経営判断
(画像=peshkova/stock.adobe.com)

新型コロナウイルスの影響で、2020年上半期の経済情勢は大きな変化を遂げた。特に景気に左右されやすい企業は、その多くが経営判断に迷っていることだろう。そこで本記事では、2020年~2021年の景気見通しと経営判断のポイントを解説していく。

目次

  1. 新型コロナウイルスによる影響は?2020年~2021年の短期経済見通し
  2. 東京オリンピック・パラリンピック延期の影響
  3. 世界大不況の懸念も?欧州委は大幅な景気減退を予測
  4. 日本・アメリカのスタートアップはどうなる?
    1. 日本のスタートアップの景気見通し
    2. アメリカのスタートアップの景気見通し
  5. 「金融危機の回避」が今後の経済を大きく左右する
  6. 最高の経営判断をするために!中小経営者が押さえておきたいポイントとは?
    1. 1.まずは「3ヶ月耐えられるかどうか」を判断し、資金調達を考える
    2. 2.削減できるコストを考える
    3. 3.経済の転換期を意識して、2つのプランを用意しておく
  7. 将来的な経済危機に備えて、事前に緊急事態時の対策を

新型コロナウイルスによる影響は?2020年~2021年の短期経済見通し

新型コロナウイルスは言うまでもなく、国内経済に大きなダメージを与えた。その波は上場企業にも広がっており、2020年6月3日の時点では728社の上場企業が業績予想の下方修正を発表し、減少額は約5兆円にものぼっている。

国内の経済実態を表す「実質GDP成長率」を見ても、国内経済がダメージを受けたことは明らかだ。2019年10月~12月期は前期比-1.8%、2020年1月~3月期は前期比-1.0%が見込まれており、実質GDP成長率は2四半期連続でのマイナス成長となった。

このようにGDPが押し下げられた要因としては、「インバウンド需要の落ち込み」が大きい。たとえば、2019年3月と2020年3月のデータを比較すると、新型コロナウイルスの影響で訪日外客数は9割ほど減少してしまった。さらに追い打ちをかけるように、その後は中国経済の悪化や国内消費自粛などが発生し、需要が減少したことで多くの国内企業がダメージを受けている。

ただし、2020年~2021年の短期経済見通しを見ると、好材料が全くないわけではない。たとえば、現時点では首都圏を中心に建設需要が比較的高く、5G通信など新技術の本格的な普及も予想されているため、2021年度には実質GDP成長率がプラスに転じることも十分に考えられるだろう。

東京オリンピック・パラリンピック延期の影響

新型コロナウイルスによる影響の中では、「東京五輪の延期」も見落とせないポイントだ。東京都によると、東京五輪の開催によって約2兆円分の需要が発生するとされていたが、この需要が2021年に先送りされることで、2020年の名目GDPは0.36%低下する計算となる。

したがって、2020年のうちに完全な経済回復を果たすことは難しいが、その翌年には東京五輪の影響でインバウンド需要の増加に弾みがつくため、やはり2021年度には実質GDP成長率が高まることが予測される。

世界大不況の懸念も?欧州委は大幅な景気減退を予測

では、世界的にはどのような景気見通しが立てられているのだろうか。欧州連合の政策執行機関である「欧州委員会(※以下、欧州委)」が発表したデータをもとに、世界経済の実情をチェックしていこう。

欧州委は2020年5月に発表した「春季経済予測」において、EUとユーロ圏の実質GDP成長率を以下のように下方修正した。

予測時期実質GDP成長率の予測
2019年11月(秋季経済予測)EU…1.4%
ユーロ圏…1.2%
2020年5月(春季経済予測)EU…-7.4%
ユーロ圏…-7.7%

2019年11月の段階ではプラス成長を予測していたが、新型コロナウイルスが流行した影響によって、2020年の実質GDP成長率を大幅に下方修正した形だ。その一方で、2021年の実質GDP成長率については、EUが6.1%(4.7ポイント上方修正)、ユーロ圏が6.3%(5.1ポイント上方修正)のように予測している。

国内と同じく、2021年には実質GDP成長率が高まると予測されているが、欧州委は2020年中の大幅な景気後退も予測している。また、新型コロナウイルスが流行する以前の話とはなるが、アルゼンチンやトルコ、ベネズエラで発生した経済危機を、「世界大不況の兆候」と見る投資家が存在する点も見落とせない。

したがって、国内・海外ともに2021年には経済回復が見込めるものの、決して楽観視できる状況とは言えないだろう。世界的な経済停滞と、新型コロナウイルスによるダメージが一気に襲いかかれば、リーマン・ショック以来の大不況が訪れる可能性も考えられる。

日本・アメリカのスタートアップはどうなる?

次は、スタートアップ周辺の景気動向や見通しなどを、日本・アメリカの2つの地域に分けて見ていこう。

日本のスタートアップの景気見通し

「STARTUP DB」が発表したデータによると、2020年1月~4月の間に資金調達を実施したスタートアップは、前年同時期に比べると減少している。資金調達額についても、2020年3月期と前年同時期を比べると、数百億円単位で調達金額が落ち込んでいる状況だ。

ただし、2010年頃~2020年の約10年間の推移を見てみると、スタートアップの資金調達額は右肩上がりの状態が続いている。そのため、新型コロナウイルスによる影響を除けば、近年の国内スタートアップの状況は決して悪いとは言えない。

ちなみに、「一般社団法人日本スタートアップ支援協会」が147社を対象に実施したアンケートによれば、新型コロナウイルスをビジネスの好材料ととらえるスタートアップが全体の35%ほど存在する。もちろん、大きなダメージを受けた企業は存在するものの、新型コロナウイルスによる混乱をきっかけとして、新たな顧客や取引先を開拓できるスタートアップも多いと予測される。

アメリカのスタートアップの景気見通し

一方で、アメリカのスタートアップの景気見通しは、良好とは言えない状況に直面している。

その要因となっているのは、2019年後半に発生した「WeWorkショック」と呼ばれる事件だ。この事件では、シェアオフィス事業を展開するWeWorkに対してSVF(ソフトバンク・ビジョン・ファンド)が高額な投資をしたものの、その評価額が疑問視されたことでWeWorkは上場を廃止してしまった。この事件の影響により、アメリカのスタートアップ周辺の資金調達環境は、収縮の方向性に向かう可能性がある。

また、新型コロナウイルスに関しても、被害が甚大なアメリカは大きな影響が残ると予測される。ただし、家の中での生活・仕事を充実させるサービスなど、これを機に事業加速を狙っているスタートアップも多く存在するため、業種次第では大きな成長を見せる企業も出てくるだろう。

「金融危機の回避」が今後の経済を大きく左右する

リーマン・ショックによる景気の落ち込みが長期に及んだ要因としては、金融危機の発生が大きい。そのため、「金融危機の回避」さえ実現できれば、新型コロナウイルスによる景気の落ち込みは、短期間で食い止められる可能性がある。

特に今後の経済を左右するポイントとしては、企業や金融機関による「ドルの安定確保」が挙げられる。日本は輸入の大部分を、ドル建ての契約や決済に依存しているため、ドルを確保できなければ経済活動は大きく停滞するだろう。

なかでも輸入に携わることが多い企業は、政府や日本銀行による施策を待つだけではなく、自らアメリカやドルの状況を把握しておくことが重要だ。さらに、輸入業者への依存度が高い企業も、同じく金融危機のリスクを強く意識しておきたい。

最高の経営判断をするために!中小経営者が押さえておきたいポイントとは?

2020年の景気は混乱から始まったものの、前述の通りこれをチャンスととらえている企業は多く存在する。実際に売上増を記録した企業も存在するため、経営判断のポイントを間違えなければ、中小企業でもこの混乱を乗り切れるはずだ。

そこで以下では、中小経営者が押さえておきたい経営判断のポイントを3つまとめた。

1.まずは「3ヶ月耐えられるかどうか」を判断し、資金調達を考える

新型コロナウイルスに限らず、経済危機が訪れたタイミングでは、今すぐにでも「3ヶ月耐えられるかどうか?」を判断しなくてはならない。仮に運転資金が尽きると、事態が好転しても再建を図ることができないので、経営回復のチャンスを失ってしまう。

また、この判断結果によって取るべき行動が以下のように変わる点も、中小経営者が理解しておきたいポイントだ。

・3ヶ月耐えられる場合…事業計画書や資金繰り表を作り直し、資金調達に備える
・3ヶ月耐えられない場合…付き合いのある金融機関に連絡し、すぐに資金調達の相談をする

経済危機が発生すると、銀行などの窓口は混雑することが予想される。その影響で、申し込みから融資実行までに数ヶ月ほどかかる可能性があるので、経営者は早めの資金調達を意識しておこう。

2.削減できるコストを考える

コスト削減が遅れると、会社からは無駄な資金が流出してしまう。そのまま損失が積み重なると、経済の回復後にも大きなダメージとして残るため、資金調達と同じく「コスト削減」もすぐに考えておきたい対策だ。

ただし、経済危機が訪れたタイミングで、すぐにコストを削減することは想像以上に難しい。大きなコストとしては売上原価や人件費などが挙げられるものの、これらのコストは売上にも直結するため、大幅な削減は現実的ではないだろう。

現実的なコスト削減手段としては、残業時間を減らす方法や、大家への家賃交渉などがある。どのような企業にも削減できるコストは存在するため、経営危機が訪れたらまずは節約できる部分を見極めて、すばやくコスト削減に取りかかりたい。

3.経済の転換期を意識して、2つのプランを用意しておく

経済危機の最中には、上記のほか「販売戦略」や「事業転換」についても考えることになる。これらの点を考える際には、以下の2つのプランを練っておきたい。

・景気後退が続くときのプラン
・景気後退が終わるときのプラン

この2つのプランを用意し、常に経済の転換期を意識しておくと、景気の回復後にスタートダッシュを決められる可能性が高まる。たとえば、景気拡大期になったタイミングで積極的に投資をすれば、企業の成長スピードはぐっと速まるはずだ。

景気後退は常に続く現象ではないため、上昇トレンドに移ったタイミングですばやく動けるように、万全の準備を整えておこう。

将来的な経済危機に備えて、事前に緊急事態時の対策を

新型コロナウイルスの影響で、中小企業の経営判断は難しくなってきている。しかし、景気動向をしっかりと把握し、本記事で紹介したポイントを押さえれば、生き残る可能性を高められるはずだ。

また、新型コロナウイルスに限らず、将来的に新たな経済危機が発生することは十分に考えられるため、緊急事態時の対策は余裕のあるうちに用意しておこう。

著:片山 雄平
1988年生まれのフリーライター兼編集者。2012年からフリーライターとして活動し、2015年には編集者として株式会社YOSCAに参画。金融やビジネス、資産運用系のジャンルを中心に、5,000本以上の執筆・編集経験を持つ。他にも中小企業への取材や他ライターのディレクション等、様々な形でコンテンツ制作に携わっている。
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