矢野経済研究所
(画像=PIXTA)

日本取引所グループ(JPX)によると3月期決算の上場企業の株主総会の集中日は6月26日、特定日への集中割合は昨年を2.3ポイント上回る33.2%、第4週への集中割合は82.4%、同12.4ポイント増となった。日程が例年以上に後ろ倒しになったことについて、JPXは「新型コロナウイルスによる影響を踏まえ、決算作業や監査手続など事務日程を出来るだけ確保しておきたい」との会社側の事情があったと説明する。実際、決算事務は国内外で遅れており、基準日を変更し開催時期を7月以降とする企業や計算書類承認議案のみを別日程で審議(継続会)または臨時株主総会で対応する企業もある。

一方、運営面のみならず、“中身” もこれまでとは様相が異なる。米の議決権行使助言会社インスティテューショナル・シェアホルダー・サービシーズ(ISS)は取締役選任議案におけるROE基準の適用を猶予するとともに、本来であれば計算書類をもって判断すべき剰余金処分等の議案についても「継続会」であれば “棄権” を推奨、つまり、反対助言をしないことを表明した。
短期的な利益還元要求は影を潜め、投資家は企業の持続可能性に注目する。中長期成長戦略の蓋然性はもちろん、社外取締役の独立性と比率、上場子会社取締役会の親会社からの独立、取締役会のダイバーシティの確保(女性役員比率)など、ガバナンスの在り方そのものが問われる。同時にESGやSDGsなど非財務KPIに対する取り組みの重みがこれまで以上に増す。

昨年8月19日、JPモルガン・チェース、アップル、アマゾンなど米国のトップ企業の経営者団体「ビジネス・ラウンドテーブル」は株主第一主義を見直し、従業員、取引先、顧客、地域社会などすべての利害関係者を重視する行動原則を発表した。そして今、新型コロナウイルスによる想定外の “パンデミック” がこの流れを決定づけ、加速させ、世界中で多くの投資家、経営者がこれに共鳴する。

4月20日、日本経済新聞一面に日本電産の永守重信会長のインタビュー記事が載った。氏は自身の経営について「自分の経営手法は間違っていた」と振り返り、これからは「利益至上主義を改め、自然との共存をはかる」、「収益が一時的に落ちても社員の幸福、働き易さを優先する」と述べた。4月~5月にかけて当社が実施したアフターコロナの経済環境を問うビジネスパーソンを対象としたアンケートでも、「社会貢献活動への関心が高まる」との回答率が4年前の2倍になった(「新型コロナ収束後の世界と企業経営」調査結果速報より)。
パンデミックが企業の社会的価値の本質を浮き彫りにする。そうであれば総会で経営陣が説明すべきは、その価値の確からしさとそれを高め続ける自身の意志と能力の有無、ということである。

今週の“ひらめき”視点 6.7 – 6.11
代表取締役社長 水越 孝