矢野経済研究所
(画像=PIXTA)

相次ぐ震災や感染症の蔓延により高まる防災意識、2019年度の国内防災食品市場は前年度比134.8%に拡大の見込

株式会社矢野経済研究所(代表取締役社長:水越孝)は、国内の防災食品市場を調査し、製品セグメント別の動向、参入企業動向、将来展望を明らかにした。

防災食品の市場規模推移

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1.市場概況

国内の防災食品市場規模は、2018年度で前年度比112.1%の178億6,400万円と推計する。2019年度は、新型コロナウイルス感染症の蔓延などによる一般消費者のまとめ買いが発生していることなどから、前年度比134.8%の240億8,100万円を見込む。

2019年度の防災食品のユーザー別構成比は、高い順に行政機関40.2%、民間企業22.1%、一般消費者20.1%、病院・介護施設8.0%、学校6.4%、その他3.2%となり、業務用需要が8割を占めると見込む。
防災食品の賞味期限は3~5年が中心であるが、費用計上を平準化するため、年に1回の調達を数年にわたり継続することで入れ替えが行われている。そのため、3~5年周期の買い換え時期にまとまった伸びがある一方、その間にも需要は発生しており、市場は増減を繰り返しながら緩やかに拡大している。

2.注目トピック

防災食品の成長性

2011年に東日本大震災が発生して以降、2016年には熊本地震、2018年には西日本豪雨、北海道胆振東部地震、2019年には台風19号、2020年には新型コロナウイルス感染症の蔓延など、日本列島は、地震、台風、豪雨など多くの災害に見舞われている。こうしたなか、2015年度と2019年度(見込)の市場規模を比較した商品カテゴリー別の成長率は、保存水で251.3%、米飯類で187.5%、パン類で184.0%と高くなる傾向にある。

本調査に関連し、全国の自治体(30団体)、大手民間企業(30社)、病院施設(66施設)の計126法人を対象に2020年1月~2月に実施した防災食品備蓄等に関する法人需要アンケート調査では、BCP(事業継続計画)に基づく災害時の具体的な対策について(単数回答)、93.3%の自治体が対策を実施しているとの回答に対し、大手民間企業は80.0%、病院・施設では54.5%に留まった。自治体が先行する一方、民間企業や病院・施設等では、まだこれから対策を検討するところも多く、防災食品に対する需要は大きいとみる。

また、防災食品の採用基準(複数回答)には、保存期間、手ごろな価格、美味しさ、保管し易さが上位にあがっている。商品の要望や不満点(複数回答)においても、消費(賞味)期限の長期化、低価格化、美味しさの向上が続く結果となるなど、消費期限の延長や低価格化は元より、美味しさや保管し易さが採用のポイントになることが窺える。

3.将来展望

内閣府はローリングストック(災害時に備えた食品備蓄方法のひとつ)を提唱し、自治体は帰宅困難者対策条例を制定し企業に非常用物資の備蓄を求めている。こうした条例のある都市部では、大企業、官公庁ほか、中小・零細企業においても備蓄が浸透しつつある。一方、地方では安全に帰宅させることを優先する場合が多く、なかには、全く備えのないケースもあるなど、全国的には十分とは言えないのが実状である。

帰宅困難者対策条例の制定を契機に、都市部の大企業を中心に拡大してきた防災備蓄は、世の中の防災意識の高まりに伴い、地方企業や一般消費者にまで拡大していく可能性がある。防災食品の普及には、備蓄に対する重要性の啓蒙は元より、美味しさや保管のし易さの訴求が鍵になると考える。

こうしたなか、防災への意識の高まりと共に普及が進んでいることから、2024年度の国内防災食品市場規模は278億3,900万円に拡大すると予測する。