相続
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相続発生後に相続人が行う相続手続きの中には、時効があって期限を過ぎれば権利等を失うものも存在する。相続トラブルが発生すれば時効を過ぎる恐れもあるのだ。今回は相続に関して、被相続人である経営者が知っておきべき、時効のある4つの相続手続きや権利についてお伝えする。

澤田 朗
澤田 朗(さわだ・あきら)
日本相続士協会理事・相続士・AFP。1971年生まれ、東京都出身。日本相続士協会理事・相続士・AFP。相続対策のための生命保険コンサルティングや相続財産としての土地評価のための現況調査・測量等を通じて、クライアントの遺産分割対策・税対策等のアドバイスを専門家とチームを組んで行う。設計事務所勤務の経験を活かし土地評価のための図面作成も手掛ける。個人・法人顧客のコンサルティングを行うほか、セミナー講師・執筆等も行う実務家FPとして活動中。

目次

  1. 時効その1.相続の放棄、限定承認の時効は「3ヵ月」
  2. 時効その2.遺留分侵害額の請求の時効は「1年または10年」
  3. 時効その3.特別の寄与に関する申立の時効は「6ヵ月または1年」
  4. 時効その4.相続税は「10ヵ月と5年」
    1. 相続税の申告
    2. 相続税の更正の請求
  5. 時効を意識して損のない相続を
  6. 事業承継・M&Aをご検討中の経営者さまへ

時効その1.相続の放棄、限定承認の時効は「3ヵ月」

相続人は、相続開始を認知した時から3ヵ月以内に、相続について以下のいずれかを選択しなければならないと定められている。

・単純承認:被相続人の相続財産(債務含む)をすべて受け継ぐ
・相続放棄:被相続人の相続財産(債務含む)を一切受け継がない
・限定承認:被相続人の債務の負担を相続人が相続によって得た財産の限度で受け継ぐ(条件あり)

「単純承認」は手続き等の必要が無く、3ヵ月が経過すれば単純承認をしたと見なされ、被相続人の財産を全て相続することになる。債務を相続したくない、あるいは債務を相続するとしてもプラスの財産の範囲内で相続したいという場合には、相続放棄や限定承認を選択することになるが、この権利を行使するためには家庭裁判所に「申述」する必要がある。

「相続放棄」は、各相続人が自身の意思で財産を相続するか放棄するかを独自の判断で選択できるが、放棄をした場合、その相続人は始めから相続人でなかったと見なされるため、他の相続人の相続分にも影響を及ぼす。他の相続人が負う債務が増えることになるため、事前に相続放棄の旨を伝えるか、場合によっては相続人全員で放棄するといった選択肢もある。

本来の相続人の全員が「相続放棄」を選択した場合、次順位の親族が相続人となるため、この点も考慮する必要がある。負う必要が無かった債務を負うことになるため、その場合は次順位の親族にも放棄を依頼し、相続人となり得る全ての親族が放棄をした時点で「相続人の不存在」となり、本来の相続人を含む親族は債務を負う必要が無くなる。

「限定承認」は、相続人全員が共同して行う必要があるため、1人でも限定承認に反対する相続人がいる場合には申述が行えない。ただし、相続放棄をした相続人は、前述の通り相続人でなかったとみなされるため、それ以外の共同相続人全員で限定承認を行うことは可能である。

相続放棄や限定承認は、被相続人の財産に債務がある場合に検討されることになるため、どの程度の債務があるかを調査する必要が出てくる。3ヵ月以内に債務の調査が終了すれば問題無いが、調査をしてもなお相続を承認するか放棄するかの判断が困難な場合には、「期間の伸長の申立」を行うことによって申述の期限を延ばすことも可能である。

時効その2.遺留分侵害額の請求の時効は「1年または10年」

「遺留分」は、兄弟や姉妹以外の相続人が持つ権利で、被相続人の財産から法律上取得することが保障されている最低限の割合を指す。遺留分は、相続人が直系尊属のみの場合は1/3、それ以外は1/2となっている。

遺留分相当の財産を相続人が受け取れなければ、被相続人から贈与や遺贈を受けた他の相続人に対して、遺留分の侵害を受けたとして、侵害額分の「金銭」の支払いを請求できる。これを「遺留分侵害額の請求」と呼ぶ。

【遺留分割合】

相続人全体の遺留分配偶者の遺留分子供の遺留分親の遺留分
配偶者のみ1/21/2
配偶者と子供1/21/4
(1/2×法定相続分1/2)
1/4
(1/2×法定相続分1/2)
配偶者と親1/21/3
(1/2×法定相続分2/3)
1/6
(1/2×法定相続分2/3)
子供のみ1/21/2
親のみ1/31/3

子や親が複数人いる場合には、上記の遺留分割合を人数で割ったものが個々の相続人の遺留分となる。

以前は遺留分を侵害されたものが「金銭」ではなく、侵害額に相当する額を自社株式や不動産等の持分割合で取得するケースもあり、その後の経営や事業承継等の支障となっているという指摘があった。

これを改善するために、遺留分の侵害額について「金銭債権化」するよう見直され、改正民法が施行された2019年7月1日以降に発生した相続については、不動産等の現物ではなく金銭で請求できることとなった。

遺留分侵害額の請求は、原則当事者間で話し合いが行われるが、解決しない場合やそもそも話し合いができない場合等には、家庭裁判所へ「調停」の申立てを行うことが可能である。なお遺留分侵害額の請求は、遺留分の権利を行使する旨を相手方に意思表示する必要があるが、家庭裁判所への調停の申立ての他に、内容証明郵便等で別途意思表示を行う必要がある。

自身が相続人となった場合には、相続する財産の額が遺留分を侵害されていないか、又他の相続人の遺留分を侵害していないかを確認する必要がある。遺言や遺産分割の内容によっては、自身の遺留分が侵害される他、遺留分侵害額を請求される立場にもなり得るため、相続をする際は注意が必要である。

財産を相続させる場合にも、自身の財産によって遺された親族が揉めないよう、遺留分を考慮した遺産分割対策を行わなければならない。

遺留分侵害額請求権は、相続の開始や遺留分侵害の贈与・遺贈があったことを知った時から1年、または相続開始から10年経過すると、時効によって消滅する。

時効その3.特別の寄与に関する申立の時効は「6ヵ月または1年」

「特別の寄与」に関しては遺留分侵害額の請求と同様に、改正民法が施行された2019年7月1日以降に開始した相続について、申立てが可能となっている。

改正前から「寄与分」の規定は存在しており、被相続人に対する特別な寄与を認められた場合には、本来の相続分に寄与分が加えられこととなるが、寄与分は相続人だけに認められている制度となっている。

例えば、被相続人の子の妻が、生前に被相続人の介護や身の回りの世話などを無償で行っていても、その妻は相続人ではないため寄与分は認められず、被相続人の財産を相続することができない。

これに対し、相続人以外の親族(特別寄与者)が、被相続人に対して無償で療養看護などを行って財産の維持に特別な寄与をした場合、相続人に対して「特別寄与料」を請求できるように制定されたのが「特別の寄与」である。

「特別の寄与」の申立てができる特別寄与者は、民法で定められている次の親族となる。

  1. 六親等内の血族(血縁関係がある者)
  2. 配偶者
  3. 三親等内の姻族(【例】自分と、配偶者の父母・兄弟姉妹・叔父叔母との関係)

配偶者は相続人であり、その血族も相続人となり得るため、「特別の寄与」は姻族の生前の寄与に対して制定された制度と言える。例えば、前述した被相続人の子の妻であれば、被相続人の一親等の姻族となるため申立が可能となる。

特別寄与者が、相続人に対して特別の寄与料の請求についての話し合いをしても解決しない場合には、特別寄与者が家庭裁判所へ調停の申立を行うことになる。裁判所は、寄与があった時期や方法、程度や相続額といったものを考慮した上で特別寄与料の額を定めることとなっているが、制度が導入されてから日が浅いため、まだ寄与料の算定には不透明な部分がある。

相続に際しては、親族に特別寄与者となり得る人がいるかどうか、親や自身等の相続に当てはめて確認が必要となる。なお、特別寄与料を支払うことになった場合には、相続人は法定相続分に応じて負担しなければならない。

時効その4.相続税は「10ヵ月と5年」

相続税の申告

相続税の申告は、相続開始を認知した日の翌日から10ヵ月以内に申告・納税を行わなければならない。遺言書があればその内容に準拠し、遺言書が無ければ相続人間の遺産分割協議によって財産を相続する。

相続税が課税される財産は、被相続人から相続や遺贈によって取得した財産の他、相続時精算課税の適用を受けた財産、3年以内に暦年贈与された財産が含まれる。また、生命保険の死亡保険金や死亡退職金も「みなし相続財産」として課税対象となる。

これらの財産から、債務や葬式費用、非課税限度額内の死亡保険金等の非課税財産を差し引き、さらに「3,000万円×法定相続人の数」の基礎控除を差し引いた額が、課税対象となる財産の総額となる。

課税対象の財産を、法定相続分で相続したとして相続税の総額が決定し、実際に相続した財産額の割合で按分することで、各相続人の相続税額が算出される。この税額から、配偶者控除や未成年控除等を行い、実際に負担する税額が決定する。

相続税の申告は、遺産分割協議が調わなくとも10ヵ月以内に行う必要があり、法定相続分で相続したとして申告しなければならない他、配偶者控除や小規模宅地等の特例などが適用できないため、税負担が大きくなる可能性がある。

相続税の更正の請求

遺産分割協議が調わない場合の更正の請求は、遺産分割が完了した日の翌日から4ヵ月以内に、配偶者控除等特例の適用ができるのは、申告期限から3年以内に遺産分割が完了した場合に限られており、請求をすることによって多く申告した税額の還付を受けることができる。これら以外の更正の請求は、相続税の申告期限から5年以内となっている。

相続財産のうち、特に土地の評価は複雑となり、実際の評価額より多く申告しているケースもあるため、改めて土地の評価を行って評価額を減額した上で請求を行うことも検討しよう。

相続財産に土地が多く含まれていた場合には、申告した土地の評価方法について専門家に確認し、評価額が減額できる可能性がある場合には、税額の還付を受けることも可能となる。

時効を意識して損のない相続を

相続に関する4つの手続きとその時効について説明してきた。他にも相続に関する手続きは多くあるが、今回お伝えした4つは自身だけでなく他の相続人等も関わってくる手続きであり、時効もあることに注意が必要だ。

経営者として、相続に関する時効を意識した上で、遺言書の作成など、生前のうちに相続トラブルを防ぐための行動も必要だ。

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文・澤田朗(相続士、ファイナンシャル・プランナー)

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