事業承継
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事業承継の遺産分割対策を考えるにあたって、多くの人が家族の「感情」の重要性に気付きながらも対策の仕方が分からず、事業承継であれば種類株や属人的株式、遺産分割であれば信託など専門家からおすすめされた「仕組み」を使って、相続に関する感情を排除させる対策を取りがちです。

相続に関する感情の課題を解決するノウハウは専門家でも多く持っているわけではなく、結果としてベストな方法より、ベターな方法が選択されている事例を多く見受けます。

今回はそんな事業承継の遺産分割に関する家族の「感情」にどのように向き合えは良いのか、欧米で研究されている考え方を基に解説していきます。

事業やお金に関する価値観共有の重要性

事業承継の遺産分割における揉め事、相続争いがなぜ起こるのか?を考えると、多くの事例で、事業やお金に対する感情の部分での価値観が共有されていないため、もしくは価値観が違う相手を受け入れる風土、思いやりが育まれていないということがあります。

極端に考えると、相続関係者間の価値観、考え方が共有されており、たとえ相手が違う価値観を持っていたとしても受け入れ、課題を高次化して前向きな議論ができる教養、人間教育が行き届いていれば相続争いはなくなるという事です。

事業に対しての価値観のズレ

事業承継に度々出てくる問題として、自社株を承継した後継者の納税資金問題があります。
優秀なファミリービジネスの株式は評価額も高くなるので、そこに掛かる相続税や贈与税も高額になりますが、換金することが困難なため後継者は納税資金を工面できない問題が生じます。

それを見越して、先代が後継者に苦労をかけないように納税資金分の現金を自社株に加算した形で相続すると、次は他の相続人から自分の取り分が少ないというクレームから始まり、生前から後継者ばかり優遇して不公平になっていることなど感情の問題に発展し、さらには遺留分減殺請求までされ、折り合いが着かなければ裁判所での遺産分割調停まで発展するケースもあります。

これらを防ぐために感情を排除する様々な仕組みはありますが、そもそも、後継者以外の相続人も家業に対して理解を深めており、家業を承継する後継者の今までそして今後の苦労を理解し遺産配分に柔軟に対応する器量があれば揉めることはありません。また後継者も家業に対しての理解を深めてもらう場を相続までに作っておけば、もしくは納税に関しては相続財産に頼らずに資産形成をおこなっていたり、借入の活用を考えていれば揉めずに済んだ可能性があります。

お金の価値観の次元が低ければお金の奴隷になる

様々な相続争いの一共通項として、遺産を取り合っている家族はお金の奴隷になっているという捉え方が出来ます。。お金という有限の資産と引き換えに、お金では買う事のできない家族の絆や愛という無限の資産を引き渡しているのです。それぞれが自分自身の取り分に対して不満を抱き、相手の弱みを突いて何とか自分の取り分を増やそうと争っている姿はまさにお金に振り回されているお金の奴隷です。
家族の話し合いでは遺産が分割できず、裁判所での遺産分割事件まで発展している相続問題の内、何と全体の約3割が遺産総額1,000万円以下です。

高齢者から遺産を相続する相続人もいい大人です。その大人たちが1,000万円を取り合うために実際に裁判をしています。非常に悲しくなる現実ですね。
遺産分割などについて仕組みでの解決策を検討する前に、まずは一族でこのお金の価値観を高める取組から始めるのが良いのではないでしょうか。

自分の人生にはお金が最低いくら必要で、理想の生活のためにはいくら欲しくて、そのためにどんな努力を今まで行ってきたのか。これからはどんな行動をするのか。深く深く考え共有することが重要です。

人がお金の奴隷になってしまう最大の原因は欲望をコントロールできていないことです。
無限の欲望に囚われてしまうと、お金はいくらあっても足りない状態となり、たちまちお金の奴隷となってしまうでしょう。

お金の価値観を高めると、この欲望を上手くコントロールし、自分の人生の幸せのためにお金というツールを最適に使いこなすことができるようになり、家計管理もうまくいき資産形成もはかどるでしょう。
そうなれば、お金に関して冷静に、俯瞰的に考えることができるようになり、心にゆとりが生まれます。相続人全員がそのような状態だと、急に相続が起こり遺産分割対策ができていなかったとしても、各相続人が思いやりやゆとりをもって考えることができ、遺産の取り分をめぐって争うことはなくなるでしょう。

まずは家族でお金や家業について話をしましょう

日本人はお金の話をする事が恥ずべき事とされる文化が根付いてしまった結果、相続が起こるまで遺産の内容について一切把握できていなかったり、家業についての先代の想いやこれまでの苦労・成功の体験が家族に共有されていないことが起こっています。

また学校、家庭共に金融教育が行われていない事が原因で日本人の金融リテラシーは低く、資産運用、資産管理、価値観など前向きに課題を解決するための議論に必要不可欠な基礎知識も育まれておりません。

そのような状態では相続の際に争いが起こる事は避けられません。

それを回避するためにも、また家族の絆がお金によって割かれることを防ぐためにも、まずは毎日の食卓や集まりの時に、少しずつお金や事業について話をする習慣をつくることはいかがでしょうか。時には次世代の子供たちを議長として家族の方針について話し合う事もよいかもしれません。

何気ない会話から家族全員がお金や家業について興味をもってもらい、全員で学び合い、価値観を高め合う環境をつくることをおすすめします。

まとめ

お金は人生の目的にはなりえず、あくまで幸せに生きるためのたくさんあるツールの中の一つに過ぎません。そのツールによって家族の絆が割かれたり、相手を想い敬えなくなる家族になっていく様は本当に悲しい事です。
まずは恥ずかしさを捨て、赤裸々にお金の事について話し合ってみましょう。

欧米の有力ファミリービジネスにおいては、創造者の理念伝承や財産の管理、さらには家族の教育や、それぞれのメンバーの責務など、超長期的に家族の規律を保つためその仕組みを組織化する「ファミリーガバナンス」と呼ばれる統治システムが採用されています。
このファミリーガバナンスについては、また詳しく記事にさせていただきます。

(提供:税理士法人M&Tグループ