おうち時間増加で大注目~机も本棚も簡単に作れる秘密
家にいる時間が増えて人気が高まっているDIY。マンションの中には、専用のスペースを作り、インストラクターによる出張講座が行われているところもある。
DIY工房をマンションに次々と作り、その魅力を伝えているのが「DIYファクトリー」という集団だ。インストラクターを務める飯田海里は「マンションにDIY工房があることで、いろいろな人にDIYは楽しいと思っていただけるといい」と言う。
「DIYファクトリー」のスタッフは日々、DIYを広める努力を欠かさない。
この日、スタッフの宮崎恭輔がやってきたのは、埼玉・本庄市の大手ホームセンター「カインズ」の本社。オンラインのDIY講座を行うためだ。家にいる時間にもっとDIYを楽しんで欲しいと、「カインズ」とタッグを組んだ。
「自宅待機が多くなり、娯楽が減っている。遊園地や海、キャンプに行けない代わりに、住まいに興味を持ってもらおうと。住まいをより良くしてDIY市場が盛り上がればいいと思います」(宮崎)
作ったのはパンなどを入れるのに便利な開閉式の「がらがらブレッドケース」(参加費・キット代5000円)。講師の指示に従って、1時間ほどで素敵なケースが完成した。
DIY好きには有名な「DIYファクトリー」は人気の通販サイト。ありとあらゆる工具や材料などが140万アイテムも集結し、「DIYのアマゾン」と呼ばれるほどの存在だ。
部屋ごとや、使うシーンに合わせた手作り家具のアイデアを膨大に掲載しているのも魅力。誰でも挑戦できるよう、わかりやすい作り方の動画まで載っている。
大阪市生野区にある「DIYファクトリー」を運営する大都の本社。いささか古いビルを改造し、大事に使っているのだ。オフィス内には、いたるところに社員たちの手によるDIYが。築50年近い建物を、社員をあげて魅力的な空間に作り変えている。
社長の山田岳人は、工具の卸売業だった大都をネット通販の会社へと劇的に変えた。そこには、DIYを日本に根付かせたいという思いがあった。
「『自分の家が好き』という日本人がどれぐらいいるか。今までは寝に帰る場所だったのが、今回『全員家にいなさい』となって、1つのきっかけができた。これでDIYが日本の文化になればいいと思っています」(山田)
山田が注力するのは、DIY人口を増やすため、初心者へのハードルをできる限り低くすること。サイトでも初心者向け商品に力を入れてきた。
例えば、素人が失敗しがちなのこぎりでのカットが簡単にきれいにまっすぐ切れる「ソーガイド」という商品(「ソーガイド・エフ鋸セット」4880円)。「ワンハンドバークランプ」(1980円)は木材の接着などの時に、片手で簡単に材料を固定できる器具だ。
「DIYは苦手」という人には、キットになった商品まで売っている。取り付け部品など、必要な全ての材料が入っていて、初心者でも簡単に組み立てられるのだ。所要時間45分ほどで、ちょっとしたリモート会議にピッタリの折りたたみ机が完成する「折りたたみテーブル」のキットは5700円だ。
その戦略は、未経験者が「DIYをしない理由」を潰すこと。はけがなくてもペンキが塗れる「ペーパーステイン」は、わざわざ塗料メーカーに頼み込み、開発した。
「においが臭くて嫌だという方のために、開けるとせっけんの香りがするようになっています。お客様の不満を解消する、やったことがない人が手軽にできるようにする」(山田)
DIYキットに使われている取り付け器具にも工夫が。壁をほとんど傷つけずに木材を固定できるため、賃貸物件でも安心なのだ。
「30代の方は70%が賃貸物件にお住まいです。日本の賃貸は原状回復の契約で、DIYができないという方が多いので、DIY体験が増えていけばいいと思います」(山田)
大都の売り上げは、自ら切り開いたDIY市場とともに急拡大を続けている。
大都で働く社員に少なくないのが、素人だったのに、いつしかDIYの達人になってしまうつわものたちだ。入社16年の奥宮宏美の自宅には、家中にプロ顔負けのDIYが。木のかばんも、設計から全て奥宮自身が考えて作り上げたものだという。全社員がDIYにほれ込んだ集団。それが「DIYファクトリー」の大都なのだ。
「DIYブームと言われるのは全然うれしくない。ブームは終わるのが前提ですから。ブームではなく文化だと言い続けています」(山田)
職人の道具がヒット商品に~中小メーカーと二人三脚
大都の社内には「来てくれた人に一言書いてもらう」という壁がある。その中にアマゾンを日本で拡大させた立役者、ジャスパー・チャンCEOの名前もあった。
「アマゾンさんから電話がかかってきて『ジャスパーが会いたいと言っている』と。びっくりしました」(山田)
「DIYファクトリー」に商品を出している金属部品メーカー、大阪・淀川区の田辺金属工業所。取締役の田辺浩史さんは、「ネットで販売すること自体はアマゾン、楽天でできる。でも、僕らができない部分を大都がやってくれている」と言う。
大都にしかできない売り方。例えばここで長年作ってきた「折りたたみ式棚受け」という金具は「当初は月に10万円ぐらいしか売れてなかった」(田辺さん)という。だが大都はそれを、キット販売をしている折りたたみ机で使った。金具だけを売るのではなく、DIYキットの部品として商品開発し販売したのだ。
「実際に使う場面を形にしてくださったり、他のメーカーの商品と一緒にパッケージにしたり、大都は提案販売してくださる。唯一無二です」(田辺さん)
大都がネット通販のビジネスで特に大事にしてきたのがこうした中小メーカーだ。
すでに大都と20年取引する「エンジニア」の髙崎充弘社長。最近、「ネジザウルスGT」(1980円)という商品が飛ぶように売れているという。ねじ穴が潰れたねじを簡単に回せる優れもの。ペンチの先に刻まれた溝が、ねじに食い込むという。
「ネジザウルス」は本来、プロが使っている工具。だが、大都のサイトでは、特集記事を組んで、一般客にも便利な使い方を紹介しているのだ。
「我々が作った工具をより広めていただいた。取り組みは非常にありがたい」(髙崎さん)
全力で取引先のメーカーを盛り上げる山田。その裏には大都の生き残りをかけた道のりがあった。
廃業危機から「工具のアマゾン」へ~創業80年を激変させた娘婿
山田は1969年、石川県生まれ。大学卒業後、「リクルート」に就職、バリバリの営業マンとして活躍した。しかし27歳の時、最大の転機が訪れる。結婚を決めた相手が、大都・創業家の娘だったのだ。
結婚にあたり、義理の父は一つだけ条件を出す。それが「名字は変えなくていいから会社を継いでほしい」。最大の願いは会社の存続だった。
「リクルートにいた頃から独立したいと思っていたので、『経営をやらせてもらえるならやります』と」(山田)
大都は当時、工具の卸売業を営んでいた。さまざまな工具メーカーから商品を仕入れ、卸としてホームセンターなどに売る商売だ。山田は当初、取引先との会話さえ成り立たなかったという。
「電話で商品名を『エビのモンキーの250』と言われました。モンキーというのはモンキーレンチのことなのですが、意味が全く分からなかった」(山田)
最も辛かったのはホームセンターとの商談だった。1円安いかどうかで勝負が決まる卸に未来は見いだせなかった。
「他の問屋さんも同じ商品を扱っているので、どちらが安いかが問われる。儲からないし、夢が持てなかったです」(山田)
入社から数年経った2000年頃、一筋の光を見いだす。それは旧友との同窓会で聞いた「インターネットで物を売るビジネス」の話題。山田の頭に新たなビジネスが広がった。 「ホームセンターに卸していたのを、ホームセンターに来ているお客さんにインターネットで直接販売してしまおう、と」(山田)
2002年、山田は通販サイトをオープン。売れる商品を調べ上げ、取り扱い品目を次々に増やしていった。だが、ようやく軌道に乗り始めた頃、山田は社員が「毎日毎日、いろんな商品をアップし続けて、何のための仕事なんでしょうね」と言うのを聞いて我に返る。
自分たちの仕事の意味。考え続けた末、山田はあるキーワードにたどり着いた。
「何に絞り込むかという時に、ずっと引き継いできたものや扱ってきたものを考えると、DIYだと。うちの会社にしかできなくて、しかもそれが広がれば広がるほど、世の中が良くなる」(山田)
ただ工具を売るのではなく、暮らしを豊かにする「DIY」という切り口で商売をする。そんな山田の理念に共鳴をしてくれたのが、長年付き合ってきた工具メーカーたちだった。彼らは、閉塞感しかなかった自分たちのビジネスの未来をDIYにかけたのだ。
「山田社長は『DIYを文化にしたい』とおっしゃっていて、私も同じ考えでした。従来の商流にこだわっていては市場は広がっていかない。販路を作っていただいことは、非常に喜ばしいことです」(東大阪市「ロブテックス」地引俊爲社長)
2011年、大都の社長に就任した山田は70年続いた卸売の廃業を決める。父から託されたビジネスは一変したが、「大都」の名は残った。
知らない花も瞬時に分かる~急拡大、花と緑が楽しいサイト
千葉・市原市の吉野美和さんが熱中するのはバラのガーデニング。手のかかるバラの栽培だが、あるサイトのおかげで最近さらに夢中に。庭中がさまざまな種類のバラで埋めつくされていた。吉野さんをガーデニングにのめり込ませているのが、撮った写真を投稿する「グリーンスナップ」。2016年にサービスを開始し、すでに170万ダウンロードされている大人気のサイトだ。
「お花の美しさに共感し合える仲間がいる。苦労して育てた花を褒めてもらえるとうれしいじゃないですか」(吉野さん)
このサイトを運営するのは、3年前に大都の傘下となったベンチャー企業なのだ。
「インスタグラムのグリーン版。花、緑に特化した画像が投稿されます」(山田)
ガーデニング好きからの投稿は実に1日4万枚。ユーザー同士の活発な交流があるのはもちろん、名前のわからない植物を撮影すると、その名前を教えてくれるサービスも。
山田は「DIYファクトリー」と同様、暮らしを豊かにするサイトとして「グリーンスナップ」に注力している。
「花の業界は毎年ユーザーが減っています。『グリーンスナップ』で緑を世の中で広げていくことで、豊かな暮らしを広げていきたい」(山田)
「グリーンスナップ」に今、熱い期待を寄せているのが、花を栽培する生産者たちだ。
愛知・豊明市の「愛知豊明花き地方卸売市場」では「グリーンスナップ」と提携。売り出したい新商品について、ユーザーがどんな楽しみ方をしているか、などの意見を吸い上げている。
「市場が消費者の声をダイレクトに聞けてなかったんです。『グリーンスナップ』と連携することによって、消費者の情報を直接受け取ることで生産に生かしたい」(『豊明花き』重村修一郎さん)
豊明市場では大ヒットも出ている。それが苔玉で愛でる桜。今までも販売はしていたが、今年、「グリーンスナップ」への投稿で人気に火が付きあっという間に売り切れた。
「コロナの自粛でお花見が各所で中止になったところに、苔玉を買っていただいた方の『グリーンスナップ』の投稿から急に広がりました」(同・青木文郷さん)
もっと暮らしに楽しみを。大都の新たな挑戦の場だ。
~村上龍の編集後記~
山田さんはラッキーだ。義理の父親の会社を継ぎ、じり貧の工具問屋から、IT企業へと変身させた。ネット販売に転じたのは2002年、自身でPCを買って一人ではじめた。売上は現在40億、DIYのネット通販がコロナによる巣ごもりで活況となり、個人客からの注文が過去最大規模で増えているらしい。
だが、幸運は向こうからやって来たりしない。当初は古い体質の会社に苦労するが、奥さんには黙っていた。「会社のことを家で話したくなかったんで」。その心遣いがビジネスにも活きる。山田さんのDIYは、どこか優しい。
<出演者略歴>
山田岳人(やまだ・たかひと)1969年、石川県生まれ。1992年、リクルートフロムエー入社。1997年、大都入社。2007年、「DIYファクトリー」オープン。
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