家庭内暴力
(画像=Romolo Tavani/stock.adobe.com)

新型コロナウイルスの影響で数ヵ月にわたる自粛生活が続いている。そのような状況下で、日本の社会課題が改めて浮き彫りになってきた。家庭内暴力、所得格差、働き方改革の遅れなどだ。コロナ禍はこれらの大問題を鮮明化し、改めて早急な対応が求められていることをはっきりさせた。

コロナで改めて注目を集めた社会課題

新型コロナウイルスは、私達の生活に良くも悪くも大きな影響を与えた。

企業勤めの人の中には、在宅ワークへの転換を求められた人も多い。このような状況の中、家族で過ごす時間が増えた家庭も少なくない。勤務先の休業で大きく収入が減った人もいる。新型コロナウイルスに感染したことで、入院が必要になった人ももちろんいる。

コロナ禍で改めて、いまの日本においてすでに社会課題となっている問題が明らかになった。

家庭内暴力

対話アプリ大手のLINEは、新型コロナウイルスが企業や人々の生活に与えた影響を調べるアンケート調査を、これまでに4回実施している。その最新版(4月16日実施)の結果によれば、在宅勤務やテレワークの対応状況(推奨もしくは義務とした企業)は関東の一都三県で53%に上っている。

在宅勤務が増えるということは、それだけ自宅にいる時間が長くなるということだ。そこで懸念されるのが「家庭内暴力(DV)」の問題である。在宅勤務により夫婦が顔を合わせる時間が長くなることで、より家庭内暴力が増えてしまうことが危惧される。

配偶者からの暴力に関する相談は、ただでさえ年々増加傾向にある。警察に寄せられた相談件数が、2008年は2万5210件だったが2018年には7万7,482件まで増えていることからもわかる。

新型コロナウイルスの感染拡大を受け、DVに苦しむ人を支援する団体からも、今回の新型コロナウイルスによって、DVや児童虐待が増えることを懸念する声が上がっている。国連のアントニオ・グテーレス事務総長も、DVの急増に警鐘を鳴らしている。

所得格差と貧困問題

所得格差の問題や貧困問題も、新型コロナウイルスにより表面化した。

新型コロナウイルスの影響で多くの企業の経営状況が悪化し、従業員の解雇や雇い止めをせざるを得ない状況になったケースも多い。このような状況の中、特にもともと所得が低く十分に貯蓄ができていなかった世帯は、当面の生活資金に窮する事態となっている。

もちろん、所得の大小と貯蓄額の多さは必ずしもリンクするわけではないが、手取り額が極端に低い人は、どんなに生活を切り詰めてもなかなか貯金が増えていかない。そして、ギリギリの状況で生活している中で急な解雇や雇い止めにあうと、生活のためのお金が不足してしまう。

特に、貧困率が高い母子世帯の生活が危惧される。日本における母子世帯の貧困率(2018年)は51.4%と高い状況であり、コロナの影響で収入が激減もしくはゼロとなれば、一気に生活は厳しくなる。

国の特別定額給付金や生活保護などの制度は用意されているものの、いまこの瞬間も日々の生活に苦しんでいる人は少なくない。

働き方改革の遅れ

説明した通り、新型コロナウイルスの影響によって在宅勤務をする人が増えている。しかし、国はこれまでも「働き方改革」で企業にテレワークの導入を推奨してきたが、テレワークが可能な体制を十分に備えている企業は決して多くない。

LINEの調査では一都三県の企業の53%がテレワークに対応しているとされているが、地方にいけばいくほどより対応率が低いことが考えられる。またLINEの調査では事業規模が小さければ小さいほど、対応率が低いことも明らかになっている。

営業支援クラウドソフト開発などを手掛けるレッドフォックス社による調査(4月23日発表)によれば、テレワークを導入済みの企業であっても悩みの種は多い。

テレワークを導入済みの企業に「導入の上で難しかったことは何ですか?」と聞いたところ、68%が「テレワーク社員の勤怠管理」、59%が「テレワークの利用条件設定」、同じく59%が「テレワーク時の業務ルールの設定」と回答している。

テレワークは企業の生産性の向上やワーク・ライフ・バランスの向上にもつながるが、日本ではまだ十分に浸透していないのが現状であると言えるだろう。

日本は先進国だが、抱えている社会問題は少なくない

上記に挙げた問題以外に、医療過疎の問題も改めて浮き彫りになった。医療の担い手が少ない地域で感染者が急増すると、重症者への十分な対応ができなくなる。そのため、今回の新型コロナウイルスでは、特に医療の担い手が少ない地域で危機感が高い。

コロナ禍は「ハンコ」や「紙」からの脱却が進んでいないことにも、改めて気づかされた。「ハンコ出社」という言葉が生まれ、ハンコを押す(もしくはもらう)ためだけに出社するという生産性の低さに、ため息をついた会社員もいる少なくないはずだ。

今回の新型コロナウイルスでは、日本に根付く問題が改めて明るみにでるきっかけとなった。先進国の一つに数えられる日本だが、まだまだ抱えている問題は少なくないのだ。

文・岡本一道(金融・経済ジャーナリスト)

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