
企業が職場勤務から在宅勤務への移行を試みようとしても、セキュリティ上の理由から移行が難しいケースがある。在宅勤務ができるかどうかは人材の採用率や離職率をも左右するため、人材確保の面でも大きな影響を与える。
株式会社シーエーシーが2025年1月に提供を開始した在宅勤務見守りAI『まもりも』は、AIが在宅勤務環境を見守り、第三者による「なりすまし」や画面の盗撮などのインシデントを検知して機密情報を守るサービスであり、コールセンター事業者など、様々な企業の在宅勤務移行を推進し得るプロダクトだ。
AIが在宅勤務の環境を見守るこのプロダクトはどのような経緯で生まれ、開発にはどのような苦労があったのか。そして、今後どのような活用法が見込まれているのだろうか。『まもりも』の開発者であり、プロダクトオーナーを務める新規事業開発本部の平山智隆に話を聞いた。
大学卒業後、2002年に新卒で株式会社シーエーシーに入社。インフラ環境のシステムエンジニアやプロジェクトマネージャー、RPAサービスの事業責任者を経て2023年に新規事業開発本部に配属。現在は在宅勤務見守りAI『まもりも』のプロダクトオーナーを務めている。
>>まもりも – 在宅勤務見守りAI公式サイト
――これまでの経歴と現在の業務内容について教えてください。

平山 大学卒業後、新卒でCACに入社しました。最初はお客さまのITインフラ環境を運用管理するシステムエンジニアからキャリアをスタートし、のちに同プロジェクトのプロジェクトマネージャーになりました。その後、業務自動化SaaSの技術担当やRPAサービスの事業責任者を務め、今は新規事業開発本部で『まもりも』のプロダクトオーナーを務めています。
――在宅勤務見守りAI『まもりも』の概要や機能について教えてください。
平山 『まもりも』は、在宅勤務環境のセキュリティを高める見守りAIサービスです。パソコンのカメラが捉えた映像をAIが分析し、第三者がパソコンを使う「なりすまし」や後方からの覗き見、スマートフォンのカメラで画面を盗撮している状態などをAIが検知し、パソコンのカメラで状況を撮影するとともに画面をロックして機密情報を守ってくれます。

パソコンのカメラが捉えた映像をAIが分析し画面をロックして機密情報を守る
現状の在宅勤務環境は、業務を委託する側と受ける側がNDA(秘密保持契約)を締結し、その契約どおり安全な場所で秘密性を担保して仕事をしてください、という形の性善説に基づいたセキュリティ対策しかできていません。
そこをAIが自動で見守り、秘密性を担保することで安心して業務を委託できる環境を提供し、在宅勤務を推進できるのが『まもりも』の特徴です。
>>CAC、在宅勤務見守りAI「まもりも」の提供を開始~ 在宅勤務のセキュリティを向上させ、受託可能な業務の範囲拡大を実現 ~
――なりすましや盗撮の状況が発生したときのAIの反応速度はどの程度なのでしょうか。
平山 即座に反応してくれますし、細かい部分は設定でチューニングできます。誰かが後ろを横切るのもNGで、第三者の体が映った瞬間にロックしてほしいというお客さまの要望にも対応できますし、それでは厳しすぎるのでもう少し緩くしてほしい場合はそのように設定することも可能です。
――『まもりも』の開発に至ったきっかけや経緯を教えてください。

平山 当社は長崎にも事業拠点がありますが、現地のBPO※コールセンター事業者の方から相談を受けたのが開発のきっかけです。そのコールセンター事業者さまは人手不足の影響で採用環境が年々厳しくなっていました。センター勤務型のコールセンターは拠点の周辺で人員を募集する必要があり、なかなか人が集まらないためです。
その一方で、在宅勤務可能という条件で募集すると応募率が5倍ぐらいになるらしいのですが、在宅勤務ではコールセンター事業者への委託先がセキュリティ面での懸念があるため、なかなか推進できないという課題があったそうです。
そうした声をきっかけとして開発に着手し、昨年1年間、そのコールセンター事業者さまにプロトタイプを使っていただきながらブラッシュアップし、今年1月にローンチを迎えました。
――開発にあたって特にこだわった点を教えてください。
平山 こだわった点は3つあります。1つ目は軽量化です。『まもりも』は、なりすましや覗き見などのセキュリティインシデント※の発生を検知するよう、バックグラウンドで動き続けます。それによって業務で使うツールに負担がかかってPCの動作が遅くなったり邪魔をしたりしないように、『まもりも』自体の軽量化を図りました。
2つ目は、セキュリティインシデントの発生を確認する管理画面をなるべくシンプルなUIにして、管理者の方が直感的に使えるように工夫しました。3つ目は、なりすまし防止のために最初にオペレーターさんの顔登録をしていただく際の登録をシンプルにしたことです。
一般的な顔登録の場合、左、左上、上、右上と360度それぞれ顔写真を撮らないといけないのですが、それだと大変じゃないですか。『まもりも』は、カメラに向かって顔をぐるりと回すだけで自動的に撮影され、負担なく登録できるようにしました。
オペレーターさんの定着に課題があることから、入れ替わりは頻繁に発生するものとして、入れ替わってもすぐに業務を開始できるよう、手間をかけずに顔登録できるようにしました。
――開発するにあたり、どのような点に苦労しましたか?
平山 開発を進めるなかでいろいろ調べたところ、似たような課題を解決する技術特許が先行特許として存在することがわかり、そこに抵触しないように代替策を探った点は非常に苦労しました。
当社のR&D本部と特許に詳しい専門家の力を借りながら先行特許に抵触しないように作り込み、似て非なる独自の技術を搭載して完成させました。
――『まもりも』というプロダクト名やロゴの由来を教えてください。

平山 『まもりも』という名称は、在宅勤務環境に見守り機能をプラスすることで、在宅勤務でも委託業務を受託可能にするという意味を込めて考えました。見守りの「まもり」とリモートワークの「リモ(りも)」を掛け合わせた言葉ですね。
ロゴは、AIを模したロボットが、家で仕事をしている人を優しく見守り、包み込んでいるようなイメージでつくりました。『まもりも』はリモートワーカーを監視するものだと誤解されがちなのですが、監視カメラとは違って常時録画はしていません。インシデントを検知したときだけ記録するために動いている仕組みなので、監視しているのではなく見守っている、ということを伝えるイメージで作りました。

中央にいる人をロボットが両手で守っている様子をロゴに込めている
――2025年1月14日のローンチから数ヵ月が経過しましたが反響はいかがでしょうか。
平山 在宅勤務を推進して採用率を高めるために導入したいというお客さまは一定数いらっしゃいます。また、コールセンターの中には深夜から早朝にかけての勤務が発生するところもあります。出社するのが物理的に難しい夜間勤務に向けて導入したい、というニーズがあることもわかりました。
採用率の向上だけでなく、離職率の低下のために導入を検討されるお客さまがいらっしゃるのもローンチ後にわかったことです。そして、これもお客さまと会話していてわかったことなのですが、セキュリティを担保しながら在宅勤務を推進したいと考えている企業は、Web会議のシステムを立ち上げたままにし、管理者の方がワーカーさんの顔を確認できる状態にして作業をされているそうです。
『まもりも』はAIが起動しているので管理者の方が見続ける必要はありませんし、管理者の方にずっと見られることもないのでワーカーさんにとっても抵抗は少ないのではないかと考えています。

――新規事業開発のアイデアはどのように着想するのでしょうか。
平山 皆さまが抱える課題の解決を事業にするという考え方なので、社外の方に会って会話を重ね、課題を聞き出して、そこからアイデアに繋げるというやり方をしています。これは新規事業開発経験のある同僚から教わったやり方で、最近になって実践し始めました。
社外の方と会って話をして、もし課題が出てきたら、他の方も同じ課題を抱えているかどうか、つまり一般的な課題かどうかを検証します。一般的な課題であれば、解決策を提供すれば複数の方の役に立つはずなので事業化できるだろう、ということで、そこから事業として検討していきます。
――現状で課題のストックは手元にいくつかあるのでしょうか。
平山 そうですね。それを途絶えさせないように、いろいろな方に話を聞き続けている感じです。「新規事業は十中八九失敗する」とよくいわれます。裏を返すと、5回から10回チャレンジすれば1~2回ぐらいは成功する、ということだと思います。
課題が一般的だったとしても、市場規模はあるか、競合優位性は作れそうか、売るためのコンタクト先は当社がリーチしやすい市場かどうかなど、いろいろ考えないといけない要素があります。
アイデアのストックがあっても、それを事業化するまでの間には多くのハードルがあるので、1つだけではなく、複数の課題を並列で取り組むのが望ましい姿なのだろうと思い、なるべくストックを貯めるようにしています。
――煮詰まったときなどはどのようにリフレッシュしているのでしょうか。
平山 新規事業開発に取り組み始めて気づいたのですが、お題を渡されると常にそのことを考えてしまって、そこからパッと解放されることがないんですよね。これはストレスが溜まってしまうな、と思い、最近はウォーキングでリフレッシュするようにしています。
歩き始めて2~3kmの時点ではまだ課題のことを考えているんですが、5kmを超えたあたりからだんだんハイになってきて(笑)。体が疲れてくると、その回復にエネルギーを使って頭が働かなくなるので、それで無心になれます。根がストイックなのか、一度に10kmぐらい歩きますね。
――仕事において大切にしていることがあれば教えてください。

平山 “型”を大切にすることですね。新規事業開発という自分にとって新しいことをやっていると自覚し、今までの経験やキャリアが必ずしも役に立つとは思い込まないようにする。わからないことはわからないと自分で認める。わかったふりをすると自分のためにもならないですし、周囲の人にも迷惑をかけてしまいます。
私も会社の中では年長者になってきたので、わかったふりをしていると、みんな指摘できないと思うんですよ。だから我流でやるのではなく、わからないことはわからないと認め、基礎を学び、内省しながら進めていく。そういった“型”を大切にしています。
――『まもりも』の今後の展望、期待することを教えてください。
平山 パソコンの中のセキュリティについては、アクセス制御やアンチウイルスソフトによるウイルス対策などいろいろなものがありましたが、パソコンの外側の、在宅勤務環境のセキュリティ対策については、今までホワイトスペースだったと思います。『まもりも』の提供によってBPO事業者さまは在宅勤務を推進できますし、採用率の上昇や離職率の低下も期待できます。
BPO事業者さまのクライアント企業さまは在宅勤務に対して安心して業務を委託できるようになりますし、現場で働くワーカーさまは、在宅勤務が推進されればライフイベントの発生に伴う休職や離職をしなくて済むようになります。BPO事業者さま、クライアント企業さま、ワーカーさまのいずれにもメリットがある“三方良し”のプロダクトになってほしいと願っています。
――AIの領域は今後どうなっていくと予想されますか。また、その中で取り組んでみたいことも教えてください。
平山 予想がつかないですよね。考えてみてもわからない。一つだけわかっているのは、私がここで予想したとしても、その予想は外れるだろうな、ということです。わからないからこそ、そしてAIがいろいろな環境を変えてくれる可能性があるからこそ、私としては、AIによっても変えられない、普遍的な価値を提供したいと思っています。
手段としてAIを使うことはもちろんありますが、提供する価値は変わらない。人間にとって普遍的な価値を提供できる事業に携わりたいと思っています。

クリックして詳細を確認する
関連記事
・AIによる動画解析の仕組みとは? 導入するメリット・デメリットを解説
・動画解析AIの導入プロセスとは? 5つのステップと注意点、最新の活用例を解説
・AI技術を用いて医療・介護の課題解決 現場の想いを込めた『まもあい』が提供する価値
(提供:CAC Innovation Hub)