【前編】ガイアックスの峯氏が描く!DAO組成支援で目指す未来とは?

2024年4月、金融商品取引法における内閣府令が改正されたため、国内で「合同会社型DAO」の設立が解禁されました。これにより、法人格を持つDAOを運営できるようになりました。

このような環境下でDAOの設立・運用支援に力を入れている企業が、スタートアップスタジオである株式会社ガイアックス(以下、ガイアックス)です。2025年2月には群馬県庁主導の地方創生プロジェクト「ぐんま山育DAO」を発表するなど、さまざまな団体と共にDAO型の施策を展開しています。

果たしてDAO型のプロジェクトを取り入れると、どのようなメリットを享受できるのでしょうか。

今回はガイアックスでChief web3 officerを務める峯 荒夢(みね あらむ)さんをお招きし、DAOが秘める可能性について伺いました。

峯 荒夢(みね あらむ)株式会社ガイアックス Chief web3 officer
日本ブロックチェーン協会(JBA)理事。日本DAO協会RepHolder。 2013年にガイアックスに入社。開発部に所属し、主にスタートアップスタジオから出てきた新規事業のプロダクト開発や運用を行う。ブロックチェーンの国際標準化を検討するTC307/ISO国内検討委員にも名を連ねている。
小林 憲人(こばやし けんと) 株式会社NFTMedia 代表取締役
2006年より会社経営。エンジェル投資を行いながら新規事業開発を行う株式会社トレジャーコンテンツを創業。2021年にNFT Mediaを新規事業として立ち上げる。「NFTビジネス活用事例100連発」著者。ジュンク堂池袋本店社会・ビジネス書週間ランキング1位獲得。

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目次

  1. シェアリングエコノミーの新たな形を追い求めて
  2. DAOを通じて、人と人をつなげる
  3. ハードウェアからソフトウェアの領域へ
  4. DAOだからこそ実現できる新たな挑戦の形
  5. いかにして、DAOの理念を現実へと落とし込むべきか
  6. 群馬県庁主導の地方創生プロジェクト「ぐんま山育DAO」
  7. 出資者も汗を流し、ワインを愉しむ
  8. 次回予告

シェアリングエコノミーの新たな形を追い求めて

【前編】ガイアックスの峯氏が描く!DAO組成支援で目指す未来とは?

小林:最初に、自己紹介をお願いします。

:私は、峯 荒夢(みね あらむ)です。ガイアックスにおいて「Chief web3 Officer」という肩書きを持っており、web3ビジネスの責任者として活動しています。

小林:具体的に、どのような活動をされているのでしょうか。

:エンジニアである私が技術面からブロックチェーンを深堀りし、シェアリングエコノミーの新たな形を実現させようと取り組んでいます。

ガイアックスでは2015年頃からシェアリングエコノミーの普及に挑戦しており、この事業をさらに加速させるための技術としてブロックチェーンに注目しました。このような経緯があり、私も2015年頃からブロックチェーンに触れてきましたね。

小林:社外でもweb3に関する活動をされているのでしょうか。

:はい。以前はNFTプロジェクトに関与していましたし、web3系スタートアップに対してアドバイスするといった活動も経験しました。

この他に研究開発にも携わっており、早稲田大学と共同でデジタルツインのプロジェクトに取り組んでいます。

小林:かなり広範囲にわたって活動されていらっしゃるんですね。

DAOを通じて、人と人をつなげる

【前編】ガイアックスの峯氏が描く!DAO組成支援で目指す未来とは?

小林:ガイアックスはどのような事業を手掛けている企業なのでしょうか。

:ガイアックスでは「Empowering the people to connect〜人と人をつなげる」というミッションを掲げており、ビジネスを通じて社会課題の解決を目指す会社です。

事業の柱として、主に以下の3つのカテゴリーが存在します。

・ソーシャルメディア
・シェアリングエコノミー
・web3・DAO

まず、1つ目の柱がソーシャルメディアです。企業の発信活動をサポートし、企業と人を繋ぎます。

2つ目が、シェアリングエコノミーです。

人が持っている遊休資産と、それを使いたい人を繋いでビジネスを生み出します。シェアリングエコノミーと聞いてわかりやすい具体例のひとつが、空き家の活用です。自社での展開だけに留まらず、スタートアップへの出資を通じて幅広く拡大してきました。

そして、3つ目の柱としてweb3・DAO事業に挑戦しています。

DAOはまさに人と人をつなげる仕組みの集大成だと言えるでしょう。多くの人をつないで組織が生まれ、お金も回しながらプロジェクトを実施し、収益分配も行える。シェアリングエコノミーの延長線上にDAOが存在するととらえていました。

「これはガイアックスがやるしかないだろう」ということで、2022年頃から新たなビジネスとして取り組んでいます。

小林:シェアリングエコノミーがきっかけで現在のweb3・DAO事業が立ち上がってきて、今や「事業の柱」に並べられるほど注力されているのですね。

web3・DAOの事業について、事業内容を具体的に教えていただけますか。

:DAOに関してだと、DAOプロジェクトの組成支援を手掛けています。企業や自治体から「DAOを作りたい」という相談を受けて、コンサルティングとしてサポートする事業ですね。

小林:なぜ、コンサルティングという形に行き着いたのでしょうか。

:DAOの世界では、従来の仲介事業が成立しないためです。

web3は、事業化がなかなか難しい領域です。既存のシェアリングエコノミーではプラットフォーマーが存在し、マッチングが発生するたびに仲介手数料を得ていました。

しかしDAOの場合、その「中抜き」を極力減らすという思想に基づいているため、今までのビジネスモデルでは成り立たないのです。

小林:そこでキャッシュポイントをずらして、コンサルティングや実務支援といった形で参画されているのですね。

ハードウェアからソフトウェアの領域へ

【前編】ガイアックスの峯氏が描く!DAO組成支援で目指す未来とは?

小林:続いて、ガイアックスに参画されるまでの峯さんのキャリアについて、教えてください。

:前職ではソニーのグループ会社に所属しており、パソコンの設計に携わっていました。ソフトウェアとハードウェアの双方の開発を経験し、12~13年ほど従事しましたね。

小林:パソコンの設計とガイアックスの事業はあまり関連性がないように感じるのですが、どのような動機でガイアックスに参画されたのでしょうか。

:デバイスの垣根を越えて稼働するソフトウェアに対して、大きな可能性を感じたからです。

当時のパソコン開発では、差別化のために高性能なカメラを搭載するなど、ハード面での進化が求められていました。しかし、デバイスの性能が一定の水準に達したため、ハード面での成長が頭打ちになったのです。

ちょうどその時期は、スマホが登場して脚光を浴びていた頃です。さまざまな機種のスマホにアプリがインストールされる状況を目の当たりにして、私自身もハードウェアよりソフトウェアの方が面白いなと思うようになりました。

そこで興味を抱いたのが、ガイアックスという企業です。当時のガイアックスはソフトウェアを活用しつつ、世の中に新しいものを提供していたため、面白そうだと感じて参画しました。

DAOだからこそ実現できる新たな挑戦の形

【前編】ガイアックスの峯氏が描く!DAO組成支援で目指す未来とは?

小林:そもそも、DAOとはどのようなものか教えていただけますか。

:まず前提として、DAOの定義は未だに定まっていません。

web3黎明期に提唱された概念としては、「すべてが分散技術の上に成り立っているもの」です。DAOの組成にあたって「こんな目標を達成したい」というビジョンが掲げられて、そのゴールに進むためのルールが設けられます。要するに、「そのルール通りに動けばビジョンが達成できますよ」という状態を作るのです。

次に、このプロジェクトに興味を抱いた人が自発的にDAOへと参画し、徐々に組織が形成されます。そしてDAOメンバーがルール通りに動くと、勝手にビジョンが達成されるのです。

とはいえ、まったく報酬がない状態ではメンバーの意欲が続きません。そこでDAOには、「これに取り組んだら、報酬がもらえます」というインセンティブ設計が盛り込まれています。このように、人が加入して自律的に活動し、勝手に目的が達成される組織というのがDAOの基本思想です。

小林:なるほど。DAOの具体例として、どのようなものがありますか。

:具体例のひとつとして、イベント運営が挙げられるでしょう。

例えばマーケティングの勉強会を開催する場合、以下のタスクが発生します。

・講師を呼ぶ
・イベント会場を借りる
・集客する
・チケットを販売する
・売上金を運営者で分配する

そこで、それぞれのタスクに対する報酬額を事前に決めておいて、イベント完了後にプロジェクトメンバーにお金を分配する、というのがDAOの基本的な姿になります。

小林:特定のゴールに向けて、報酬とルールをセットで決めておくのですね。このようなプロジェクト運営の形はこれまでにも存在しましたが、DAOならではのメリットはどのような点にあるのでしょうか。

:ブロックチェーン上に刻まれたルールが絶対的である点こそ、DAOならではの強みです。

ブロックチェーンの強みは、誰もが閲覧できて、書き込めて、一度刻まれた情報が改ざんできない点です。このブロックチェーン上にルールを設定しておけば、事前の取り決めが反故にされる心配はありません。また、資金の流れも透明化されます。

従来のプロジェクトでは、参加者全員が主催団体を信用する形で成り立っていました。しかし、約束通りにお金が支払われなかったり、資金が持ち逃げされたりといったリスクもあったのです。

これに対してブロックチェーンであれば、スマートコントラクトによって資金の分配まで自動で確実に履行できます。これが、DAOのそもそもの発想です。

小林:今までは主催者への信用によって成り立っていた部分が、ブロックチェーンによって担保されるのですね。これならば、より多くの人がプロジェクトの発起人になれますね。

DAOの組成では、最初におけるルール作りが重要とのお話がありました。創設時は、発起人がリーダー的な役割でDAO設立に携わる必要があるのでしょうか。

:初期段階では、創始者を軸とした小規模なグループが中心となり、DAOの基盤を固めておく必要があります。この組織をガイアックスでは「準備室」と呼んでいますね。

ただ、あくまで暫定的な枠組みに留めておき、あとから変更できる余地を残しています。将来的に参加する人が投票によってルールを変更できるように、叩き台を準備するというイメージです。

小林:叩き台を作ってそれが機能し始めたら、創始者もDAOメンバーの一員として参画するのですね。株式会社の場合だと創業者は株を保有して経営陣になりますが、DAOでは一般のメンバーと対等な立場で関与するのですね。

いかにして、DAOの理念を現実へと落とし込むべきか

【前編】ガイアックスの峯氏が描く!DAO組成支援で目指す未来とは?

小林:DAOの仕組みについて、詳しく教えていただきました。とはいえ、実際にDAOを設計するのは、相当に難易度が高いのではないでしょうか。

:その通りです。ここまでの説明は理想的なDAOの話であって、世界的に見ても完璧な事例はほとんど存在しません。DAOの理想を崩しつつどこまで現実の世界に寄せられるかが、設計者の腕の見せどころと言えるでしょう。

小林:理想的なDAOの実現を阻む要因は、どのような点でしょうか。

:まず、暗号資産ウォレットの存在が障壁になっています。暗号資産ウォレットを保有して、秘密鍵を管理してという事前準備の段階で多くの人が脱落してしまいます。

また、ガス代(手数料)のコストも問題です。すべての情報をブロックチェーンに書き込むため、操作するたびに手数料が発生します。それこそ、DAO内での投票行為にもガス代が必要です。

この他にも、法律の整備など事業環境の側面も挙げられるでしょう。

小林:経済的なハードルに加えて、操作の難しさがネックになっているのですね。次のパートでは、このような課題に対してガイアックスがどのような手段でDAO組成を支援しているのか伺います。

群馬県庁主導の地方創生プロジェクト「ぐんま山育DAO」

【前編】ガイアックスの峯氏が描く!DAO組成支援で目指す未来とは?

小林:ガイアックスにおけるDAO組成支援の事例として、2025年2月に「ぐんま山育(やまいく)DAO」が発表されました。このプロジェクトの概要について、教えてください。

:「ぐんま山育DAO」とは、文字通り「山」に関するDAOです。群馬の山々というアセットを基盤としてさまざまな事業を展開し、資金と関係人口を創出します。

具体的には、ワイン造りを通して群馬の活性化を目指しています。しかも作るのは一般的なワインではなく、ブドウの栽培方法や育てる場所にまでこだわった特別な一品です。

小林:とても面白そうなプロジェクトですね。どのような経緯で、「ぐんま山育DAO」が発足したのでしょうか。

:きっかけは、群馬県庁がweb3に対して強い関心を抱いていた点から始まりました。

群馬県庁では2022年に「web3推進プロジェクト」が始動し、web3推進室という部署も新設されました。そして、地方創生を目的としてDAOを組成するにあたり、DAOに関するガイドラインの制定を進めていたのです。

このガイドライン制定時に、ガイアックスがサポート役として参画しました。

小林:行政主導によるDAOのガイドライン制定とは、面白い取り組みですね。

:ガイドラインが完成すると、「次は実際にDAOを作ってみよう」と話が進みました。そこで、先行していたワインに関する企画があったため、このプロジェクトにDAOを組み合わせる形で「ぐんま山育DAO」が始動しました。

小林:「ぐんま山育DAO」の現状について、教えてください。

:2025年5月時点で、初期メンバーが集結して資金調達が完了した段階です。DAOによる資金調達を行い、2025年3月31日までにプレ応募で84名の出資者が集まりました。

小林:DAOによる資金調達について、出資者に対してはNFTなどのトークンを配布したのでしょうか。

:いいえ。「ぐんま山育DAO」では株式会社の仕組みを採用しており、出資者に対して株式を発行しています。

小林:株式の議決権が、DAOの投票権と同じ機能を果たすのですね。先ほどのお話にあったように、DAOの理想を世の中の実態に落とし込んだ形ですね。

出資者も汗を流し、ワインを愉しむ

【前編】ガイアックスの峯氏が描く!DAO組成支援で目指す未来とは?

小林:「ぐんま山育DAO」について、今後のビジョンを教えてください。

:素晴らしいワインを造るために、DAOメンバーが一丸となって活動していきます。

ワイン造りの仕事は、ブドウの栽培や醸造だけではありません。ブランディングや情報発信、ラベルのデザインなど、さまざまな業務が存在します。これらのタスクをDAOメンバーが互いに協力して進めていくのです。

このように全員がワイン造りに関与するあり方を、「オーナー兼ワーカー兼ユーザー」と呼んでいます。出資者もワイン造りに参画し、自ら楽しむという1人3役を実現しているのです。

小林:面白そうなプロジェクトですね!今からでも申し込めるのでしょうか。

:はい。今後もDAOメンバーを募集する計画なので、興味のある方は「ぐんま山育DAO」の公式サイトをチェックしてみてください。

次回予告

前編は、峯氏のキャリアやガイアックスのweb3事業についてお伝えしました。

後編では、DAOの組成・運用ツール「DAOX(ダオエックス)」やDAOが秘める可能性について、さらに踏み込んだ内容をお届けします。具体的には、DAOXの機能や開発した背景、DAOによって生まれる新たな挑戦にフォーカスします。

DAO事業のトップランナーである峯氏との対談から、ビジネスのヒントをぜひ見つけてください。後編もお楽しみに。

▶︎YouTubeでの視聴はこちら

関連リンクはこちら

・ガイアックス公式HP:https://www.gaiax.co.jp/
・ぐんま山育DAO   :https://gunma-yamaiku-dao.jp/
・ガイアックス 公式X :https://x.com/gaiax
・峯 荒夢氏 X    :https://x.com/aramsan