事業承継
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個人事業主が事業承継を行う場合には、後継者の選択はもちろん、贈与や相続といった税務に関わる問題など、法人と違った問題や難しさがある。ここでは、個人事業主が事業承継を成功させるための具体的な方法や進め方など、個人事業主の事業承継の詳細について解説していく。

目次

  1. 個人事業主の事業承継をとりまく環境
  2. 事業承継の種類と個人事業主の選択肢
  3. 個人事業主の事業承継の方法は?売却・贈与・相続の違い
    1. 個人事業主が事業承継する方法1:売却
    2. 個人事業主が事業承継する方法2:贈与
    3. 個人事業主が事業承継する方法3:相続
  4. 個人事業主の事業承継を成功させる2つのポイント
    1. 1.早いうちから事業承継の検討を始める
    2. 2.事業承継の専門家に相談する
  5. 個人事業主の事業承継の注意点
  6. 粘り強く後継者を探すことが事業承継の成功につながる
木崎涼
木崎 涼(きざき・りょう)
FP・簿記・M&Aシニアエキスパート。大手税理士法人で多数の資産家の財務コンサルティングを経験。多数の資格を持ちながら、執筆業を中心に幅広く活動している。

個人事業主の事業承継をとりまく環境

中小企業庁の「小規模企業白書(2019年)」によると、中小企業のうち個人事業主が占める割合は52.0%で、過半数を超えている。一方、純粋に数だけに着目すると、年々減少傾向にあり、1999年は306万者だったが、2016年は186万者に減少している。個人事業主の数は、17年間で約6割にまで減少したということだ。

また、個人事業主の年齢分布は、2000年には50歳から54歳が最も多かったのに対し、2015年と2018年では70歳以上が最も多くなっている。このことから、個人事業主の高齢化が進み、廃業や承継といった出口戦略の選択を迫られている現状がうかがえる。

事業承継の種類と個人事業主の選択肢

事業承継の選択肢には、親族内承継・従業員承継・第三者承継(M&A)の3つがあり、個人事業主もこれらの中から選択することとなる。

中小企業庁の「小規模企業白書(2019年)」では、事業承継を実際に行った個人事業主を対象とした、後継者の属性の調査結果が報告されている。その結果によると、後継者は「子ども(男性)」が75.3%と最も多く、次いで「社外の第三者」6.8%、「親族以外の役員・従業員」4.4%となっている。

個人事業主の事業承継においては、親族内承継が主流である一方で、従業員承継や第三者承継を選ぶ経営者もいることがわかる。

経営者としての適性がある親族がおり、後継者としての了承が得られた場合は、親族内承継が一番スムーズかもしれない。ただ、例え親族内承継ができなかったとしても、「廃業するしかない」と悲観するのは早すぎる。

廃業を選択した場合、廃業に関わるさまざまな手続きを行うのは当然として、不動産や設備の処分に数百万単位の資金の捻出が必要になることもある。できれば、従業員承継や第三者承継も視野に入れた上で、事業承継の道を模索したい。

また、同調査の「事業を引き継ぐ上で苦労した点」という質問に対して、個人事業主の経営者で最も多かった回答は「取引先との関係維持」18.6%、「後継者に経営状況を詳細に伝えること」14.8%、「後継者を補佐する人材の確保」11.0%、「後継者と引継ぎの条件を調整すること」10.2%となっている。

個人事業主として、いずれの事業承継の選択肢を選ぶにせよ、苦労を最小限に抑えるためには事前の情報収集や準備が欠かせない。続いては、事業承継の具体的な方法について解説していく。

個人事業主の事業承継の方法は?売却・贈与・相続の違い

個人事業主が事業承継をする場合、事業用の不動産・機械設備・物品などの資産や負債などを、すべて後継者に引き継ぐ必要がある。事業用資産を承継する選択肢としては、「売却」「贈与」「相続」の3つがある。それぞれについて説明する。

個人事業主が事業承継する方法1:売却

売却では、現経営者である個人事業主が後継者から金銭を受け取って、事業用資産を引き継ぐことになる。第三者承継では、売却を選択することがほとんどだ。

現経営者である個人事業主にとっては、事業用資産に応じた対価を受け取れるメリットがあるが、売却価格に応じた所得税を納税する必要性が生じる。

確定申告を税理士に任せている個人事業主もいるだろうが、年末にバタバタしないよう、譲渡所得税の申告準備を早めにしておきたい。

個人事業主が事業承継する方法2:贈与

親族内承継では、事業用資産を子どもに贈与したいと考える個人事業主もいるだろう。事業用資産を贈与した場合、資産を引き継いだ子どもは贈与税を負担しなければならない。

贈与税には、年間110万円という基礎控除が存在する。基礎控除の範囲内に収まれば、贈与税の申告や納税は不要だが、基礎控除を超えた部分に関しては、10%から55%までの贈与税がかかる。贈与税率は、資産の評価額が高くなるほど、高い税率が適用される累進課税制度が適用されている。

贈与税の納付額をできるだけ低く抑えたい場合、事業用資産のうち設備だけを贈与し、不動産は現経営者である個人事業主が引き続き所有するという方法もある。現経営者は、事業承継後も不動産オーナーという立場になり、子どもに不動産を賃貸することになる。

事業承継先の子どもから受け取る家賃の金額が極端に低かったり、家賃を受け取っていない場合は、贈与とみなされてしまうので注意が必要だ。

いずれは、相続の時点で不動産も子どもに引き継ぐことになる。相続人が複数いるならば、間違いなく後継者が事業用の不動産を引き継げるように、遺言などを準備しておくことが望ましい。

個人事業主が事業承継する方法3:相続

事業の引継ぎのタイミングで、現経営者である個人事業主が亡くなった場合、子どもは相続という形で事業用資産を引き継ぐことになる。

相続税にも、贈与税と同様に、税金がかからない基礎控除の範囲が存在する。相続税の基礎控除の計算式は下記の通りだ。

3,000万円+600万円×法定相続人の人数

例えば、配偶者と子2人の合計3人が法定相続人である場合、相続税の基礎控除の計算結果は下記の通りだ。

3,000万円+600万円×3人=4,800万円

この相続事例の場合、事業用資産と個人用資産のすべての合計額が4,800万円以下であれば、相続税を申告・納付する必要はない。4,800万円を超える場合は、相続税の申告・納付が必要であるが、税率は10%から55%まで幅があるため相続財産によって納税額が変わる。財産の評価額が高いほど、高い相続税率が適用される。

相続の場合は、相続人同士が遺産分割協議を行って相続財産を分割することになる。遺産分割協議では、事業用資産も個人用資産もすべて同等に扱われる。そのため、事業用資産の評価額が高いと、事業を承継しない他の相続人が遺産分割の内容に同意しない可能性もある。遺産分割が終わらなければ、不動産の登記手続き等ができず、相続税の申告もできない。

相続人同士で裁判になれば、高額な弁護士費用などが発生して事業の承継や存続どころではなくなる。後継者がスムーズに事業用資産を引き継げるように、相続について明記した遺言を作成し、事業の後継者以外の相続人にも周知しておけば、相続トラブルを未然に防ぐことができる。

個人事業主の事業承継を成功させる2つのポイント

続いて、個人事業主が事業承継を成功させるために押さえておきたいポイントを解説する。

1.早いうちから事業承継の検討を始める

事業承継を検討するのに、早すぎるということはない。もちろん、後継者の年齢や状況に応じてタイミングを計る必要はあるだろうが、いつ事業承継に向けて動き始めてもいいよう、情報収集はしっかり行っておくようにしたい。

個人事業主の事業承継では、事業用の不動産と自宅が同じであるなど、法人とは違った形で相続の問題が発生することもある。事業を引き継ぐ後継者以外の相続人にも配慮が必要になるため、弁護士などの専門家に相談し、助けを借りながら進めていくといいだろう。

第三者承継(M&A)を選択するならば、売却候補先の探索や見極めなどを考慮して、事業承継を考える数年前から動き始める必要がある。

M&Aを進めるにあたって、公的な事業売却支援サービスやM&A仲介業者などの民間サービスを利用しながら、買い手候補先の探索を開始した方がいいだろう。事業の特徴や強みをM&A支援サービスの担当者に伝えることで、M&Aによって相乗効果が生まれる買い手候補先を探してもらえる可能性も高くなる。

2.事業承継の専門家に相談する

事業承継には、法務や財務などの専門知識が要求されるため、専門家の手を借りることが必要だ。自分たちだけで事業承継を進めてしまうと、後々大きな税務リスク・法務リスクが後継者の身に降りかかることもあるのだ。

事業承継の手続きとして、現経営者である個人事業主は、「個人事業の廃業届出書」や「給与支払事務所等の廃止届出書」などを提出しなければならない。また、後継者は「個人事業の開業届出書」などの提出義務があるが、開廃業にともなう手続きは複雑なので、税理士などの専門家にきちんと依頼するようにしたい。

どうしても開廃業に関わる手続きを個人行いたいならば、税務署に直接足を運んで手続きをするといいだろう。

個人事業主の事業承継の注意点

個人事業主の事業承継における注意点は、相続対策と税金対策の二つに大別される。

繰り返しになるが、相続対策とあわせて事業承継を考えなければならない。遺言の準備も、事業承継の準備と同時並行で行うことが望ましいだろう。引き継ぐべき事業資産が相続税の基礎控除額を超えて、納税義務が発生しそうな場合は、財産一覧表を作って相続税のシミュレーションを行うといいだろう。

事業承継における税金対策については、どの資産をどのタイミングで引き継ぐかによって発生する税金の金額が大きく違ってくる。事業資産の評価額などの計算は複雑なので、税理士などの専門家と相談しながら、承継時期も含めて慎重に判断する必要がある。

個人事業主の事業承継で忘れてはならない注意点は、後継者と良好な関係性を築くことだ。

事業を引き継ぐ際にあまりにも口を出し過ぎると、後継者の依存を生んでしまい、いずれ自分が完全に事業から手を引いた時に、事業が立ち行かなくなる可能性もある。必要に応じてアドバイスをしながら、最終的な判断は後継者に委ねることで、責任感を醸成することも大切だ。

後継者を立てつつも、言うべきことはきちんと指摘する。そのような絶妙な距離感を保ちながら後継者と良好な関係を築くことで、事業承継を成功に導くことができるだろう。

粘り強く後継者を探すことが事業承継の成功につながる

個人事業主の事業承継は、親族内承継では贈与や相続に関する課題があり、第三者承継の場合は後継者探しに苦労するなど、簡単には進まないことも多い。いずれの事業承継の方法を選ぶとしても、納得のいく結果になるまで、粘り強く取り組むことが大切だ。

個人事業主として事業承継を行う事に迷いが生じた時は、事業承継を考えたきっかけを思い起こすといいだろう。個人事業主として事業を継続させてきて、「商品・サービスを後世に遺したい」「取引先に報いたい」など、次の世代に事業を繋げていきたいという想いが、選ぶべき道を指し示してくれるはずだ。

文・木崎涼(ファイナンシャルプランナー、M&Aシニアエキスパート)

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