マネジメントバイアウト
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中小企業が役員に事業を引き継ぐ方法として、マネジメントバイアウトが注目されている。事業を存続したいが、M&Aに抵抗感がある経営者の悩みをマネジメントバイアウトが解決してくれるかもしれない。今回は、マネジメントバイアウトの意味やメリット・デメリットを紹介する。

目次

  1. マネジメントバイアウトとは
    1. 流れと手続き
  2. マネジメントバイアウトが増えている2つの背景
    1. 上場企業で増加している理由
    2. 中小企業で増加している理由
  3. 中小企業がマネジメントバイアウトを選ぶメリット2つ
    1. メリット1.仕事ぶりを熟知した相手に事業承継できる
    2. メリット2.経営方針が引き継がれる
  4. 中小企業がマネジメントバイアウトを選ぶデメリット2つ
    1. デメリット1.大きな方向転換は難しい
    2. デメリット2.売却益を確保しにくい
  5. マネジメントバイアウトの資金調達方法3つ
    1. 資金調達方法1.親族
    2. 資金調達方法2.金融機関
    3. 資金調達方法3.投資ファンドやベンチャーキャピタル
  6. 後継者問題を解決する選択肢として活用!
木崎涼
木崎 涼(きざき・りょう)
FP・簿記・M&Aシニアエキスパート。大手税理士法人で多数の資産家の財務コンサルティングを経験。多数の資格を持ちながら、執筆業を中心に幅広く活動している。

マネジメントバイアウトとは

マネジメントバイアウト(Management Buyout=経営陣買収)は、会社の経営陣が自社の株式を買収することをいう。大企業で行われることが多かったマネジメントバイアウトだが、最近では、後継者問題を解決する手法として中小企業でも用いられるようになった。

大企業でマネジメントバイアウトが行われるのは、次のようなケースだ。

・上場企業の経営陣が自社株を買収し、株式非公開化を目指す
・グループ会社の株式をグループ会社の経営者が買収し、グループから独立する

上場企業が株式の非公開化を目指す目的は主に2つある。第三者によって強制的に株式を買収される敵対的M&Aを防いだり、株主を意識した短期的な経営から中長期的な経営に方針転換したりするためだ。
また、グループ全体の総意として、親会社が子会社を切り離す場合に用いられることもある。

なお、従業員が自社の株式を買収することをエンプロイーバイアウト(Employee Buyout=従業員買収)と呼び、経営陣と従業員が一体となって自社の株式を買収することをマネジメントアンドエンプロイーバイアウト(Management and Employee Buyout=経営陣従業員買収)と呼ぶ。

流れと手続き

マネジメントバイアウトは、一般的に次のような手順で行われる。

1.役員が出資し、不足分は外部から借り入れ、新会社を設立する
2.新会社が現経営者から株式を買い取る
3.新会社が買い取った会社を子会社化、もしくは吸収合併する

なお、マネジメントバイアウトが完了したあとは、借り入れた資金を返済していく。また、株式を売却した場合、経営者は譲渡所得税を納めなければならない。専門家に相談しながら、計画的に進めていくことが重要だ。

マネジメントバイアウトが増えている2つの背景

続いて、マネジメントバイアウトが増加している背景について解説する。

上場企業で増加している理由

上場企業の間でマネジメントバイアウトが活発になったのは、上場のメリットが薄れたことが大きい。

上場のメリットには、投資家から広く資金を集められること、会社の知名度が上がることなどがあった。しかし最近は、資金調達の手法も多様化しており、会社の知名度を上げるマーケティング手法もさまざま登場しつつある。

上場のメリットが薄れた結果、経営における意思決定の迅速さなどを重視する風潮が生まれ、マネジメントバイアウトに踏み切る上場企業が増えてきた。

中小企業で増加している理由

そして今、中小企業でもマネジメントバイアウトが注目されつつある。中小企業の場合、現経営者が主に自社株を保有し、「経営者=株主」という構図であることが多い。

中小企業でマネジメントバイアウトが活用されるのは、役員に会社そのものを引き継ぐ場合だ。つまり、事業承継の選択肢として活用されている。

かねてより、中小企業の後継者不足による廃業が問題視されてきた。最近では、就職の選択肢が広がったことから、後継者が事業を引き継ぐことを拒むケースも少なくない。帝国データバンクの「全国・後継者不在企業動向調査(2019年)」によると、2019年の後継者不在率は65.2%だ。

このように後継者不足が深刻化していることから、第三者承継であるM&Aを選ぶ中小企業の経営者が増えてきた。

中小企業庁による「2018年版中小企業白書」のデータも見てみよう。 M&A仲介を手掛ける大手3社の成約組数から推計した中小企業のM&A成約件数は、2012年は157件だったのに対し、2017年は526件にまで増加している。5年間で約3.4倍に増え、M&Aが急増していることがわかるだろう。

一方でM&Aには、経営理念を承継しにくかったり、会社風土の違いで衝突が起きたりする問題点なども指摘されていた。

そのため、事業内容や社内の人間関係を熟知している役員を後継者とし、自社株を買収させるマネジメントバイアウトに注目が集まっている。

※参考

「全国・後継者不在企業動向調査(2019年)」
(帝国データバンク)

「2018年版中小企業白書」
(中小企業庁)

中小企業がマネジメントバイアウトを選ぶメリット2つ

続いて、中小企業がマネジメントバイアウトを選ぶ2つのメリットについて解説する。

メリット1.仕事ぶりを熟知した相手に事業承継できる

まず、仕事ぶりをよく知っている相手に事業を引き継げるというメリットがある。長年一緒に二人三脚で協力してきたケースも多いだろう。相手の人柄や仕事に対する姿勢、長所や短所がわかっているからこそ、安心して事業を引き継げる。これは、M&Aにはない大きなメリットといえるだろう。

また、後継者である役員自身が仕事内容や事業内容を熟知していることも、マネジメントバイアウトならではのメリットだ。実際に現場で仕事を回していた人間が後継者になると、事業を引き継ぐ側としても安心できる。

メリット2.経営方針が引き継がれる

経営者を支えてきた役員なら、経営方針への理解も深いだろう。経営者が大切にする価値観が引き継がれていくことは、マネジメントバイアウトの大きなメリットといえる。

経営方針や経営理念、会社風土など、目に見えないものをM&Aで引き継ぐのは難しい。しかしマネジメントバイアウトなら、無形の資産も含めて自分が大切に育て上げた会社が残っていく。

中小企業がマネジメントバイアウトを選ぶデメリット2つ

マネジメントバイアウトにはデメリットもある。ここからは、中小企業に関するデメリットも共有しておく。

デメリット1.大きな方向転換は難しい

マネジメントバイアウトでは、経営者のやり方を間近で見てきた役員が事業を引き継ぐ。よくも悪くも、これまで通りの経営が継続していく。

M&Aでは、売却先の事業内容との間にシナジー効果が生まれることで、事業が飛躍的に成長しやすい。また、蓄積したノウハウや情報が買収側に共有されることで、新たな商品・サービスの開発につながることも少なくない。

こういった大きな方向転換は、マネジメントバイアウトでは実現しにくいだろう。成長は望めるだろうが、今までの延長線にとどまる。

ただし、マネジメントバイアウトでは経営方針や経営理念が引き継がれる。優劣をつけるのではなく、経営の目的に応じて各手法を使い分けるとよい。

デメリット2.売却益を確保しにくい

M&Aやマネジメントバイアウトでは、会社を引き継ぐ時に株式を渡す。株式を渡す方法には売却と贈与があるが、いずれのケースも一般的に売却を選ぶ。つまり、現在の株主である経営者は売却益を得られる。

会社の売却価格は、会社の評価額とプレミアムによって決まる。プレミアムとは、会社の評価額に上乗せされる金額のことだ。

M&Aでは、事業内容や特定の技術力、従業員のスキルに買い手が価値を感じた場合、プレミアムを上乗せすることで、会社の評価額以上の金額で売却できる。しかしマネジメントバイアウトでは、 役員に資金が不足していると、売却価格を高額に設定するのは難しい。

売却益だけを考えるなら、M&Aのほうが売却価格を高額に設定しやすいだろう。ただ、マネジメントバイアウトであれば、廃業にかかる廃棄費用や売却費用などを心配しなくて済む。

後継者として事業を引き継ぎたいと思える役員がいるなら、マネジメントバイアウトを選ぶのもよい だろう。

マネジメントバイアウトの資金調達方法3つ

マネジメントバイアウトでは、後継者である役員が株式を取得しなければならない。自己資金で買い取れるなら問題はないが、会社の株式をすべて買い取るには相応の自己資金がともなう。自己資金が不足している場合、資金調達の方法を考える必要がある。

資金調達方法1.親族

役員の親族に一定の資産を持つ人がいるなら、親族から借り入れることもできる。親族から資金を借り入れることに抵抗感を覚える人は多いだろう。しかし、借りた金額に一定の利息をつけて返済すれば 貸した側にもメリットがある。

無理に親族から借りる必要もないが、選択肢として目を向けておきたい。

資金調達方法2.金融機関

資金調達といえば、真っ先に金融機関を思い浮かべた人も多いだろう。マネジメントバイアウトを実行するうえで金融機関から資金を借り入れるなら、担当者とよく打合せをしなければならない。逆に打合せ次第では、有利な条件で資金を借りられる。

資金調達方法3.投資ファンドやベンチャーキャピタル

一定規模以上の中小企業に限られるが、投資ファンドやベンチャーキャピタルから資金を調達する手もある。ただし、成長が期待できる分野であったり、特殊な技術力を持っていたりしないと、資金調達は難しいかもしれない。

後継者問題を解決する選択肢として活用!

親族内に後継者が見つからず、頭を悩ませている経営者は多い。また、第三者承継であるM&Aが増えている一方で、第三者に会社を託したくない経営者もいる。

役員に事業を承継するマネジメントバイアウトなら、そんな悩みを解決できるかもしれない。会社の出口戦略で悩んでいるなら、選択肢としてマネジメントバイアウトも有効活用してはどうだろうか。

文・木崎涼(ファイナンシャルプランナー、M&Aシニアエキスパート)

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