
DAO型の組織に参加して議案に投票するには、暗号資産ウォレットやガス代を用意しなければなりません。しかし、多くの人にとって縁遠いものであるため、一部の人しかDAOにアクセスできないのが現状です。
このような課題に向けて挑戦している人物が、株式会社ガイアックス(以下、ガイアックス)の峯 荒夢(みね あらむ)さんです。峯さんの所属するガイアックスでは、誰もが手軽にDAOに参画できるように、DAO組成・運用のオールインワンツールを開発したそうです。
このようなツールを通じてDAOがより身近な存在になると、私たちの暮らしはどのように変化するのでしょうか。
前編では、峯さんのキャリアやガイアックスのweb3・DAO事業について伺いました。後編では、DAOの組成・運用ツール「DAOX(ダオエックス)」や今後の事業戦略について深堀りします。
峯 荒夢(みね あらむ)株式会社ガイアックス Chief web3 officer 日本ブロックチェーン協会(JBA)理事。日本DAO協会RepHolder。 2013年にガイアックスに入社。開発部に所属し、主にスタートアップスタジオから出てきた新規事業のプロダクト開発や運用を行う。ブロックチェーンの国際標準化を検討するTC307/ISO国内検討委員にも名を連ねている。 |
小林 憲人(こばやし けんと) 株式会社NFTMedia 代表取締役 2006年より会社経営。エンジェル投資を行いながら新規事業開発を行う株式会社トレジャーコンテンツを創業。2021年にNFT Mediaを新規事業として立ち上げる。「NFTビジネス活用事例100連発」著者。ジュンク堂池袋本店社会・ビジネス書週間ランキング1位獲得。 |
【真実】なぜDAOの成功にコミュニティの熱量が必要なのか?最新事例をもとに解説
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目次
合同会社型DAOにおける制約とは
小林:前編では、「ぐんま山育(やまいく)DAO」のお取り組みについて伺いました。この「ぐんま山育DAO」は、株式会社の形式を採用しているとのお話でしたね。
2024年4月、金融商品取引法における内閣府令の改正によって、「合同会社型DAO」の設立が法的に認められました。それにもかかわらず、あえて株式会社を選んだ理由は何だったのでしょうか。
峯:法人格を手軽に取得できる点では、合同会社型DAOも有効な選択肢です。しかし、実はいくつかの制約があって、その中で重大なポイントが「出資金額の1倍までしか収益分配をしてはいけない」というルールです。
小林:例えば1万円を出資したら、リターンの上限額は1万円までということですか。このルールは1年間あたりではなく、永続的に適用されるのでしょうか。
峯:その通りです。現在のルールでは、合同会社が設立されてから未来永劫、リターン金額の上限は出資額の1倍までに制限されます。例えば、毎年5,000円相当のワインがもらえるプロジェクトの場合、1万円分を出資したとしても2年で受け取れる上限額に達してしまうわけです。
小林:そうすると、DAOメンバーと共に長期的に育てていきたいプロジェクトでは、合同会社型DAOの仕組みがネックになってしまうのですね。
峯:まさにその通りです。株式会社であれば、「配当」という形で何度もリターンを配布できます。その点が、株式会社を選んだ大きな理由ですね。
小林:大変勉強になりました。
DAOのオールインワンツール「DAOX」

小林:次に、DAOの組成・運用ツール「DAOX(ダオエックス)」について伺います。このDAOXとは、どのようなサービスなのでしょうか。
峯:DAOXは、「DAOのオールインワンツール」と一言で表現するのが最も的確だと思います。
本来、DAOを運営していく上では、以下のようにさまざまなツールが必要です。
・コミュニケーション用のチャットツール
・NFTを発行し、会員権機能を付与するツール
・NFTを保有するためのウォレット
・貢献度に応じてポイントやインセンティブを付与し、管理するシステム
従来は、このような仕組みをDiscordでいくつものプラグインを組み合わせて実現していました。とはいえ、これほど複雑では、システムに精通した上級者でなければDAOを立ち上げられません。
ガイアックスもコンサルティングとしてDAO組成に携わってきましたが、その準備は複雑で人手のかかるものでした。そこで、DAOに必要な機能を一つのツール上ですべて完結できるように開発したのが「DAOX」です。
小林:複数のツールを使い分ける手間がなくなるのは、運営側にとっても、参加者にとっても非常に大きなメリットになりそうですね。DAOへの参加のハードルも下がるのでしょうか。
峯:その通りです。従来はまずメタマスクのような暗号資産ウォレットを作成する必要がありました。一方でDAOXでは、SNS連携で簡単にログインできるため、DAOのURLさえ知っていれば誰でも手軽に参加できるのです。
小林:DAO運営が格段に楽になるわけですね。DAOXについて、これまでにどのような導入事例がありますか。
峯:導入事例のひとつが、DAO型シェアハウス「Roopt DAO」です。このプロジェクトでは空き家をシェアハウスに転用し、DAO形式で物件を運営します。言い換えると、シェアハウスの住人自身がシェアハウスを運営する、という取り組みです。
シェアハウスの運営は従来であれば管理人の仕事でした。しかし「Roopt DAO」では、住人みんなで管理人をやろうというコンセプトに基づき、ルールを定めています。例えば、「トイレ掃除をしたら何ポイント」、「内見対応をしたら何ポイント」といった形でタスクが設定され、実行するとポイントが付与されます。
そして、貯まったポイントでシェアハウスの1ヶ月分の居住権と交換できる、という仕組みもあります。つまり、働けば働くほど、無料でシェアハウスに住めるのです。このようなコミュニティの管理にDAOXが導入されています。
DAOを通じて、資金や人を呼び込む

小林:DAO型の組織と相性の良い事業やプロジェクトには、どのような特徴があるのでしょうか。
峯:相性が良いと感じるのは、空き家再生のような不動産活用です。
空き家を改修しようと銀行に融資を申し込んでも、もともとの物件価値が低いためなかなか申請が通りません。このような場合に、DAOを通じた資金調達は有効です。
小林:すでにあるアセットを有効活用する事業において、DAOとの親和性が高いのですね。この他にはいかがでしょうか。
峯:地方創生の文脈でも、DAOの強みを発揮できます。地方創生を推し進める上での最大の課題が、人手不足です。担い手が少ないため、地方単独でプロジェクトを実行しようとしてもなかなか進みません。
これに対してDAOの場合だと、関係人口という形で都市部や他の地域の人々が参画し、一緒にプロジェクトを盛り上げます。このように、周辺から人を巻き込むという観点でDAOと地方創生は非常に相性が良いです。
小林:それは非常に興味深いですね。DAO組成に関して、どのような業種・業態の企業から問い合わせがありますか。
峯:特にご相談が多いのは、大企業の新規事業部門ですね。その中でうまく活用できそうだと考えられるのは、自社でリアルワールドアセット(現実資産)を保有し、活用方法を模索している会社です。
小林:リアルワールドアセットのように具体的な「モノ」があると、DAO導入のイメージも湧きやすいのですね。一方で、DAOのようにフラットな組織を採用すると、事業者によるコントロールが難しくなります。これについて、企業側はどのように考えているのでしょうか。
峯:ご指摘の通り、大企業としては一定の主導権を維持したいという意向もあります。DAOの良さを理解しつつも、現行の戦略や組織運営の進め方とは合わないと感じられるケースもあるのが実情です。
小林:なるほど。DAO型の組織を構築・運営する上でのポイントを教えてください。
峯:まずは、DAOを正しく理解していただくことが大切です。具体的には、参加者自身も主体的に動く必要があるとの認識を持ってもらう必要があります。受け身の姿勢で待っている人が多いと、DAOの運営は成立しないからです。
小林: 企業が単にDAOの「箱」だけを用意しても、コミュニティは盛り上がらないということですね。積極的に関与し、自ら旗振り役になる覚悟が求められますね。
峯:その通りです。DAOにおいては熱狂という要素が非常に重要で、いかに熱量を生み出して維持できるかが重要なポイントになります。
クラウドファンディングの先にあるDAOというあり方

小林:峯さんから見たDAOやNFTの将来性について、ご意見をお聞かせください。
峯:数多くのプロジェクトに携わった中で実感したのは、クラウドファンディングの進化形としてのDAOの可能性です。
コロナ禍においてクラウドファンディングは積極的に活用されて、社会的に認知を得ました。コロナ禍以前は批判的な意見があったものの、その価値が認められたのです。
とはいえ、従来型のクラウドファンディングでは、成功するか否かはプロジェクトメンバーの活動に依存していました。つまりお金を出した後の出資者は、プロジェクトの趨勢をただ見守っているだけだったのです。
一方でDAOの場合、お金を出すだけでなく、出資者自身も労働力も提供し、「みんなで成功させましょう」という形を実現できます。世の中がこの価値を理解し、DAOが当たり前のように浸透すれば、新しい挑戦が次々と起こってくるはずです。例えば、「〇〇油限定の天ぷら屋さんをやりたい」などこだわりの強いプロジェクトも共感を集めやすくなります。
小林: それは本当に素敵な考え方ですし、ぜひ実現してほしいですね。
DAOを社会へと浸透させるために

小林:DAO型組織を社会に普及させていくにあたり、現状での課題点はありますか。
峯:従来は法整備が追いついていなかったため、資金調達を伴うDAOの設立が困難でした。しかし現在ではこの問題も解消されつつあり、法人格のDAOを設立できる環境が整ってきています。
DAO型組織を社会に浸透させる上で、一定規模の資金調達を実現するプロジェクトが次々に登場することが重要です。そのために、ガイアックスも支援活動に力を入れていきます。具体的には、何千万円、あるいは1億円規模の資金を集めるDAOを設立し、成功事例を増やしていきたいと考えています。
小林:成功事例が増えていけば、さらなるDAO組織の増加につながる、ということですね。
峯: まさにおっしゃる通りです。
小林:ガイアックスのDAO事業に関してだと、今後はどのような戦略を描いているのでしょうか。
峯:まずは、資金調達力のあるDAOをどんどん世に送り出し、成功事例を積み重ねていきます。そのためには、DAOそのものの実績も重要です。そこでガイアックスでは支援先のDAOプロジェクトにKPIを設定し、その目標を追求していくべきだと考えています。
お祭りとDAOの共通点とは

小林:峯さんの個人的なお話について、お伺いします。普段の生活の中で、DAO的な仕組みだと感じた体験はありますか。
峯:DAOの仕組みを研究している時に、「この組織、何かデジャブを感じるな…」と思ってひらめいたのがお祭りだったんです。
小林:お祭りですか、地域行事の。
峯:お祭りは開催日が決まっています。これはルールに該当します。そして、お祭りの作法や手順も細かく定められていて、その通りに進めればいい。ルールが事前に決まっていて、取りまとめ役も毎年交代しながら運営されます。
小林:たしかにDAO的ですね。
今のお話で、私もPTAが思い浮かびました。会長や副会長といった役職が決まっていて、活動内容もルール化されて、年に一度役員が交代しますよね。
私がPTA会長を務めた学校では、ポイント制度が導入されていました。各役割にポイントが割り振られており、ポイントの少ない人は役割を果たさなければならないという仕組みでしたね。
峯:まさに、PTAに足りないのはそのインセンティブ設計ですよね。それを言おうと準備していたら、先に言われてしまいました(笑)。
PTA組織のように「やったら損をする」というイメージから、「やったら得をする」に変えられれば、より円滑な運営ができるようになるはずです。
小林:私が経験したポイント制度は、どちらかというとネガティブなモチベーションモデルに近いかもしれません。峯さんが指すインセンティブ設計は、「やったらやった分だけ得をする」というポジティブなものですね。
例えば、うちの学校では「10ポイント獲得すると永久免除」みたいな制度でした。私は他者の2~3倍のポイントを保有していたので、「このポイント、売れないかな?」と思ったほどです(笑)。極端な話ですが、そのようなインセンティブ設計がDAOの面白さに繋がるのですね。
仕事も趣味も全力投球

小林:これまでビジネスのお話を伺ってきましたが、少しプライベートについてもお聞きします。休日の峯さんは、どのようにお過ごしですか。
峯: 僕は多趣味で、色々と活動しています。例えば、自動車におけるオーナーズクラブコミュニティの運営ですね。
これもある意味でDAO的な活動なんですよ。特定の形式(20系)に乗っている人が対象で、「毎月20日が土・日・祝日に当たった日に集まる」とルールを決めて、もう20年以上続けています。ガイアックスに入社する前から、ある意味DAOを実践していたような感じです(笑)。
最初は僕が幹事として運営していましたが、遠方に引っ越して参加できなくなった時期でも、そのルールは継続していました。他の人が自然と幹事役を引き継いでくれて、これこそまさにDAOのルールベースの世界だと実感しましたね。
小林:趣味と実益が、ある意味で結びついている感じですね。この他に何かご趣味はありますか。
峯:スポーツ観戦も好きですね。阪神タイガースや松本山雅FCのファンでよく観戦に出かけています。常に忙しいので、「趣味も仕事も本気だよね」とよく言われています。
小林:せっかくやるからには、両方とも全力で楽しまないと、ということですよね。素晴らしいです。
最後に
小林:それでは最後に、読者の方へメッセージをお願いします。
峯:今回のお話を聞いて、DAOについてなんとなく理解が深まってきたのではないかと思います。もしご自身の活動について、「DAOにしたらうまくいくんじゃないか」と感じる部分があれば、ぜひガイアックスまでお気軽にご相談ください。
何か足りないものがあって、それをDAOの力で多くの人を巻き込むことによって実現できるかもしれない、と考えていらっしゃる方や不動産系のリアルワールドアセットをお持ちの方は、特に大歓迎です。
小林:本日は長時間にわたり、貴重なお話を本当にありがとうございました。
峯: こちらこそ、ありがとうございました。
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関連リンク
・ガイアックス公式HP:https://www.gaiax.co.jp/ ・ぐんま山育DAO :https://gunma-yamaiku-dao.jp/ ・ガイアックス 公式X :https://x.com/gaiax ・峯 荒夢氏 X :https://x.com/aramsan |