助成金詐欺師
(画像=twinsterphoto/stock.adobe.com)

近年、経営に役立つ助成金を悪用した詐欺が目立つ。国会で幾度となく答弁が繰り広げられた森友事件はその最たる例だろう。いつ経営者が助成金詐欺に巻き込まれるかわからない。今回は助成金詐欺の現状や騙されないポイントについて解説しよう。

目次

  1. 制度を悪用する助成金詐欺師たち
    1. 助成金詐欺がもたらす悪影響
    2. 助成金詐欺に巻き込まれる経営者
  2. 助成金の不正受給が厳罰化
    1. 不正受給の詳細が公表される
    2. 社会的な信用が失墜する
  3. 助成金詐欺に巻き込まれないためには?
    1. ポイント1.書類の偽造に注意
    2. ポイント2.相談先を見極める
  4. 監修者紹介

制度を悪用する助成金詐欺師たち

2020年2月19日、大阪地裁は学校法人森友学園の元理事長・籠池泰典氏と妻の諄子氏に有罪判決を下した。罪状は不正に補助金を騙し取ったという詐欺罪にあたる。

森友事件は、安倍首相の名を冠した学校名や教育勅語を暗唱させる異様な教育方針などで話題を呼んだ。首相夫妻を巻き込んだ疑惑と登場人物の強烈な個性も相まって、日本を揺るがす大スキャンダルとなった。

不透明な土地の値引き金額も含め約10億円の不正疑惑があったが、今回の判決で有罪とされたのは、国からの補助金約5,600万円と大阪市の補助金約1億2,000万円の部分だ。

この金額は膨大に見えるが、助成金詐欺として突出しているわけではない。森友学園の地裁判決の翌月、東京地裁でも別の助成金詐欺の有罪判決が下りている。

福岡の保育コンサルタント会社「WINカンパニー」が、企業主導型保育所開設に使える補助金4億4,000万円を国から騙し取ったとして、実行犯の元社員に執行猶予付きの懲役2年10ヵ月が言い渡された。

働き方改革に関するキャリアアップ助成金に関しても、2019年の10月に大阪市のコンサルティング会社社長が逮捕されている。

直接の容疑となっている助成金290万円の詐取については、申請した法人代表と共謀したとみられているが、詳細は明らかになっていない。10数件の余罪についても捜査が進められている。

助成金詐欺がもたらす悪影響

こうした事件が明るみになるたびに、公的な助成金・補助金制度の審査が不透明であるという批判が起こる。しかし、助成金・補助金制度は不正受給を見落としやすい性質である。

公平を期するために時間や手間をかけると、本当に必要な事業者が適切なタイミングで受け取れない。審査にかかるコストで資金が不足し、必要な金額を支給できないこともあるだろう。これでは政策として機能せず、本末転倒な事態に陥ってしまう。

書類の不備や要件の未達成があっても、事務局側のミスで支給されることもあり得る。無自覚で不正受給をしていたというケースも想像に難くない。

助成金詐欺に巻き込まれる経営者

詐欺グループは、健全な一般企業に助成金の活用を促して踏み台にする。身近に潜む危機として、経営者も知っておくべきだろう。

厚生労働省では、助成金の活用を促す詐欺集団に警戒するようホームページで呼びかけている。煩雑な手続きを代行してくれるうえに数百万の助成金をもらえるとなれば、つい任せたくなる経営者もいるかもしれない。

しかし、完全に騙されて詐欺に加担したケースでも、事業主は申請者として責任を負わなければいけない。

助成金の不正受給が厳罰化

国は助成金詐欺グループの存在を問題視し、2019年の4月から助成金不正受給の厳罰化に踏み切った。以前は不正受給が発覚した場合、助成金の返還と延滞金の支払いが求められていたが、これからは助成金額の20%を追加で支払わなければならない。

助成金額が大きいほど納付額も大きくなる。たとえ騙されて助成金詐欺に加担した場合でも、仮に500万円の助成金を受け取ったなら600万円+延滞金を支払わなければならない。

また、助成金の支給停止期間が3年間から5年間に延長される。不正受給した会社の役員が他社の役員も兼ねていた場合、兼務先の会社も助成金を申請できなくなる。

役員として関わる会社や組織が自社以外にあった場合、他の経営にもペナルティが及んでしまう。

不正受給の詳細が公表される

不正受給をした会社は労働局のホームページで公表される。会社や個人の信用が大きく損なわれてしまう。具体的に公表される項目は以下のとおりだ。

・会社名
・代表者名
・所在地
・事業概要
・不正受給金額
・不正内容

労働局のホームページで探すか、「不正受給 公表事案」などのキーワードで検索してほしい。生々しい不正受給の方法とともに、社名や所在地、代表者名が並んでいるのを簡単に見つけられる。

公表された経営者の一部は、悪質なコンサルタントや詐欺グループにそそのかされ、悪意なく助成金詐欺に加担した可能性もある。

結果として数百万の請求を受け、日本中で名前を晒されているとしたら背筋が凍る。

社会的な信用が失墜する

悪質な場合はペナルティを課せられるだけでなく、詐欺事件として刑事告訴される。

有罪になれば犯罪者の仲間入りになるのはもちろん、無罪であっても風評被害による社会的信用の失墜は避けられないだろう。

不正受給が疑われた場合には、厚生労働省の職員が事前連絡なしで調査に現れる。関係書類の提出を求められるほか、従業員へのヒアリングも行われる。

通常業務を妨げ、従業員の不安を煽るだけでは済まず、周囲の住民や企業からも疑いの眼差しを向けられるだろう。

共犯として起訴されなくとも、詐欺事件に巻き込まれたとなれば、捜査協力で煩わしい思いをするに違いない。

助成金詐欺に巻き込まれないためには?

では、助成金詐欺に巻き込まれて不正受給しないために何を注意すべきだろうか。

ポイント1.書類の偽造に注意

厚生労働省の助成金犯罪に関する告知案では、「もともと存在しなかった書類や実態と異なる書類を作成して提出し、助成金を受けようとすることは、不正受給に当たります」と太字で強調してある。

「存在しなかった書類」を作成した事例を見てみよう。もともと出勤簿を作成していなかった会社が、申請時に外部の者に出勤簿の作成を委託。しかし、実際の勤務状況と異なっていたことが発覚し、不正受給となった。

この場合、支給前に発覚したので助成金は支給されていないが、3年間の支給停止処分を受けた。

「実態と異なる書類」を作成した事例も参考になる。事業主が外部の者からアドバイスを受け、実際に支払った費用よりも高額な額面の領収書を取引先に発行してもらい、本来より多額の助成金を受け取った。

このケースでは会計検査院の調査で不正が発覚し、労働局から詐欺罪で刑事告発されるに至った。両社に共通しているのが、「助成金に詳しいという外部の者」の助言に従っていることである。

自分より詳しい専門家(を名乗る者)に「みんなやってる」「不正にはあたらない」などと言われ、深く考えずに申請してしまうのだろう。しかし、申請者として事業者も責任を負わなければならない。

ポイント2.相談先を見極める

厚生労働省では、申請に関する相談は各地の労働局に問い合わせることを推奨している。

とはいえ、公式の相談機関では不充分だからこそ民間のコンサルタントや社会保険労務士に相談するわけであり、手続きの煩雑さと経営者の多忙な実情を鑑みると現実的とは言えない。

結局、助成金詐欺に巻き込まれないためには、相談する相手を見極めることに尽きる。余裕があれば、厚生労働省が推奨している各地の労働局に相談するのが確実だ。

難しい場合は、社会保険労務士に提出代行や事務代理を依頼する。助成金の不正受給に対する罰則強化は専門家にも及ぶ。

不正受給に関わった社会保険労務士も5年間助成金を申請できなくなる。社労士としても死活問題であり、不正受給にならないよう慎重に手続きしてくれるに違いない。

民間のコンサルティング会社を利用する場合、会社の実績や規模、業務内容を確認することが重要だ。社内や提携先に多くの社会保険労務士を抱えている会社は、有資格者に告発されかねないので、会社ぐるみで不正受給に手を染めるとは考えにくい。

コンサルティング会社が公共性の高い第三者からの審査をクリアしているならば信頼しやすい。例えば、別の補助事業に採択されていたり、株式を上場していたりするケースだ。

補助金・助成金が企業に必要とされるほど、助成金詐欺を企む詐欺師も増えていく。ある日突然犯罪者にならないためにも、経営者には慎重な姿勢と相手を見る目が求められる。

文・奥平聡(株式会社ライトアップ)

監修者紹介

斎藤弘樹
株式会社日本M&Aセンター 地域金融1部 部長
斎藤弘樹 (さいとう・ひろき)
一橋大学卒業後、外資系金融機関入社。 2012年日本M&Aセンター入社以降、地域金融機関と数多くのM&Aに携わり、後継者に悩んでいる、または更なる成長を志向する経営者に、M&Aという手段で会社の継続と発展を支援している。
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