

土地や家屋にかかる固定資産税は、その計算方法や税率などがあまりよく知られていないように感じる。法人税等と違い、申告や税計算が不要であるため、知らないままでも納税が済んでしまうからだろう。
しかし稀に市町村側の計算に誤りが見つかり、固定資産税の高額な還付がニュースになることがある。こうしたニュースを見て「もしかしたらうちの固定資産税も…?」と不安になったことがある方もいらっしゃるのではないだろうか。今回は、固定資産税とは何か、その計算方法や評価額の算定方法などについて解説する。
目次
固定資産税とは
固定資産税とは、市町村が固定資産を所有する人に対して課税する地方税の1つだ。まずは固定資産税がどのようなものか、ポイントを押さえておこう。なお今回は、土地や家屋にかかる固定資産税について解説する。(償却資産を除く)
1月1日の所有者に課税される
固定資産税を納税しなければならないのは、1月1日時点の土地や家屋の「所有者」となる。所有者については、主に登記の情報から、市町村が作成する固定資産課税台帳によって管理されている。ただし、令和2年度の税制改正大綱によれば、令和3年分以後の固定資産税は、所有者がどうしてもわからない固定資産に対し「使用者」を所有者とみなして課税することが予定されている。
なお、不動産売買の際に固定資産税を日割り計算することがあるが、これは納税義務によるものではなく、不動産取引の慣習によるものである。
税額は「固定資産税評価額」に基づき市町村が計算する
土地や家屋にかかる固定資産税は、その固定資産の「固定資産税評価額」に基づいて税額が計算される。固定資産税評価額を決めたり、固定資産税を計算したりするのは、土地や家屋の所在地となる市町村だ。
納税者は、市町村から毎年4月~5月ころに送付される通知書に書かれた税額を、納期限までに納めればよい。納期限は、年4回の期日に分けられている。
このように市町村などが税額を計算して納税者に通知する課税方法を、賦課課税方式という。賦課課税方式にあたる税金は、ほかにも、自動車税などがある。
ちなみに法人税や所得税のように、自ら所得や税額を計算して申告する課税方法を申告納税方式という。
固定資産税の評価額はどうやって計算される?
固定資産税評価額は、総務大臣が告示する「固定資産評価基準」によって、市町村がその価格を決定しなければならないとされている。(地方税法第402条)
総務省HP「固定資産評価基準」
ここでは上記の「固定資産評価基準」の内容から、固定資産の評価額がどのように計算されるか、おおまかな流れを解説する。
土地の評価額の計算方法
土地は、地目別に評価方法が決められている。地目とは、田、畑、宅地、鉱泉地、池沼、山林、牧場、原野、雑種地のことだ。
たとえば市街地にある宅地の場合、まず、区域ごとに標準的な宅地を選定し、その売買実例価額に基づいて「路線価」を決定する。この路線価は、「固定資産税路線価」と呼ばれ、市町村の窓口やインターネットで調べることができる。国税庁が公開する相続税路線価とは異なるので、注意していただきたい。
続いて、この路線価をもとに、一筆の宅地に「評点数」をつけていく。この評点数1点あたりに市町村が決定した価額を乗じて、土地の評価額が決まる。なお宅地の固定資産税評価額は、国が算定する地価公示価格の7割ほどが目安とされている。公示価格については毎年1月1日の価格を基準に、3月頃に国土交通省から発表される。
家屋の評価額の計算方法
家屋の場合は、建築素材、構造、用途などを考慮した再建築費評点数を計算し、その点数に経過年数による減額補正率を乗じて評価額を計算する。評点数1点あたりの価額は、土地と同様に市町村が決定する。減額補正率とは、家屋の損耗分を考慮した補正のことだ。
家屋は、時間とともに徐々に劣化することから、土地と違って年数の経過によって減額される。したがって、古い家屋ほど評価額は低くなる。ただし、新築住宅は数年間の減税期間があることから、新築家屋の固定資産税については、減税期間終了とともに増税となることが一般的だ。
この点については問い合わせが多いようで、ホームページで注意喚起している市町村もある。
固定資産税の計算方法
固定資産税は、固定資産税評価額をもとに計算される「課税標準額」から、次のとおり計算される。
【固定資産税の計算式】
固定資産税の課税標準額×税率1.4%
1.4%は「標準税率」であり、ほとんどの市町村は1.4%を適用しているが、中にはこれより高い税率を設定している市町村もある。
土地の課税標準額の減額や負担調整について
土地の課税標準額は、土地の用途によって、それぞれ減額ルールが定められている。また、地価の高騰で土地の固定資産税が急激に上昇することを防ぐため、土地の価格が上がっているときは「負担水準」を基準に、課税標準額の調整が行われる。ここでは、住宅用地と商業用地の減額ルールとその負担調整についてご紹介する。
・住宅用地の場合
住宅用地の課税標準額は、面積によって次のとおり減額される。
・小規模住宅用地(住宅一戸あたり200㎡までの部分)
→課税標準となるべき価格×6分の1
・一般住宅用地(200㎡を超える部分)
→上記の価格×3分の1
ただし、前年度の課税標準額に比べて本年度の価格(減額後)の方が高い場合は、負担水準によって、緩やかな上昇となるよう調整される。
・商業用地
商業用地については、負担水準の割合によって課税標準額の計算が変わる。まず、「前年度の課税標準額/本年度の価格」(負担水準)の割合が70%を超える場合、課税標準額は70%に減額される。負担水準が70%を超えるということは、前年度と本年度の価格に、あまり差がないということだ。
これに対し、負担水準が60%以上70%未満の場合は、前年度の課税標準額から据え置きとなり、60%未満の場合は、緩やかな上昇となるよう調整される。ちなみに東京都23区は条例によって、負担水準が65%を超える土地は、課税標準額を65%に減額したときと同じ税額になるよう調整される。これは、負担水準70%超の基準を65%超に引き下げたもので、納税者に有利になっている。
そのほか23区では、中小企業の負担軽減のため、小規模非住宅用地に該当するものは、申請によって、2割の減税を受けられる場合がある。
家屋の減税特例
家屋の場合は、固定資産税額そのものを減額する措置がある。たとえば新築住宅の固定資産税は、一定の要件のもと、3年分(認定長期優良住宅は5年分)の税額が2分の1に減額される。そのほか、耐震化、バリアフリー化、省エネ化などを施すことによって税額が軽減される場合もある。
ただし、市町村への申告が必要になる場合があるため、申告期限があるものには特に注意していただきたい。なお、住宅の新築や耐震化、バリアフリー化などは、自治体の補助金の有無についてもあわせて確認するとよいだろう。
固定資産税評価額はいつ計算される?
固定資産税の税額を決める評価はいつ行われているのだろうか。
3年に1度の評価替え
固定資産税評価額は、一度決められたら、永久的に同じ額ではない。市町村が認めた不動産鑑定士に評価員を委託し、その評価員が固定資産の評価を行う。市町村は、原則3年に1度、評価替えを行い、固定資産の価格を見直している。固定資産の価格は毎年変わるため、本来は毎年評価を行なわなければならないが、膨大な固定資産について毎年評価を見直すことは難しいため、3年に1度となっているのだ。
ただし、評価を据え置いている期間に著しく土地価格が下落したことを市町村長が認める場合は、評価額の修正を行うこともある。
家屋調査
新築や増改築された家屋については、家屋調査によって固定資産の評価を行っている。家屋調査は、所有者からの申告等によって行われるほか、登記所からの通知によっても実施される。なお、住宅の取り壊し、建て替え、用途の変更などを行ったときは、届け出を求めている市町村が多い。期限を設けているものもあるため、該当する方はホームページなどで確認していただきたい。
固定資産税評価額の調べ方
固定資産税評価額は、固定資産の所有者ならば簡単に調べることができる。
固定資産台帳の閲覧
固定資産税評価額は、市町村が管理する「固定資産課税台帳」にその価格が登録されている。「固定資産課税台帳」は市町村の窓口でを閲覧することが可能だ。閲覧には申請が必要で、所有者や、その土地や家屋を借りている人などであれば申請できる。ただし、本人確認ができるもの(免許証など)の提示や閲覧料が必要となるため、あらかじめ市町村のホームページで確認しておこう。
課税明細書
固定資産税評価額は、市町村から税額の通知書とともに送られてくる「課税明細書」にも記載されている。確認するときは、課税標準額と混同しないように注意しよう。
固定資産税が高いと思ったら
ごく稀に、市町村のミスによって固定資産税が多く計算されていることがある。やや古い資料になるが、平成21年度から23年度の固定資産税等の課税ミスをまとめた総務省の調査結果によると、税額の修正を受けた人数は、この3年間で全体の0.2%、つまり500人に1人という結果であった。
減額修正となったのは、土地が68%、家屋が59.5%であるので、本来より多い税額を徴収されていた人の数は500人に1人よりも少ないことになる。ちなみに、この期間内の税額修正の主な要因は次のとおりだ。
・土地の場合
評価額の修正、負担調整措置・特例措置の適用の修正、現況地目の修正、納税義務者の修正など
・家屋の場合
評価額の修正、家屋滅失の未反映、新増築家屋の未反映、納税義務者の修正など
(出典)総務省HP固定資産税及び都市計画税に係る税額修正の状況調査結果
たった0.2%といっても、数千万人の納税者に対する割合であるため、数万人の納税者がミスによる税額修正を受けたことになる。評価額のミスについては、納税者側が誤りに気付くことは難しいだろう。しかし、土地の負担調整・特例措置の適用の修正、家屋の新増築家屋の未反映であれば、計算方法を把握して課税明細書を見れば、気がつく可能性がある。
間違いに気づいたら、いつから間違っているのかを証明する客観的な証拠をそろえ、市役所や区役所の固定資産税を管轄している部署へ申し出る必要がある。
固定資産税は固定資産の適正な評価によって決まる
今回は、固定資産税について、評価額や税金の計算方法などについて解説した。通知された固定資産税評価額について不服があるときは、納税通知書の交付を受けた日から原則3か月以内であれば、都道府県の固定資産税評価委員会に審査を申し出ることができる。突然こうした申し出を行うことが不安であれば、税理士に課税明細書を持参して相談することも可能である。
文・中村太郎(税理士・税理士事務所所長)