自動車サービス
(画像=Snapic.PhotoProduct/stock.adobe.com)

新型コロナウイルスは、車の使い方にも大きな影響を与えている。交通量が急減し、世界各地でエネルギー消費の減少やCO₂排出量の低下が報告されているのだ。今後の温暖化対策の一環として、自動車の利用を意図的に減らすと同時に、クリーンエネルギー自動車(CEV)への移行が加速すると予想される。また感染リスクの懸念から利用が減っている、ライドシェアの未来も予想してみよう。

世界的な経済活動の減速でCO₂排出量が低下

フィンランドの独立研究機関「Centre for Research on Energy and Clean Air」(センター・フォー・リサーチ・オン・エナジー・アンド・クリーンエアー)は、中国だけでも2月初旬~3月にわたる4 週間で、二酸化炭素(CO2)排出量が25%(約2億トン相当)減少したと推定している。

しかし人々が通常の生活に戻り、産業が再稼働するにつれ、再び数値が上昇することは疑う余地がない。あるいは損失を取り戻す意図で経済活動が活発化した場合、以前より悪化する懸念もある。

持続可能なCO2排出量減少に向けた動き

そこで大気汚染の緩和を一時的なものではなく、持続可能なものへと定着させるための取り組みが進んでいる。

3月初旬に新型コロナウイルスによる死者数が中国を上回った、 イタリア北部ロンバルディア地域のプロジェクトが一例だ。欧州で名高い高濃度汚染地域である同地域では、全国的な封鎖下で交通渋滞が30~75%減少したことで、大気汚染の改善が見られた。

同地域の中心都市であるミラノ市は、アフターコロナに向けたミラノ再興計画の一環として、35km範囲の自動車用の道路の一部を歩行・サイクリング専用にシフトする計画を進めている。

ミラノと同様にパリやロンドンなど交通渋滞と大気汚染が深刻化している大都市では、新型コロナウイルスの発生以前から、交通量を減らすプロジェクトが始まっていた。今後は大都市を中心に、これらの都市をモデルとする取り組みが加速すると予想される。

消費者の関心はクリーンエネルギー自動車へ

また欧州では地球温暖化対策の一環として、2025~40年の間にガソリンおよびディーゼルの新車販売を廃止する動きが加速している。消費者の関心は電気自動車(EV)やハイブリッド自動車(HV)を含むクリーンエネルギー自動車へと向いているのだ。

クリーン輸送を促進する欧州最大の非営利団体「Transport & Environment」(トランスポートアンドエンバイロメント)のルシアン・マシュー氏いわく、「EVへの移行により、2030年までにEU圏のCO2排出量は4分の1に減少する」。

その一方で米科学者団体UCSのシニアエンジニア、デビッド・ライクマスによる、「EV用のバッテリー製造時のCO2 排出量はガソリン車を上回る」 という指摘もあるなど、クリアすべき課題はある。

いずれにせよ、中国や欧州を中心とする多くの国で、クリーンエネルギー自動車の需要が伸びている事実から、今後の自動車市場の流れがくみ取れるのではないだろうか。

車のシェアリングサービスの行方は?

こうした消費者の意識変化は、Uber(ウーバー)やLyft(リフト)などのライドシェアの利用にも反映されている。

米オンライン自動車仲介企業「CarGurus」(カーグルー)が2020年4月に実施した調査では、回答者722人中48%が経済活動が再開した後、「以前と変わらず利用する」と答えた。一方で39%は「利用回数が減る・全く利用しない」と答えた。

しかし裏を返せば、例え利用者が減少したとしても、それを上回るほぼ5割が利用の継続を検討しているということになる。コロナの感染縮小とともに、利用検討者が増加する可能性も十分に考えられる。

UberとLyftは感染予防対策として、複数の乗客による相乗りサービス「Uber Pool」(ウーバープール)と「Lyft Line」(リフトライン)の提供を見合わせているほか、米国ではドライバーと乗客にマスクの着用を義務付ける計画を明らかにしている。

乗客の安全をさらに保護するためには、車内を満員状態にしない、換気と除菌を徹底的に行うといった感染予防対策が必須となるだろう。

外出できないと車の価値は下がる?

もう一点気になるのは、車の価値への影響だ。既に世界的に車のセールスが致命的な打撃を受けている。新型コロナウイルスの影響が長引くほど需要が低迷し、価値が低下する可能性は否めない。

実際、経済の見通しの不確実性と車の価値の減少の関連性は、データでも立証されている。例えば米自動車情報サイト「Edmunds.com」(エドマンズドットコム)によると、2008年のリーマンショックの際、米国では3年落ちの中古車の価値が平均10%(1200ドル/約⒔万円)低下した。

今回は経済的な不透明性に加えて、「外出制限で車に乗れない、あるいは乗る機会が極端に減った」という環境的要因もある。英自動車査定サービス企業「Cap HPI」のデータからは、3月には英国の中古車の販売台数とともに、価格が2.2%(£275/約3.4万円)低下したことが明らかになっている。

差額だけに焦点を置くと決して大きな額ではないものの、現時点においてはコロナの影響がいつまで続くのか明確になっていない点を考慮すると、価格への影響がさらに深まる懸念は否定できない。

アフターコロナに価値が上がる車は?

専門家は「経済の回復とともに需要と価値も回復する」との見解を示しているが、アフターコロナにライドシェアやクリーンエネルギー自動車の利用者が増加すると、非クリーンエネルギー自動車の価値が下がり、クリーンエネルギー自動車の価値が上がることも想定される。

日本においても、一般社団法人次世代自動車振興センター(NeV)が「クリーンエネルギー自動車導入事業補助金」の交付を行うなど、環境に配慮した車社会を促進する動きが高まっている。

アフターコロナの世界は、新しい車との付き合い方が必須となるのではないだろうか。

文・アレン琴子(オランダ在住のフリーライター)

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