航空会社
(画像=NextNewMedia/Shutterstock.com)

航空業界は減便・運休など新型ウイルスの影響で、最も打撃を受けている業界の一つだ。米著名投資家のウォーレン・バフェット氏が、損失を承知の上で米主要航空株をすべて売却するなど、不穏な空気に包まれている。苦戦を強いられる各国航空会社の最新動向を知ることで、今後の展望が見えてくるのではないだろうか。

世界の旅客収益の損失は最大12兆円超え?

国際航空運送協会(IARA)の報告書によると、2020年3月の世界の旅客輸送容量(RPK)は前年比52.9%と大幅に減少し、乗客数(季節調整済)は2006年の水準に低下した。同協会は2020年の世界の旅客収益の損失が、最大総額1,130億ドル(約12兆1,741億円)規模に達すると見積っている。

ANAやJALなど国内航空会社の動向

国内航空会社が加盟する定期航空協会は、国都交通省に税制上の措置や国際航空券払い戻し返金早期化のほか、「2.5兆円の支援パッケージ」を含む支援を要望している。内訳はコロナの影響が1年間続くという想定で、政府系金融機関からの2兆円規模の融資枠の確保や、感染症水際対策による損失・追加費用に対する給付金5,000億円を求めるものだ。

しかし、財務省は経済的に脆弱な立場にある中小企業の支援を優先しており、定期航空協会の要望が受け入れられる可能性は低いとの見方が強い。JALが発表した輸送実績によると、2020年3月の国際線の旅客数は20万7,320人、RPKは127万4,373千人キロだ。前年同期の79万1,682人、387万5,568千人キロという数字と比較すると、その差は歴然としている。

ANAも同様、運休や減便、小型化などで対応を試みているが、売上高の減少をカバーすることは難しい。現実になるとは想像しがたいが、仮にすべての運行がストップした場合、JALの耐久期間は13ヵ月、ANAの7ヵ月と一部のアナリストは算出している。

バフェット氏の保有株売却が示唆する?米航空産業の未来

米航空市場は5月に入り、バフェット氏がデルタ航空、アメリカン航空、サウスウエスト航空、ユナイテッド航空の全保有株を売却したことから、「当面回復の望み薄い」との見方が強まっている。同氏率いるバークシャーは2019年12月末の時点で、各航空会社株の11%、10%、10%、9%を保有していた。

同氏の動きは、米航空会社側の強気なスタンスと180度相反する。デルタ航空、アメリカン航空、ユナイテッド航空の米航空会社3社は3月、自社の現金持高が十分であることに加え、感染症水際対策で生じた損失を減便などのコスト削減で相殺する対応策を打ち出し、「コロナショックを乗り切れる」とのポジティブな見解を示していた。

バフェット氏は今回の大胆な決断に関して、「今売却することで相当の損失を出したとしても、将来的により大きな損失を出す恐れのあるビジネスには投資出来ない」とコメントしている。

欧州航空会社で相次ぐ大型リストラ

一方、英ブリティッシュ・エアウェイズは、「2019年の水準に回復するには数年を要する」との見解から、全従業員のほぼ30%に相当する、最大1.2万人の大型リストラを発表した。

しかし3月には親会社であるインターナショナル・エアラインズ・グループが、「コロナ不況を乗り切るために十分な資金がある」と発言していたことから、「コロナを利用したリストラではないか」との指摘もある。また、休業中の従業員の給与の8割は、政府の新型コロナ経済対策である雇用支援制度でカバーされることから、従業員からも「腑に落ちない」との声も上がっている

スカンジナビア航空は全従業員の約半分である、最大5,000人のリストラを発表した。独ルフトハンザは、債権者保護の申請を検討していることなどが、従業員の証言から明らかになっている。

KLMオランダおよびエールフランスは、オランダ政府が20~40億ユーロ(約2,328億2,618万~4,656億5,236万円)の支援金を注入する。両航空会社は2004年に合併して以来、欧州最大の航空会社グループ、エールフランス‐KLMの持ち株会社として運営しており、2019年には同政府が14%の株を買い入れている。

ヴァージン航空とブランソン氏の資産をめぐる議論

ヴァージングループが所有するヴァージン航空に関しては、グループ創立者兼ビリオネアであるリチャード・ブランソン氏が、推定47億ポンド(約6,241億4,063万円)と言われる莫大な資産を所有している事実が、議論を醸し出している。同氏は過去14年間にわたり、タックスヘイブンとして有名なイギリス領ヴァージン諸島を居住地としているため、個人所得税を免除されている。

このような背景から英政府は、英ヴァージン・アトランティック航空が要請していた5億ポンド(約663億9,794万円)の支援パッケージを却下した。しかし、ガーディアン紙の報道によると、「100を超える投資家が救済に関心を示している」ことから、一足先に事実上経営破たんに追い込まれた豪ヴァージンと同じ道を辿ることは回避できるかも知れない。

格安航空会社(LCC)の行方は?

日本でもジェットスター・ジャパンやピーチ・アビエーションといったLCCが、減便や延期の影響を受けているが、サービスやコストを抑えて格安の航空券を提供することを収益源にしているLCCにとって、「人件費を含めた維持費の低さが救いとなる」との見方もある。

欧州最大のLCCであるアイルランドのライアンエアーや英イージージェットなども、大幅な減便あるいは全面欠航を余技なくされている。しかし、ライアンエアーは向こう1年半ほど持ちこたえられる現金残高を保有しており、イージージェットは英財務省とイングランド銀行の緊急コロナウイルス基金から6億ポンド(約796億9,305万円)の融資を確保している。

しかし一部のLCCは、いずれ破たんや合併に追い込まれる可能性も否めない。

航空会社はどう乗り切るのか?

経済的コロナショックは、過去のパンデミックや災害、9.11に代表されるテロなどより、はるかに打撃範囲が広く長期化するものと予想される。過剰なサービスの縮小はブランドのイメージダウンにつながり、運賃の値上げは利用客の減少の要因となる。各国の政府の景気刺激策と連動しながら、消費を煽るといった巧妙な戦略が必須となるだろう。

文・アレン琴子(オランダ在住のフリーライター)

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