佐藤 順一 社長
(画像=ビジネスチャンス 佐藤 順一 社長(60))

業務用・一般用の酒類販売・配達を行うカクヤス(東京都北区)は、「東京23区内なら最短1時間で配達」を強みに業績を拡大させてきた。1921年、街の酒屋からスタートした同社は、昨年12月に東証2部に上場を果たし、2019年3月期の売上高は1087億円と1000億円を突破している。これまでは主に東京・大阪で展開してきたが、上場を機に知名度を向上させ、エリアを拡大していきたいという。佐藤順一社長から話を聞いた。(※2020年6月号より)

和納 勉
佐藤 順一
さとう・じゅんいち
1959年東京都北区生まれ。筑波大学卒業後の1981年、祖父が創業し父親が経営するカクヤス酒店に入社。専務を経て1993年に社長に就任。。

売上高は1087億円 昨年12月に東証2部上場果たす

――都心を歩けば、ピンクの屋根が目を引く大きな荷台付き自転車をよく見かけます。配達車は自動車ではなく、あえて自転車を使用しています。

佐藤 当社の配達車はわざと派手にして宣伝効果も狙っています。自転車を利用することで、23区内等のエリアであればビール1本から無料で配送、場所は店でも一般家庭でもバーベキュー会場でもどこでも行くことができます。この手軽さがご好評を頂き、売り上げを伸ばしてきました。

――2019年3月期の売上高は1087億円となりました。

佐藤 当社は業務用・一般用の酒類販売及び配達を主な業務にしていますが、 売上のうち70%以上を占めるのが、料飲店などの顧客に配達を行う、いわゆる業務用売上です。2020年3月期の売上予想は1104億6000万円で、そのうちの795億5000万円がこの業務用売上となる見込みです。そして全売上の残り30%を、個人向けの宅配売上と店舗での販売売上でほぼ2分しています。

――店舗及や小型倉庫等は、東京23区と大阪の中心部に173箇所もあります。

佐藤 他にも業務用物流センターを11箇所置いています。2017年に東京都大田区に開設した7000坪ある平和島流通センターは社内物流専用で、これにより問屋の配送機能に頼らず各拠点まで配送できる体制を整えました。365日対応のコールセンターも、本社内に自前で設置しています。

――東京23区内なら最短1時間で、酒瓶1本から配送するという他社とは一線を画すサービスが、ビジネスモデルの核になっています。

佐藤 一般的な業務用酒類販売はルート配送で、飲食店が前日にファックスなどで注文した分が、翌日に手元に届く、というものです。一方当社への発注は、当日の追加注文も可能なため、その日の天気やお客の入り具合など細かな点も反映させることができるのです。料飲店にとっては、在庫の圧縮が可能だということ、そして、発注用の人を付けなくていい、といった点があります。今のビジネスモデルにした当初は、業務用と一般用の売上が半々くらいでしたが、今では業務用が70%を占めます。都内の場合、22時まででしたら1時間以内に運びますし、歌舞伎町、新宿二丁目、六本木などのエリアでは朝5時まで対応しています。

同社のコールセンターの様子
(画像=ビジネスチャンス)同社のコールセンターの様子

エリアに集中させて玄関先での営業も可能に

――エリアに集中して店舗を出店している。これが短時間での配達を可能にしている。

佐藤 1.2㎞を商圏として都内に網の目のように張り巡らされた店舗の存在が、当社の仕組みを支えているのです。店舗は倉庫も兼ね、平地は主に自転車で配達を行う。都心の大きな繁華街では、既存の店舗が4つ集まる中心地点にさらにもう1店舗を出店、よりきめ細かな対応を追求しています。

――何よりも店舗と配送、両方やっているというところに強みがある。

佐藤 店舗には必ず看板を掲げているので料飲店さんにも知られていて、近くにあるということが、安心感に繋がっているのだと思います。

――他の配送業者との違いは、単に商品を届けるだけでなく、玄関先で接客ができる点が挙げられますね。

佐藤 実際、行っているのは、配達というより販売です。届けている相手は常に「見えて」おり、どこの注文が来ていないかわかれば、すぐに営業マンが飛んでいく。通販会社とは根本的に違う。

――この点では、こと酒販に関してはAmazonに対抗する優位性を持っています。

佐藤 現在、業務用販売は、4万店から発注があり、月平均で1軒あたり約10万円の売上があります。個人向け宅配は60~70万世帯あり、1件あたりの単価は約5000円、配達頻度は月に1~2回程度です。

ピンクのリヤカーで配達する
(画像=ビジネスチャンス ピンクのリヤカーで配達する)

個人向けから業務向けへビジネス転換で黒字化を達成

――1921年創業の老舗酒店が、現在のビジネスモデルを確立した契機は。

佐藤 転機を迎えたのは2000年のことでした。丁度そのころは、酒類の消費は1990年代の7兆円をピークに落ち込み、加えて数年後には酒類免許の自由化が控えるタイミングでした。

――当時は当然、大手の参入も予想されていました。

佐藤 当社も当時のメインは店舗での販売と個人向け宅配でした。このままでは大手にシェアを奪われてしまう、という危機感を持っていました。そんな中ひとりの社員の「どうして個人向けに宅配するなら業務用の配達もしないのか」という声をきっかけに、業務用販売に注力することとなったのです。

――業務用の新規開拓は、一般的に既存の取引先との関係から難しい。

佐藤 そのため「夜など、困った時はウチに」というソフトなアプローチからだんだんと裾野を広げ、支持を獲得していきました。

――時間をかけて行ったこの取り組みが奏功した。

佐藤 売上は2003年から急激にアップしました。販売量に応じてメーカーから支払われていたリベート(報奨金)が廃止となり、価格に頼った酒類販売店がつぶれていく中、当社は逆に2006年には黒字化を果たしました。

――2011年には同業のマインマートを買収しました。

佐藤 これにより売上1000億円を超えたのです。

人材は高卒を積極採用 地方展開はM&A視野に

――昨年12月に東証二部に上場を果たしましたが、上場を目指した理由は。

佐藤 知名度の向上と共に資金調達をしやすくする環境を整え、人材確保と地方展開を容易にするために上場を目指しました。当社では、高校生の新卒採用にも力を入れており、毎年100名、多い時では120名程を採用します。4大卒は20〜25名程度。紹介などのその他も含めると全部で150名くらいを毎年採用しています。

――現在、東京と大阪をメインに展開していますが、エリア拡大は目指していますか。

佐藤 地方展開は、新規開拓と物流で苦労した大阪での経験をもとに、博多や仙台といったある程度大きな都市圏を、既に顧客や人材を抱えた企業のM&Aによって攻めていきたいと考えています。

――ビジネスモデルはある程度確立しています。今後の大きな課題となる点は。

佐藤 まずは「隙間時間」の存在でしょう。都内では1時間枠での配達ということもあり再配達率は0.6%と非常に効率的ですが、配送希望時間は集中しがちです。既に、配達が少ない時間帯にポイントを付けて誘導するなど対策は講じているものの、そもそもそうした時間は埋まりません。

――ではどのように取り組んでいきますか。

佐藤 時間帯をならすのではなく、時間の谷で何をするか、何で埋めるのかが大きなテーマです。ティッシュペーパーや紙おむつといった、嵩張るもののお届けなどを今色々と検討中です。

ピンクの看板が目印の「なんでも酒やカクヤス」
(画像=ビジネスチャンス ピンクの看板が目印の「なんでも酒やカクヤス」)