PEST分析
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ファイブフォース分析や3C分析といったフレームワークは、思考や状況を整理しながら経営戦略やマーケティング戦略を策定できる優れものである。今回紹介する「PEST分析」も経営やマーケティングに役立つフレームワークの一つであり、外部のマクロ環境に重点をおいたものである。特に近年はグローバル化や技術革新などにより外部環境の変化の激化が否めない。

そのため経営者にとって、PEST分析の重要性は高まると考えられる。PEST分析の使い方を理解し、実際のビジネスに役立ててみよう。

目次

  1. PEST分析とは?
    1. PEST分析の意味
    2. PEST分析を行う目的
  2. PEST分析のやり方と具体例
    1. Politics(政治)
    2. Economy(経済)
    3. Society(社会)
    4. Technology(技術)
  3. PEST分析を成功させる3つのポイント
    1. 1.各項目を「機会」と「脅威」に分類する
    2. 2.変化に着目する
    3. 3.4項目を関連付けて分析する
  4. PEST分析を活かし、厳しい経営環境を生き抜こう

PEST分析とは?

PEST分析の意味や行う目的が分かっていないと、分析のやり方だけ知っていても「何をしているか分からない状態」となってしまいかねない。ビジネスでPEST分析を活かしたいならば、まずは基本の部分をしっかり身につけることが重要だ。そこで最初にPEST分析がどのようなフレームワークなのかを解説していく。

PEST分析の意味

PEST分析とは、「Politics(政治)」「Economy(経済)」「Society(社会)」「Technology(技術)」という4つの観点から自社外部のマクロ環境を分析するフレームワークだ。マクロ環境とは、自社外部の経営環境のうち経済動向や政治、自然など社会全体に関するものであり、自社ではコントロールできない要素である。

反対に市場規模や顧客のニーズなどといった、ある程度自社に関連性があり、コントロールできる外部環境は「ミクロ環境」と呼ばれる。つまりPEST分析では、自社でまったくコントロールできない外部の環境を分析するわけだ。自社ではコントロールできない外部環境をさまざまな角度から分析することで、自社が対処すべき危機や活用すべきチャンスを洗い出せるだろう。

PEST分析を行う目的

PEST分析を行う目的を一言で表すと「経営戦略の策定」である。新しいビジネスを始めたり大胆な事業転換を図ったりする際には、現状自社が置かれている状況に応じて経営戦略を立てることが必要だ。経営戦略を策定する際には、強みとなる技術などの内部環境だけでなく顧客のニーズや経済動向といった外部環境も考慮する必要がある。

そのような外部環境を詳細に分析するうえで、PEST分析が必要となってくるわけだ。特に外部環境の変化が激しい時代や地域では、将来的なリスクの洗い出しやチャンスを的確に捉えることが可能となる点でPEST分析はとても有用なフレームワークである。

PEST分析のやり方と具体例

PEST分析を使いこなすには、4つの項目を分析する具体的なやり方を理解しておく必要がある。この章では、具体例を交えつつPEST分析のやり方を解説する。

Politics(政治)

Politics(政治)では、政策や政治の観点からマクロ環境を分析する。具体的に分析すべき内容は下記の通りだ。

  • 税制の改正
  • 増税や減税
  • 業界参入の規制緩和
  • 条約の制定や撤廃
  • 政権の変化
  • 補助金や助成金の創設と廃止

分かりやすい例でいうと、法人税率が減少すれば企業にとってはプラスとなる。また自社の属する業界への参入規制が厳しくなれば、競合企業が減るため有利に働くだろう。反対に法人税率が上がったり政権変化により、自社の属する業界に対して厳しい措置などが行われたりすれば、それは利益が減るリスクとなる。

海外進出を図る場合は、現地の政治情勢に着目することも必要だ。例えば、クーデターなどで政権が不安定な場合、事業続行が不可能となるリスクが高いため避けるのが賢明だろう。また、日系企業に対するデモなどが起きやすい地域では、デモにより事業運営の中断を余儀なくされる場合もあるので、こちらも避けるべきだ。

Economy(経済)

Economy(経済)では、国全体や地域の経済に関するマクロ環境の分析が必要だ。具体的には、下記の要因を分析する。

  • 経済成長率
  • 景気の動向
  • 物価
  • 株価
  • 金利
  • 為替

特に重要となるのは、経済成長率や景気の動向だ。経済成長率が低かったり景気が悪化したりしている場合、消費者が消費に回せる資金が少ないため、景気が良いときと比べて商品やサービスの売れ行きが悪くなる可能性がある。ただし業種や商品次第では、景気が悪いときほど売れ行きが良くなる場合もあるため、自社の属する業種や商品も同時に検討することが重要だ。

海外企業との取引(貿易)を行うビジネスの場合は、為替も非常に重要となってくる。1回の売り上げが大きい場合、為替のレートが少し上下するだけで収益や費用も大きく変動する。例えば、円安になると製品の輸入コストが高くなってしまうため、複数の輸入先を確保するなどの戦略が必要となるだろう。

Society(社会)

Society(社会)では、消費者の購買行動に変化を与える社会的現象について分析する。具体的な分析内容としては下記が挙げられる。

  • 人口密度
  • 人口の増減
  • 人口構成(男女比や年齢比など)
  • 流行
  • 世論
  • 教育
  • 宗教

最も分かりやすい例でいうと流行だろう。例えば、テレビやSNSで取り上げられたことで、瞬く間に大流行するケースがある。そのような流行に乗ると、短期的だが大きく売り上げを伸ばすことが可能だ。2018~2019年に若者の間でタピオカが流行したことにより、タピオカを扱う店が急増したことからも明らかだろう。

長期的な観点で見ると年齢比や人口の増減が非常に重要だ。例えば、少子高齢化が進行するに伴い、介護や葬儀、相続などのビジネスに対する需要が高まっている。基本的には市場規模が大きいほど収益を得やすいため、人口比率が高い層を相手にビジネスを行うのは有効な戦略となるだろう。

Technology(技術)

Technology(技術)では、技術の進歩や革新などの観点から分析を行う。具体的には、下記のような項目が分析対象となる。

  • 新技術の開発
  • 特許や意匠などの知的財産権
  • インフラの発展
  • ITの普及
  • イノベーション

例えば、人工知能(AI)が進化を遂げるにつれて、従来は人の手で行っていた仕事を自動で行えるようになった。今後、人工知能がさらなる進化を遂げることで、人件費を削減できる業界や業務のさらなる効率化を図れる業種が出てくる可能性が考えられる。反対にイノベーションにより、自社の属する業界や市場が衰退する可能性がある点にも注意が必要だ。

例えば、スマートフォンが普及したことで従来の携帯電話は「ガラパゴス携帯」と呼ばれるようになりその市場は急速な衰退を見せた。また、石油が主要なエネルギーとして用いられるようになったことで従来使われていた石炭に対する需要が減少した事例も有名だ。

PEST分析を成功させる3つのポイント

最後に、PEST分析を成功させるうえで、意識して実践したいポイントを3つ紹介する。前述したやり方に加えて知っておくと、より効果的にPEST分析をビジネスに役立てることができるだろう。

1.各項目を「機会」と「脅威」に分類する

単純に経済や政治といったマクロ環境を分析しただけでは、PEST分析から役に立つ示唆は得られない。PEST分析を役立てるには、分析した項目を「機会(チャンス)なのか」「脅威(ピンチ)なのか」を見極め、一つひとつ分類することが重要だ。ここで重要となるのは、同じ現象でも業種や事業内容によって「脅威となるか」「機会となるか」は異なる点である。

例えば、IT技術の発展による宅配サービスの需要増加は、宅配サービス業界にとってはチャンスだ。しかし、実店舗の小売を経営する事業者にとってはピンチとなる。ビジネスの内容に応じて、一つひとつの項目がピンチとチャンスのどちらになるのかを熟考して見極めることが必要だ。マクロ要因を正確に機会と脅威に分類することで、つかむべきチャンスはしっかりとつかむことができる。

また、回避すべき脅威にもしっかりと対処することが可能だ。

2.変化に着目する

PEST分析は、ビジネスで必要な経営戦略を策定する目的で用いるフレームワークである。したがって、「これまで変化してきたこと」「今後変わっていくこと」の2つの変化に着目して分析を進めなくてはいけない。例えば、ある地域の人口がこの数年で減っていると仮定しよう。過去の推移だけ見ると、この地域でビジネスは行うべきでないと判断できる。

しかし、街の再開発や大企業の誘致が計画されている場合はどうだろうか。そこから人口が増加する可能性が見えてくるため、「その地域で早めにビジネスを始める」という選択肢も出てくるだろう。現状や過去のみを見ていては、今後行うビジネスで役に立つ経営戦略は策定することはできない。PEST分析を活用する際は、「これまで変化してきたこと」「今後変化すること」の2軸から4つのマクロ環境を分析することを意識しよう。

3.4項目を関連付けて分析する

PEST分析は、マクロ環境を4つの観点から分析するフレームワークだが、それぞれの項目を関連付けて分析するとより深い示唆を得ることができる。少々極端な例だが、たとえ経済が好景気だとしても政治が不安定である場合には、その地域・タイミングで事業を始めることには大きなリスクが伴う。また、好景気でも新しい技術に代替される可能性が高いビジネスモデルでは、十分な利益を確保できない可能性が高いだろう。

このように、実際に経営戦略を策定する際には、一つのマクロ要因にだけ着目しては見えてこないことや事実を見誤ってしまうことがある。より現実に即した実現可能性の高い経営戦略を策定するには、複数のマクロ要因を組み合わせて分析しなくてはいけないのだ。

PEST分析を活かし、厳しい経営環境を生き抜こう

今回紹介したPEST分析は、経営者ではコントロールできないマクロ環境の分析に役立つフレームワークだ。このフレームワークを活用すれば、迫りくるリスクやチャンスを踏まえたうえで合理的な経営戦略を策定することができる。特に近年は、大規模な災害や技術の急速な革新など経営環境の変化が絶えず起きている傾向だ。

今後、ますます厳しくなる経営環境を生き抜くには、不確実性から生じるリスクやチャンスに適切に対処する必要がある。そのような不確実性に対処するためにも、PEST分析を有効活用して再度経営戦略を再考してはいかがだろうか。

文・鈴木 裕太(中小企業診断士)

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