食品、福井県は眼鏡や繊維関係などが代表される産業です。このため、製造業にはもっと目を向けていきたいと思っています。

セミナーに参加される方の年齢層に関しては、事業承継の観点では60~70歳代の方々の参加が多いのは事実です。しかし、事業承継は経営者にとって大きな決断事項であり時間もかかるため、もっと早い段階から耳を傾けていただければと思っています。

また、企業成長に主眼をおいたM&Aや、事業承継と企業成長がミックスしたM&Aが増加しているように思うので、アプローチしたい年齢層はあまり関係ないのではないかとも思います。これまで、私がお手伝いさせていただいた案件でも、社長様が40歳代、あるいは50歳代という案件が複数あるのも事実ですし。そういった意味では事業承継はまだ先と考えている若手経営者の方にも是非ご参加いただきたいですね。

こうなってきますとやはり、全ての業界・企業にとってM&Aは可能性のある話ですし、事業承継・企業成長の両面にとって大変魅力ある戦略だと思います。全ての企業が対象となる点が逆に難しい部分もありますが、お客様のニーズをしっかりキャッチし、課題解決のために対応していきたいと思います。

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――日本М&Aセンターにこれから期待すること、あるいは求めることはありますか?

柴田:私が北陸銀行のM&Aチームに配属されてから約4年が経過しました。この4年間に限っても世の中の移り変わりは激しく、同じようにM&Aに対する世間の捉え方やイメージも大きく変わってきたように思います。北陸銀行のM&Aチームにおいてもメンバーは大きく変わりましたし、若手メンバーも増えました。地方銀行においても取り巻く環境は大きく変化し、お客様が求めていらっしゃるニーズも大きく変化しました。

日本M&Aセンターにおいては、我々の命題である地方都市・地方企業の永続的な発展「地方創生」のために、良きパートナーとして、共に活動していければと思っています。ぜひ多方面にわたるご協力とレクチャーをお願いしたいと思います。