企業の営業スタイルは、戸別訪問型の飛び込み営業であるフィールドセールスが主流だった。しかし、インサイドセールスの普及により、フィールドセールスは時代遅れになりつつある。ここでは、フィールドセールスについての基本や、これから目指すべき営業スタイルについて解説する。
目次
フィールドセールスだけのアプローチからの脱却
フィールドセールスとは、潜在顧客を直接訪問して、対面で商品やサービスの説明から受注までを実施する営業のことを指す。
インターネットやSNSが発達する以前は、販売したい商品が子供向けの教材であれば、子育て世代が集まる集合住宅などを片っ端から訪問しながら営業をかけてきた。消費者が商品に関する情報を得られる手段が限られていたため、こうした個別訪問によるアプローチが有効に機能していたのだ。
しかし、情報化社会に突入してからは、消費者はフィールドセールスのアプローチがなくても、商品やサービスの情報を容易に集められるようになった。さまざまな商品を自らリサーチし、類似商品を比較するなど、消費に対して主体的な行動を取るようになったのだ。
フィールドセールスでの顧客アプローチが困難な状況になった
また、かつては女性が専業主婦として日中の時間帯に在宅する家庭が多く、フィールドセールスとしてコンタクトを取ることはそれほど困難ではなかった。しかし、「男女雇用機会均等法」の施行や改正などもあって共働き世帯も増えたため、日中は留守宅という家庭も多くなり、フィールドセールスでアポイントを取ることも難しくなってきた。
また、住環境の変化もフィールドセールスに影響を及ぼしている。かつては、玄関先で呼び鈴を鳴らして営業を実施できたが、タワーマンションの増加に伴って建物のエントランスでアクセスせざるを得ず、玄関先まですんなりとたどり着けないようにもなってきている。
マンションによっては、飛び込み営業そのものを断るような場所もあり、フィールドセールスの担当者にとっては活動がますます制限されているのが実情だ。
フィールドセールスが時代遅れになっている
また、従業員の働き方という観点からも、フィールドセールスが時代にそぐわなくなってきているように映る。膨大な訪問リストを基に一軒一軒回るには相当な時間を要するため、フィールドセールスは長時間労働に拍車をかけ、非効率な働き方に陥る可能性が高い。
パワーハラスメントなどの意識が成熟していなかった時代には、契約が取れるまで会社に戻って来られないというプレッシャーがあったと思うが、もはやこうした雰囲気はモラルの面から問題視される時代になってきている。
こうした時代の変化をうまく汲み取らずに、先輩の営業担当が後輩や新人社員にフィールドセールスのノウハウを伝授しようとしても、うまく機能しないこともあるだろう。営業担当の若手社員は実績を上げられずに自己効力感も下がり、離職を選択するリスクもある。
企業はフィールドセールスのあり方を見直し、従来の対面による顧客アプローチからの脱却に迫られている。
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インサイドセールスの存在感アップ
こうした中、フィールドセールスに変わり、存在感を増しているのがインサイドセールスである。戸別訪問のフィールドセールスとは異なり、インサイドセールスでは、電話やメール・DM等を用いて、直接訪問する事なく潜在的な顧客にアプローチを仕掛ける。
消費者も多忙を極める現代では、アポイントもないセールスパーソンにいきなり訪問されるより、インサイドセールスでのファーストコンタクトを好む風潮もあり、インサイドセールスの有効性が高まりを見せる。
フィールドセールスよりも効率的に営業活動ができる
企業サイドから見ても、インサイドセールスは効率的な営業活動と言えるだろう。同じ100人の顧客にコンタクトするにしても、フィールドセールスとインサイドセールスで必要な時間の差は明白である。また、メールやDMによって多数の顧客に同時アプローチできるため、フィールドセールスよりも営業に必要な労力を減らすことが可能だ。
特に人手不足に悩む企業であれば、インサイドセールスを積極的に導入するのは合理的な選択であろう。例えば、新商品の案内メールに関心を示した消費者が、当該社のWebサイトなどで商品を購入する流れを構築できれば、少人数の営業チームでも費用対効果のアップが期待できる。
インサイドセールスの導入は難しい面もある
効率性を重視するならば、従来のフィールドセールスからインサイドセールスに軸足を移して、営業活動を展開するという方針も理にかなっているようにみえる。しかし、インサイドセールスは効率的な反面、万能という訳ではない。
既に名前の知れた企業やブランドであれば、新規顧客の獲得にインサイドセールスが効力を発揮するが、まだ十分に認知されていない新興企業ならば、商品を購入する際の消費者心理は慎重になりがちである。
また、インサイドセールスに利用するツールである電話やメール・DMで消費者の関心を引けたとしても、消費者の心を動かして商品購入やサービスの契約などに至るためには、もう一押しが必要となる。
フィールドセールスとインサイドセールスの組み合わせ
フィールドセールスとインサイドセールスにはそれぞれにメリットやデメリットがあり、企業としてどちらか一方の営業方法を選択するというよりも、それぞれの手法の利点を活かしながらどのように組み合わせていくかが、効率的かつ効果的な営業活動を行う上では重要だろう。
まずはインサイドセールスで潜在顧客をグルーピングする
まずは、インサイドセールスによって効率的で幅広い潜在顧客に対して、電話やメール・DMでアプローチを図ることが肝要であろう。
このプロセスにおいて、消費者を以下のようなカテゴリー別に分類することができる。
・商品・サービスの購入が期待できるグループ
・購入までは不確定だが関心の高いグループ
・商品やサービスへの関心はあるが資金などの面からタイミングが適切でないグループ
・商品に無関心あるいは商品・サービスの販売に適切でないグループ
インサイドセールスにおいては、特に自社にとって潜在的な顧客になり得ないグループを特定し、このグループに見切りをつけることが重要である。これによって、より潜在性の高い顧客へのアプローチに集中できるようになる。
また、インサイドセールスだけで契約や商品の購入にまで結びつけることが可能であれば、web上で購入やサービス登録の手続きができるプラットフォームの整備が必要である。購入システムが使いにくければ、消費者が心変わりしたり、類似商品やサービスを取り扱うライバルに消費者を奪われたりしかねないので、システム設計も重要なポイントだ。
フィールドセールスで成約率の高い顧客にアプローチする
インサイドセールスによって、ある程度潜在的な顧客を絞り込んだ後、フィールドセールスでもうひと押しのアプローチを仕掛けることも大切だ。
インサイドセールスで獲得が確実な顧客に、最後のアプローチとしてフィールドセールスを行うか、あるいは契約が確実ではないが可能性の高いグループに対して優先的にフィールドセールスを仕掛けるかは、それぞれの企業の人員的なキャパシティなどに応じて優先順位を付ける必要がある。
少なくとも、フィールドセールスに移行する段階で、成約の望みのない消費者を対象にする無駄な営業が省かれることが重要である。これにより、フィールドセールス担当の従業員の心理的な負担を軽減できる。
どれほど心の強い人間でも、営業を断られるのは心理的なダメージを負う。そうしたダメージを回避し、商品やサービスに関心のある潜在的な消費者に絞って営業に専念できるような環境を、インサイドセールスとフィールドセールスで相互補完しながら整備していくのが良いだろう。
フィールドセールスの導入には社内体制の整備が必要
顧客へのアプローチが営業部の管轄である企業がほとんどであるが、インサイドセールスとフィールドセールスでは求められるスキルや特性も異なってくる。初対面でも人の懐にすっと入り込めるのが得意な従業員もいれば、相手の顔が見えない電話でも相手の注意を引き付けるのに長けている従業員もいる。
インサイドセールスとフィールドセールスを別グループにするのも一手
会社の人員に余裕があるならば、インサイドセールスとフィールドセールスの担当を別グループにして、それぞれにプロフェッショナルが業務を遂行するのが理想であろう。
当然ながら、インサイドセールスとフィールドセールス担当のチーム間の情報共有は欠かせない。場合によっては、インサイドセールスを行った顧客からフィールドセールスを希望される可能性もあり、それぞれのチーム間で営業ノウハウも共有しておけば、顧客のタイプに合わせて柔軟に対応でき、潜在的な顧客の取りこぼしを防げるだろう。
営業担当が足で稼ぐフィールドセールスオンリーの時代は終焉を迎えており、より潜在性の高い顧客にピンポイントでアプローチするスタイルが主流となりつつある。
このような状況下では、営業担当を長時間労働で縛るべきではない。日中に仕事をしている顧客であれば商談は帰宅後となり、営業担当も顧客の時間に合わせざるを得ない。こうなれば、営業担当者のフレックス勤務を認めた上で労働時間管理を行う事も、経営者には求められる。
フィールドセールスの重要性がアップ
絞り込みをかけた消費者に最後の一押しをするフィールドセールスでは、顧客も既にさまざまなリサーチを自ら行なっており、商品やサービスに対する知識が豊富である。
このような消費者が増える中でのフィールドセールスにおいては、担当者は販売のスキルだけではなく、プロとしての商品知識の提供や関連サービスの提案などのスキルを持ち合わせておくことが欠かせない。 ワンクリックで商品やサービスが購入できる時代に突入した今、リアルな対面での繋がりに新鮮味を感じる消費者も存在するため、フィールドセールスが終焉を迎えることはないだろう。経営者には、消費者と従業員のそれぞれの観点から、インサイドセールスとフィールドセールスを組み合わせた効率的な営業を追求するマインドが求められている。
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文・志方拓雄(ビジネスライター)