オーナー企業
(画像=vectorfusionart/Shutterstock.com)
澤田 朗
澤田 朗(さわだ・あきら)
日本相続士協会理事・相続士・AFP。1971年生まれ、東京都出身。日本相続士協会理事・相続士・AFP。相続対策のための生命保険コンサルティングや相続財産としての土地評価のための現況調査・測量等を通じて、クライアントの遺産分割対策・税対策等のアドバイスを専門家とチームを組んで行う。設計事務所勤務の経験を活かし土地評価のための図面作成も手掛ける。個人・法人顧客のコンサルティングを行うほか、セミナー講師・執筆等も行う実務家FPとして活動中。

中小企業は日本の企業全体の99.7%を占め、これまでの日本経済発展に大きく寄与してきた。また中小企業の約7割をオーナー企業が占め、オーナー企業が日本経済を支えてきたという側面もある。今回は主に中小企業のオーナー企業の現状や必要な事業承継対策についてお伝えすると共に、大企業における代表的なオーナー企業を合わせてご紹介する。

目次

  1. オーナー企業とは?
  2. 他の中小企業との違いは?オーナー企業の現状
    1. オーナー企業とその他の中小企業との違い
    2. オーナー経営についてどう考えている?
    3. 株主総会は開催している?
    4. 外部株主についてどう考えている?
    5. どれくらい先を見据えて経営をしている?
    6. 経営者の在任期間は?
  3. オーナー企業に必要な事業承継対策
  4. 有名なオーナー企業3選
    1. 1.トヨタ自動車株式会社
    2. 2.イオン株式会社
    3. 3.株式会社セブン&アイ・ホールディングス
  5. オーナー企業では長期にわたる経営者の在任期間中に時間をかけて後継者を育成

オーナー企業とは?

オーナー企業とは、創業者やその親族、創業時のメンバーや大株主個人が社長・会長・相談役等となり経営の第一線に立っている企業を指す。また、株式の保有比率に関わらず創業者等が実質的な支配権を握っている企業を指す場合もある。いずれにしても、オーナーが社長や役員として絶対的な力を持ち、迅速な意思決定等が行える点がメリットと言える。他を寄せ付けない圧倒的な経営手腕を発揮し、カリスマ性を持ったオーナーも存在する。

また親族内で経営・事業承継を行う場合には、数世代にわたって長期的な観点から経営を行うことも可能となる。それに対し、いわゆる「お家騒動」に代表される親族間の争いが起きた場合やオーナーが経営判断を誤った場合は、企業価値が下がるだけではなく、その存続すら危ぶまれるリスクもはらんでいる。

他の中小企業との違いは?オーナー企業の現状

オーナー企業は、他の中小企業と比較して社内体制や経営状況等にどのような違いがあるのだろうか。ここでは調査結果等を踏まえてオーナー企業の現状等をお伝えする。

オーナー企業とその他の中小企業との違い

大企業や上場企業の場合には、一般的に株主が株主総会によって取締役等を選任するため、いわゆる「所有」と「経営」が分離された経営形態が多い。それに対して中小企業の場合は、「株主=経営者」であるオーナー経営企業の割合が高くなっている。中小企業はこのようなオーナー企業を含め、大きく次の3つの企業形態に分類される。

1.外部株主がいないオーナー企業
オーナー経営者やその親族等が株式を保有していて、「所有=経営」となっている企業を指す。非同族の役員・従業員・取引先等、第三者の株主がいない企業である。このため、第三者の影響を受けにくい経営体制となっており、中小企業の約3割を占めている。

2.外部株主がいるオーナー企業
オーナー経営者や親族等の他に、第三者の株主も存在している企業を指す。「所有≒経営」となっており、所有と経営がほぼ一致しているが、外部株主がいないオーナー企業よりは株主の意見が反映され影響を受けやすく、中小企業の4割強がこの経営体制を取っている。

3.オーナー企業でない中小企業
上記2つのオーナー企業以外の中小企業で、「所有≠経営」である企業を指す。中小企業の3割弱がこの経営体制となっている。

オーナー経営についてどう考えている?

上記3つの中小企業が、オーナー経営についてどのように考えているのかを調査した結果がある。いずれの中小企業も約半数が「経営に特に影響はない」と考えているものの、どのような影響があるのかについては意見が分かれている。

オーナー企業は「外部の株主からの要請や牽制を意識する必要がないため、経営にプラスの影響がある」と考えているのに対して、オーナー企業でない中小企業では「外部の株主からの要請や牽制がないために、経営にマイナスの影響がある」と考えている割合が高くなっている。

オーナー企業にとっては第三者からの影響を受けないことをメリットとし、オーナー企業でない中小企業はそれをデメリットとして捉えているということが伺える。

株主総会は開催している?

企業の従業員数によっても異なるが、外部株主がいないオーナー企業は5割弱が株主総会を開催、約4割は開催せずに必要な書面の整備のみ、特に何もしていない企業も約1割存在する。外部株主がいるオーナー企業では6割強~8割弱が株主総会を開催、書面の整備のみの企業は2割程度となっており、第三者の株主を意識していることが数字にも表れている。

オーナー企業でない中小企業は8割以上が株主総会を開催しており、書面の整備のみの企業は約1割と、株主と向き合った経営体制となっていることが伺える。当然のことながら外部株主がいないオーナー企業では「経営者=株主」である場合が多く、株主総会は開催せずに必要な書面の手続きのみを行っているケースが多いものと考えられる。

外部株主についてどう考えている?

どの中小企業についても外部株主の存在について「経営に対する適度な緊張感」「経営の透明性の向上」「適切な経営判断への寄与」をメリットとして挙げている。外部株主がいる企業ではこのような点について実際にメリットとして感じており、外部株主がいないオーナー企業にとっても、今後導入した場合には一定のメリットを実感できるだろう。

一方デメリットとしては、特に外部株主がいないオーナー企業は「迅速な経営判断の阻害」「経営に対する圧力の増加」という点を、また各企業共通で「経営状況の説明業務の増大」という点も挙げている。現状では存在しないプレッシャーや業務をデメリットとして考えており、経営判断にも遅れが生じるというリスクも感じていることがうかがえる。

3つの中小企業のうち、外部株主がいないオーナー企業は「特にデメリットはない」と考えている割合が少ないことも興味深い点である。

どれくらい先を見据えて経営をしている?

3つの中小企業ともに「3年程度」としている割合が一番多い。なかでもオーナー企業については「5年程度」「10年以上」としている割合がオーナー企業でない中小企業と比較して多くなっており、より中長期的な視点で経営を行っていることがうかがえる。オーナー企業でない中小企業の経営者は比較的短期間で結果を求められているという側面も垣間見える。

経営者の在任期間は?

オーナー企業でない中小企業では「3年未満」「5年未満」が合計で約6割を占める。前述の通り業績をシビアに評価されることから、短期間での経営者の交代が多くなっており、10年以上在任しているケースは2割にも満たない。

それに対してオーナー企業では10年以上の在任が約6割を占め、外部株主がいないオーナー企業では20年以上の在任が3割を超えている。オーナー企業であればあるほど長期政権化していることがわかり、株主以外の考えや提言が反映されにくいという弊害が考えられるものの、じっくりと腰を据えた中長期的な視点で経営を行っていることが考えられる。

オーナー企業に必要な事業承継対策

このようにオーナー企業については、経営者が強力なリーダーシップを取り、中長期的に経営を行うことが可能となるが、一方で次世代に経営を引き継ぐ準備も中長期的に考えていく必要がある。特にオーナー企業では親族内で事業承継を行うケースが多いため、準備・計画等を事前に策定しておく必要がある。

現経営者を中心に後継者・親族等と共に後継者の選定・育成等を含めた今後の経営計画を作成し、合わせて従業員・取引先・金融機関等の利害関係者へも理解を深めていくことが大切となる。中長期的な経営計画の作成はもちろん、後継者の選定・育成方法・承継時期等、現経営者・後継者の行動計画を作成する。

また親族内での事業承継は相続・贈与とも切り離せない問題であるため、生前贈与の活用や遺留分に配慮した遺産分割の方法等、トラブルを回避するための方策も必要であろう。

前述の通りオーナー企業の場合は経営者の在任期間が長期にわたるケースが多く、その期間に後継者を育成することも充分可能だ。後継者を選定した後に時間をかけて育成し、然るべき時期に事業承継を行えば親族内での事業承継もスムーズに行えると考える。それには現経営者が事業承継に対する意識を高める必要があり、自身が第一線を退いた後の企業の継続について方策を立てることが大切である。

このようにオーナー企業の事業承継は現経営者のリーダーシップと併せて、後継者の育成・遺産分割にまでおよぶ幅広い対策が必要となってくる。

有名なオーナー企業3選

オーナー企業は中小企業だけではなく大企業にも存在する。最後に著名なオーナー企業をいくつかご紹介する。

1.トヨタ自動車株式会社

言うまでもなく日本が世界に誇る大手自動車メーカーである。1937年に豊田喜一郎氏が創業し、現在はその一族である豊田章男氏が代表取締役社長を務めている。章男氏は1984年に入社後2000年に取締役、その後複数の海外本部長・常務・専務・副社長を歴任した後、2009年に代表取締役社長に就任し現在に至っている。創業者の豊田喜八郎氏の孫にあたる人物となる。

2.イオン株式会社

現在は300以上のグループ企業の純粋持株会社である。歴史は古く、岡田惣左衛門氏が1758年に太物・小間物商「篠原屋」を四日市で創業したことが始まりとなる。明治時代に屋号を「岡田屋」に改称後、二度の大戦を経た後、様々な企業と合併・業務提携等を行い1970年に「ジャスコ株式会社」に社名変更を行う。

その後も多くの企業と業務提携・資本提携・合併等を行い、グループ拡大を重ね2001年に「イオン株式会社」に社名変更した。2008年にグループ会社を純粋持株会社体制へ移行させ、現在のグループ体制の基礎が確立された。現在の岡田元也取締役兼代表執行役会長は創業者岡田惣左衛門の8代目となる。

3.株式会社セブン&アイ・ホールディングス

1958年に「株式会社ヨーカ堂」を設立した伊藤雅俊氏の叔父である吉川敏雄氏が1920年に「羊華堂洋品店」を東京都台東区に開業する。その後株式会社デニーズジャパン、後の株式会社セブンイレブン・ジャパンとなる株式会社ヨークセブン、株式会社ヨークマート等、ファミリーレストラン・コンビニエンスストア・スーパーマーケット事業を設立・展開していく。2005年に持株会社である株式会社セブン&アイ・ホールディングスが設立され、その後も様々な企業と業務提携・資本提携等を行い現在に至る。取締役・常務執行役員である伊藤順朗氏は伊藤雅俊氏の次男である。

オーナー企業では長期にわたる経営者の在任期間中に時間をかけて後継者を育成

オーナー企業は、大企業でも創業家の親族が事業を引き継ぐケースが多くみられる。中小のオーナー企業についても創業者の意思を引き継ぎ、長期にわたって事業を継続していただきたいと考える。そのためには経営者がリーダーシップを取り、事業の方向性等を決定していく他、時間をかけて後継者を育成し、然るべき時期に事業承継を行い次世代に引き継いでいくことが必要であろう。

文・澤田朗(相続士・フィナンシャルプランナー)