トヨタ自動車
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トヨタ自動車は、グローバル化が進む厳しい企業競争の中で、順調に成長している企業のひとつである。トヨタ自動車の成功の要因として語られるのが、明確な企業理念とトヨタ生産方式だ。今回はこの2つの要因と、将来を見据えて走り始めているトヨタ自動車の企業経営を紹介し、経営戦略のヒントを解説する。

目次

  1. 企業経営の基本となる明確な企業理念
  2. ゆるぎない経営を支える基本理念
  3. 事業の方向性を指し示すトヨタ行動指針
  4. トヨタグローバルビジョンによる世界に向けたトヨタ経営戦略
  5. トヨタ生産方式は世界的成功に導いた経営戦略
    1. 自動化
    2. ジャスト・イン・タイム
  6. 未来を見据えたトヨタ経営戦略
    1. モビリティ
    2. エコカー
    3. 働き方改革
    4. 人材育成
  7. お客様のニーズに合わせたトヨタ経営戦略がグローバルで安定した成長を実現させた

企業経営の基本となる明確な企業理念

企業経営の根幹となるのが企業理念であり、企業は企業理念を内外に表明している。成功している企業の多くが明確な企業理念を持っているが、トヨタ自動車もそのひとつである。企業理念とは、企業の存在意義、経営の目的、経営の方向性を明確に表すもので、トヨタ自動車では、「基本理念」「行動指針」「グローバルビジョン」「生産方式」という4つの哲学とビジョンで構成されている。

企業理念は、企業独自の企業文化をつくり、企業経営を向上させる。経営者は社員に企業理念を浸透させることで、企業目標と一致した行動と判断の指標を与えることができ、共感によるモチベーションアップとエンゲージメントの向上につながる。

トヨタ自動車のように創業から長い年月が経っている企業は、創業時の企業理念を伝統的に守り続けている企業も多い。老舗企業として強力な影響力をもつ一方で、企業を取りまく社会環境の変化は加速しているため、企業理念も時代に合わせる必要性が出てくるのも事実である。

トヨタ自動車は、伝統的な「基本理念」を重要視しながら、時代の変化に合わせた「グローバルビジョン」を企業理念に掲げ、現在から将来に向けての明確なビジョンの表明を実現している。

ゆるぎない経営を支える基本理念

トヨタ自動車の企業理念のベースになるのが「基本理念」であろう。基本理念は、トヨタグループの創業者である、豊田佐吉氏の考え方をまとめた「豊田綱領」から発展したものである。豊田綱領が明文化されたのは、佐吉氏の6回忌にあたる1935年のことだ。

豊田綱領が明文化された理由は、事業規模が拡大することによって社員の数も増え、豊田佐吉の教えを社員に浸透させるには、明確に明文化する必要が生じたからである。トヨタ自動車の企業理念を根幹とした企業経営がみえてくる。

豊田綱領の精神は、トヨタ自動車の経営のベースとして存在し続けている。1992年には企業を取り巻く環境変化に対応した内容に改定され「トヨタ基本理念」が策定された。1997年にはさらに改定が行われ現在に至っている。トヨタ基本理念では、トヨタ自動車が「どのような会社でありたいか」という企業理念を表明している。

経営戦略のヒントとして下記にトヨタ基本理念を引用しておく。

1.内外の法およびその精神を遵守し、オープンでフェアな企業活動を通じて、国際社会から信頼される企業市民をめざす
2.各国、各地域の文化、慣習を尊重し、地域に根ざした企業活動を通じて、経済・社会の発展に貢献する
3.クリーンで安全な商品の提供を使命とし、あらゆる企業活動を通じて、住みよい地球と豊かな社会づくりに取り組む
4.様々な分野での最先端技術の研究と開発に努め、世界中のお客様のご要望にお応えする魅力あふれる商品・サービスを提供する
5.労使相互信頼・責任を基本に、個人の創造力とチームワークの強みを最大限に高める企業風土をつくる
6.グローバルで革新的な経営により、社会との調和ある成長をめざす
7.開かれた取引関係を基本に、互いに研究と創造に努め、長期安定的な成長と共存共栄を実現する

引用元:トヨタ基本理念 トヨタホームページ

事業の方向性を指し示すトヨタ行動指針

トヨタ自動車の経営で参考になるのは、基本理念を行動や手法に落としこんでいる点だ。この行動や手法にあたるのが、「トヨタ行動指針」と「トヨタウェイ」である。

現在、多くの企業がインターネットを通じて企業のホームページに企業理念を掲載しているのを目にするが、単なる目標の表示にとどまり、行動や手法がみえてこないケースも見受けられる。

トヨタ自動車の基本理念は、シンプルで分かりやすく、企業の目的を行動へと落としこんでいる。トヨタ基本理念が「どのような会社でありたいか」という企業が目指すべき目標や目的であり、その目的を達成するために社員が共有すべき価値観や手法を「トヨタ行動指針」と「トヨタウェイ」で示しているのだ。

トヨタ自動車は、巨大なグローバル企業である。トヨタ自動車で働く社員は、一人ひとり違った価値観を持ち、誰一人全く同じ考え方をする社員はいない。巨大な企業を経営するためには、社員がトヨタ自動車で働く時の共通な価値観が必要となるのである。

トヨタ自動車は「トヨタ行動指針」と「トヨタウェイ」として、従来、精神的に伝えられてきた価値観や手法を明文化し、世界中のトヨタ自動車の社員が同じ価値観を共有化できる環境を実現した。

トヨタグローバルビジョンによる世界に向けたトヨタ経営戦略

企業理念は、企業経営の根幹となる理念であり、明文化して社員に浸透されることは非常に重要である。しかし、それは、固定的に完成されたものではない。「トヨタ基本理念」「トヨタ行動指針」「トヨタウェイ」では、創業からの変わらない精神的な核の分部を尊重しながら、時代とともに変革や改善を行っていくことの重要性を記している

社会環境の急激な変化に合わせ、トヨタ自動車が企業理念の中で、現在から未来に向けた変革や改善をテーマに展開しているのが「トヨタグローバルビジョン」である。トヨタグローバルビジョンでは、未来に向けたイノベーションや地球環境といった、世界規模で変革する社会環境と課題に対し、トヨタ自動車がどのように改革を行い企業の目標を達成していくかを明文化している。

トヨタグローバルビジョンの内容を参考に企業戦略のヒントとなるビジョンを以下にまとめる。

・未来のモビリティ社会をリードするために、新しいテクノロジーを駆使した新しい交通・移動手段を開発する
・雇用、教育で社会に貢献する
・顧客と従業員の安全を最優先する
・顧客満足の向上を目指す
・時代の先を行くイノベーションを追求する
・地球環境に配慮する
・顧客のニーズを先取りする
・地域に貢献する
・高い目標を掲げ限界に挑戦する
・社員のスキルアップを目指し多様性を尊重する
・改善の精神をもつ

トヨタ自動車は、企業経営のあり方を一本の木で表現している。木の根は「豊田綱領」「トヨタ基本理念」「トヨタウェイ」、木の幹は、安定した経営基盤であり、その幹の先に「トヨタグローバルビジョン」で掲げた果実が実るように、持続的に成長していくというあり方である。

トヨタ生産方式は世界的成功に導いた経営戦略

トヨタ自動車が世界的な成功を収めた要因には、「トヨタ生産方式」があるといわれている。ここでは、経営戦略のヒントとなる項目をまとめる。

自動化

自動化はトヨタ生産方式の根幹をなす戦略のひとつである。トヨタ自動車の自動化では、おもに工場で行われる製造作業を人の手から機械やロボットへ移行させている。近年テクノロジーが進化し、AIによる業務の自動化が進められているが、自動化は自動車業界のみならず、全ての業界に共通するテーマである。トヨタの自動化導入の手順は非常に綿密で納得感がある。

  1. 人が行っている作業(業務)を棚卸する
  2. 改善を重ねながら作業(業務)をシンプルにしていく
  3. 特定の社員しかできないと思われる作業(業務)を誰でもできる作業(業務)にしていく
  4. 作業(業務)を機械やロボットへ移行させる
  5. 1から4の作業を繰返す
  6. 機械やロボットの改善を繰返し、情報が蓄積される
  7. 改善や情報の蓄積によりメンテナンス費用や作業(業務)時間の短縮、作業(業務)対応量の増減に対するタイムリーな対応が実現される。

ジャスト・イン・タイム

ジャスト・イン・タイムとは、必要なものを必要な量だけを造るという戦略だ。顧客から注文が来てから造りだすため、どんな注文にも対応できるように、全ての部品を少しずつ取りそろえておき、使用した部品を補充していく。

ジャスト・イン・タイムは、在庫、作業量、作業に関わる人などのコスト削減を実現する。トヨタの経営戦略では徹底的な無駄の排除を追求しており、必要な時に必要なだけのコストを投入する施策が採用され、改善が継続されている。

未来を見据えたトヨタ経営戦略

トヨタ自動車の2018年アニュアルレポートには、自動車生産の企業からモビリティーカンパニーへ転換していく方針が表明されている。人や物流の手段は将来的にモビリティに移行していく事を見据え、移動に関するあらゆる可能性を提案する企業になる戦略を選択したのである。

モビリティ

モビリティとは、移動に最適な交通手段をスマートフォンで手配して、支払ができるモビリティサービス(MaaS)を指す。モビリティサービスの出現は、人の移動や物流の考え方を根本的に変えてしまう。トヨタ自動車はモビリティ社会の到来に向け、モビリティーカンパニーへ転換する経営戦略を取っている。

エコカー

グローバルな展開を企業戦略としているトヨタ自動車にとって、エコカーへの取組も重要な戦略のひとつである。具体的にはCO₂排出量の削減に向けて、電動車の販売に対し具体的な目標を設定して展開している。環境問題をテーマにしたグローバル市場規模は大変大きく、経営戦略として有効である

働き方改革

トヨタ自動車は、働き方改革の推進とダイバシティ―マネジメントを重要な経営戦略としている。働き方改革では、FTL(FreeTime&Location)制度や在宅勤務制度を導入し、社員のニーズに合った柔軟な働き方の実現を目指している。

ダイバシティ―マネジメントでは、多様な人材が活躍できる環境を目標に、管理職の研修を行うとともに、グローバル幹部の人材を育成している。

人材育成

トヨタ自動車は、トヨタ生産方式の中で自動化やジャスト・イン・タイムによるコスト削減を実行してきたが、人による日々の改善が、企業の継続的な成長には不可欠であるという考え方をもとに、人材育成に取り組んでいる。

人材育成の基本は企業理念の共有化であり、上司や先輩社員がOJTを中心とした人材育成の中で、企業理念の価値観や手法である「トヨタウェイ」の実践を通じて教育するプログラムを実施している。

お客様のニーズに合わせたトヨタ経営戦略がグローバルで安定した成長を実現させた

2020年3月のトヨタ自動車の決算資料を見ると、トヨタ自動車の経営戦略によりグローバルで安定した成長が実現したことがわかる。具体的に北米ではハイブリット仕様のSUV車のパワフルなイメージをアピールし、中国では先進技術を活かした商品ラインアップを拡大した。また、欧州ではハイブリット車の優位性にポイントを置いて働きかけた。それぞれのエリアの顧客ニーズに合わせた経営戦略が成功した事例である。トヨタ自動車は、明確な企業理念とトヨタ生産方式をベースに顧客ニーズに合わせた経営戦略を実行しているのである。

文・小塚信夫(ビジネスライター)

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