ヂューデリジェンス
(画像=Michail Petrov/adobe.stock.com)
志磨 宏彦
志磨 宏彦(しま・ひろひこ)
志磨税務経営事務所所長・税理士、中小企業診断士、経営革新支援機関、1級販売士。1959年生まれ。慶應義塾大学経済学部卒業。志磨税務経営事務所所長・税理士、中小企業診断士、経営革新支援機関、1級販売士。税理士として100社以上の顧問先を持つかたわら、企業のコンサルティング、セミナー講演等にも飛び回る。融資案件にも強く、政府系金融機関とのパイプが太い。また、多くの外部スタッフ(弁護士、司法書士、行政書士、社会保険労務士、中小企業診断士等)と連携し、さまざまな企業ニーズに応えることを得意としている。

事業承継の一環として活発化しているM&Aだが、避けては通れないプロセスがデューデリジェンスである。デューデリジェンスによって企業を適正に評価し、買い手は納得して買収に応じることができる。ここでは、デューデリジェンスの意味、目的、種類、具体的な進め方について解説する。

目次

  1. デューデリジェンスとは何か?
    1. デューデリジェンスの目的
    2. デューデリジェンスの種類
  2. 財務デューデリジェンスの進め方
    1. 対象企業の情報収集
    2. 3期分貸借対照表比較
    3. 3期分の損益計算書比較
  3. 財務デューデリジェンスにおける「財務分析」
    1. 1.収益性分析
    2. 2.効率性分析
    3. 3.生産性分析
    4. 4.安全性分析
    5. 5.資金繰り分析
  4. デューデリジェンスは慎重に行おう

デューデリジェンスとは何か?

デューデリジェンス(Due Deligence)は、「適切な(Due)」と「注意(Deligence)」を組み合わせた言葉であり、直訳では「適切な注意」となる。M&Aの現場では、そのままデューデリジェンスと呼ばれるのはもちろん、デューデリや省略してDDと呼ぶこともある。

デューデリジェンスは、M&Aの実施にあたって、企業を買収する側が譲渡側企業の事業実態や価値を事前に調査・把握し、M&Aにおける買収額の決定や、適切な取引判断を下すために行う。

デューデリジェンスの目的

一般的に食品や家電製品などは、法律に則って「品質」について細かく規定されており、商品情報が包み隠さず開示されているため、買い手に誤った購入をさせないようになっている。しかし、売買する対象が企業や事業の場合は、細かく取り決めた法律が存在しないため、買い手が損をすることもある。

M&Aでは、売り手と買い手の間に弁護士や公認会計士などの第三者が入って、買い手が一方的に不利な取引にならないために、売り手企業の「品質」について調査することが、デューデリジェンスの大きな目的である。

一方、売り手側にもデューデリジェンスの目的がある。売り手企業側が積極的に自社の「品質」を開示することで、売却価値の最大化を図ろうとする「セルサイド(Sell Side)デューデリジェンス」である。

デューデリジェンスの種類

デューデリジェンスには、売り手企業情報の調査対象によって、さまざまな種類がある。ここでは、個別に説明する。

・財務デューデリジェンス

財務デューデリジェンスは、対象企業から提供された財務諸表をもとに、買い手側でさまざまな分析を通じて、リスクの洗い出しや将来性を予測することである。

財務デューデリジェンスの分析法は後ほど詳細に説明するが、過去3期分の貸借対照表比較、損益計算書比較、キャッシュフロー計算書比較や、収益性・効率性・生産性・安全性分析などの手法がある。

この財務デューデリジェンスが最も重要な調査であり、ここから開始して以下の調査へと進むことになる。

・事業デューデリジェンス

事業デューデリジェンスは、対象企業の事業に関する情報をもとに調査を行う。その会社の取引先、経営資源、市場を取り巻く環境などを客観的に分析して、今後の事業の可能性や安定性などについて予測した上で、買収の妥当性評価を実施することである。

・人事デューデリジェンス

人事デューデリジェンスは、対象企業の人事制度の仕組み、処遇、労使関係、人材育成、配置などを評価するものである。会社が違うと人事制度はかなり異なるため、特に給与処遇や職務評価制度の違いは従業員の不満・クレームにつながる恐れがあるので、細心の注意を払う必要がある。

・ITデューデリジェンス

ITデューデリジェンスでは、事業活動において使用する管理や会計システムなどに関する詳細の把握を行う。重要なのは、売り手と買い手の2社間でシステムを統合した際に生じるリスクを事前に予測しておくことと、それらに関わる諸費用の見積もりである。

・その他のデューデリジェンス

上記までに述べた以外にも、税務、法務、環境、不動産、顧客、知的財産などのデューデリジェンスがある。それぞれの分野において、必要があれば調査・分析を行うことになる。

財務デューデリジェンスの進め方

財務デューデリジェンスを進めるには、主に以下のような財務諸表を収集することが基本となる。

対象企業の情報収集

①貸借対照表
②損益計算書
③販売費・一般管理費別表
④株主資本変動計算書
⑤個別注記表
⑥キャッシュフロー計算書

株式公開企業であれば、有価証券報告書にこれらが記載されているので、対象企業のホームページなどで容易に収集することができる場合が多い。非公開会社の場合には、財務諸表は直接対象企業に問い合わせて入手するしかない。

財務諸表の収集ができたら、いよいよ財務デューデリジェンスの分析に入る。分析手法には初心者でも簡単にできる「3期分の期間比較」と、やや専門性が問われる「財務分析」と呼ばれる手法がある。まずは、比較的容易な期間分析から見ていこう。

3期分貸借対照表比較

貸借対照表とは、対象企業の財務状態を表すものである。借方(左側)を「資産」と呼び、貸方(右側)を「負債・純資産」と呼ぶ。それぞれに、勘定科目と呼ばれる構成要素から成り立っており、期間比較では各勘定科目の3年間の推移や増減を確認していく。

・「資産」のチェックポイント

「資産」とは、簡単に言えば対象企業の財産の一覧である。現預金、売掛金、商品(在庫)、固定資産などがチェックポイントとなる。

(1)現預金

現預金は3年間で増えているほうが良い。現金が増えるということは、業績が好調である裏返しであるからだ。しかし、後述する借入金とセットで考える必要があり、現預金が増加していても、借入金が増えていれば健全とはいえない。

(2)売掛金

売上が増加していけば売掛金も増加することになるが、未回収の売掛金が増えるのは財務上危険なため、売上とのバランスを確認する必要がある。

(3)商品の在庫

売上が増加すれば、商品の在庫も増加するのが普通である。極端に在庫が少ない場合は、利益操作の可能性もあるため、法務上も要注意である。

(4)固定資産

売上を増加させるために設備投資を行った結果、固定資産が増えるのは健全である。しかし、売上増加に直結しない固定資産の増加は、その理由を明らかにしなければならない。

・「負債・純資産」のチェックポイント

負債・純資産とは、簡単に言えば対象企業の資金調達に該当する。買掛金、借入金、資本金などがチェックポイントとなる。

(1)買掛金

買掛金とは、いわばツケのことである。取引先から商品を購入したが、支払いを待ってもらっている状態である。これは、取引先からその金額分の資金を調達したことと同義である。

売上の増加に伴って仕入も増えるため、買掛金も増加する傾向にあるが、支払われない買掛金が多くなると資金繰り悪化のサインである。

(2)借入金

借入金は、固定資産などの多額の費用が必要な事業用資産を導入する際の資金調達に該当することが多く、固定資産とセットで考えると良い。固定資産とセットでない借入金は、業績悪化の補填用途の可能性もあり、確認が必要となる。

(3)資本金

資本金は、先述の買掛金や借入金と違って、返済義務のない資金調達である。通常であれば、資本金はあまり変動がないが、株主資本変動計算書で、資本金と利益剰余金の増減を把握する必要がある。これらが増加していれば、業績が順調である証であるからだ。

3期分の損益計算書比較

  損益計算書とは、対象企業の1年間の経営成績を表す。すなわち、1年間でどのくらい稼いで儲けたかを示したものである。損益計算書のチェックポイントは売上高、営業利益、経常利益である。

(1)売上高

3年間で売上高の増減の推移は重要な財務情報である。もちろん売上高は景気に左右されることが多く、減少しているからといって、必ずしも悪いということはないが、減少し続けると企業の存亡にかかわる。企業の将来性は売上高で判断できる部分もあるので、3年間の推移分析をすべきである。

(2)営業利益

営業利益は、売上高から売上原価や経費を差し引いたものである。言い換えれば、本業の儲けを表す。この数値が黒字で安定的に推移すれば申し分ないが、落ち込む場合には何らかの理由があるはずである。

売上原価には通常問題は生じないので、無駄な経費が増えていないか、役員が過大な報酬を取りすぎていないかなど、経費に注目する。

(3)経常利益

経常利益は、営業利益に営業外収益を加え、営業外費用を差し引いたものである。営業外収益は、預金利息や配当金くらいであるが、営業外費用の中には支払利息があり、借入金が増えると支払利息が増えて、利益を圧迫することになる。借入金とセットで考えることが重要である。

財務デューデリジェンスにおける「財務分析」

財務分析とは、後述するさまざまな比率を計算して、主に業界平均と比べて対象企業の財務が健全であるかを判断するものである。貸借対照表や損益計算書などの期間比較が対象企業内の分析とするならば、財務分析は業界における対象企業の位置づけを調査するものである。

1.収益性分析

収益性分析とは、いわば企業の儲かり具合を分析するものである。通常は売上高に対して、どのくらいの利益があるか(売上高総利益率、売上高営業利益率、売上高経常利益率)、売上高に対してどのくらいの経費がかかっているか(売上高人件費比率、売上高諸経費比率、売上高金融費用比率など)を算出し、業界平均と比べる。

業界平均は「TKC経営指標」の数値を用いると、客観的な分析が可能である。なお、収益性分析は分母を売上高とし、利益率は高いほうが、経費は低いほうが良い。

2.効率性分析

効率性分析とは、事業に投下された資金が効率的に使われているか否かを分析するものである。代表的な指標として、総資本回転率、商品回転率、売上債権回転期間などがある。回転率は売上高を分子とし、売上債権回転期間は売掛金を平均月商で割って求める。

投下した資金が早く回収できれば効率的であるため、回転率は高いほうが良く、回転期間は短いほうが良い。

3.生産性分析

生産性分析とは、従業員の活動を分析するものである。代表的なのは労働生産性(従業員一人当たりの売上総利益額)、労働分配率(売上総利益からいくら人件費に充てているか)、労働装備率(従業員一人当たりの固定資産額)などがある。

労働装備率が高いと機械化が進んでいる状態となる。結果として労働生産性が上がり、同時に労働分配率も上がるという好循環が生まれる。機械化すれば全てが解決というわけではないが、人口減少によって労働力も減少していく時代には、必要不可欠なテーマといえる。

4.安全性分析

安全性とは、企業の支払い能力を分析するものであり、いざという時のためのキャッシュの蓄えが充分にあるか否かを確認する。

貸借対照表には資産と負債があり、資産は財産、負債は調達と述べた。調達した負債は期限が来ると財産から返すことになるので、返す額よりも上回る財産があれば、安全であると判断ができる。

当座比率(当座資産÷流動負債)や流動比率(流動資産÷流動負債)などで比率を計算し、流動比率は100%以上あれば良く、高ければ高いほど安全性があるとされている。

5.資金繰り分析

企業の資金繰りについての分析も重要である。対象企業のキャッシュフロー計算書が入手できたならば、キャッシュ(現金及び現金同等物)の期末残高の推移を見ることで、資金繰りの把握が可能である。

キャッシュフロー計算書がない場合には、貸借対照表から、(現預金+受取手形+売掛金)-(買掛金+未払金+借入金)を計算して、その推移を見る。値がプラスかつ増加傾向にあれば良いが、減少傾向であれば要注意である。

デューデリジェンスは慎重に行おう

デューデリジェンスの意味について、財務デューデリジェンスの調査・分析を中心に解説した。デューデルジェンスには、財務以外にも多くのアプローチがあるため、是非とも財務以外のデューデリジェンスの意味についても知識を深めていただきたい。

一つの会社を買収する際には、かなりのリスクと向き合うことになるため、念入りな調査・分析力が要求されることを肝に銘じていただきたい。

文・志磨宏彦(税理士・中小企業診断士)

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